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夕さりつ方
「秋白 ?」
自分にとり縋って泣く秋白の姿が、どろりと溶けていく。
半分が黒く不定形なものになり、もう半分は北鹿渡秋白 の姿を保とうとして、たえず変化している。
明らかに秋白ではないそれが哀れに思えて、頭を撫でてやると、その手ごと身体が飲み込まれていく。鼻や口から入り込んでくるそれが体の空洞全てを満たす時、きっと自分は消えてしまうのだろうと思った。
悲しいけれど仕方ない、彼は何年も自分を助けてくれたのだから。
「だめだよ」
懐かしい声が聞こえてきた。
小学生の姿の秋白が、自分と不定形の化け物を見下ろすように立っていた。
その手を取ろうとしたが、秋白は化け物の手を掴み、自分から引き剥がした。
「帰り道はあっちだよ」
景色は母校の小学校の廊下に移り変わっていた。
夕日が差し込んできて、影が長くなっている。確かにそろそろ帰らなければいけない気がしてきた。
秋白は、秋白もどきの手を引いて、無限に続く廊下の奥へ歩いていく。時々こちらを振り返り、手を振りながら。
「さよなら……」
彼らとは反対方向に歩き出す。
夕日が校舎のどこかに乱反射して、目が痛いほど眩んだ。
涙が止まらないのはきっとそのせいだ。
「新美 さん、新美さん」
薄っすら目を開くと、黒い服に襟元の白いカラーが見えた。神父服の黒は死を、白は復活を表すのだということをぼんやりと思い出した。どうやらこの世の境を越えずに済んだらしい。
「新美さん、聞こえますか」
意識レベルの確認のためなのか強めに肩を叩かれる。痛い。
聞こえていると知らせるために少し視線を上にずらすと、出血やあざで多少派手になった烏丸 神父の顔が映り、新美はぎょっとした。きれいに撫でつけた髪も乱れてしまっているが、何故か男ぶりは上がったような気さえする。
「ど…したんだよ、その顔……」
怪我や出血のせいもあるのだろうが、烏丸は珍しく慌てているようだった。新美を見守る視線は最早睨みつけているに等しかったが、その実隙だらけで、頬をつついてもきっと気づかないだろう。
手を伸ばして触れようとすると、全身の筋肉がひきつれるように痛み、その試みは失敗に終わる。
「いってえ……何これ、俺の体、どうなってんの?」
烏丸はその問いには答えず新美をきつく抱きしめた。
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