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第8話
◆◆◆◆◆
「降りる?」
ハルキに聞かれ翼は頷く。
手を繋いだまま降りるわけにはいかず、ハルキは残念そうに手を離した。
「海………久し振りです」
翼は水平線を見つめながら言う。
「 俺もだな」
ハルキは翼の隣に立つ。
「海はどれくらいぶり?」
「幼稚園ぶりくらいかな?」
ハルキの質問に翼はそう答えた。
「随分来てないんだね。夏とか海水浴とか来ないの?」
「俺、色白だから裸になりたくないんです。それに直ぐに赤くなって痛いし」
そう笑ってみせる。
本当はアキオのキスマークがアチコチにあったりするからだ。
そうじゃない時は元恋人につけられて人前で裸になんてなれない。
「確かにヒロは色白だね」
翼の嘘を信じるハルキ。
「それに……海はじいちゃん思い出すから」
「祖父?」
「いえ、赤の他人です。……でも、凄く俺を可愛がってくれて」
翼が幼稚園までは母親の実家の側に暮らしていた。
実家は海の近くで幼い翼は母親がパートから帰るまで海で遊んでいたのだ。
よく1人で海に居るから大人に声をかけられるようになっていた。
多分、危ないから。
「漁師をしているオジイさんが俺と良く遊んでくれてたんだ……船に乗せてくれたり…あと、漁師仲間のオジサン達も優しくて……俺の為にお菓子とか買っておいてくれるんだ……今思えばお菓子目当てで海に行ってたのかも」
砂浜に座り翼はハルキに語りだす。
「今も漁師してるの?」
翼は首を振り……哀しそうな顔を一瞬見せて、
「死んじゃった……嵐に船を出して……船だけ戻ってきた」
そう答えた。
「漁師仲間が散々探したけど見つからなくって……おばあさん残して……後からおばあさんにお礼を言われたんだ。」
「なんで?」
「オジイさんが楽しそうだったからって……オジイさんは随分昔に子供を海で亡くしてたんだって、当時の俺と同じ歳くらいでオジイさんが帰ってくるのを海で待ってて……誤って海に……だから1人でいる俺を心配して声をかけたんだって……俺はお菓子のお礼に絵を描いた事があって、その絵は家に貼ってあるって……下手くそな絵なのに」
翼はフフっと笑う。
「それから海はきてないんだ」
そう言うとハルキの影が動いて、翼の身体を引き寄せた。
「そっか、ごめんな……海なんて来て」
ぎゅっと抱き締められた。
「どうしたの?ハルキさん……謝らないで」
抱きしめられた翼は笑ってそう言っているつもりだった。
「ヒロ……泣きそうだから」
ハルキの手は翼の頭を撫でる。
泣きそう?
今更………泣くわけないじゃん!
「大丈夫です。それより車戻りません?人が来ましたから」
翼は無理矢理ハルキから離れた。
遠くに人影があったのだ。この距離じゃ何してるかは分からないだろうけど用心の為だ。
「そうだな」
ハルキは翼の身体を持ち上げ一緒に立ち上がる。
◆◆◆◆
「どこか行きたい所ある?」
車を走らせながらハルキは翼をチラリと見る。
明らかにさっきの事を気にしているようだ。
「休みたい」
翼はハルキの太ももに手を置く。
セックスするならサッサとして部屋に戻りたかったのだ。
恋人でもないのにドライブとか無意味だし、どうせ身体目当てだと思っている。
「わかった」
素直に返事をするハルキをみて、やっぱ身体目当てかと思った。
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