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第2話 約束と書いて脅迫と読む
「お待たせ」
思ったよりも時間がかからず家の前にタクシーが着いて、那月さんが下りてきた。
さっきの衣装とほとんど同じような革のジャケットに細身のジーンズ、そこにキャップをかぶっただけの姿は、下り姿のスマートさもあってなにかのMVみたいだ。
ちょっと悪い役をやるときは参考にしよう。
「これで合ってる?」
そう言って那月さんが掲げて見せたのは確かに僕のリュック。
明るいところで見れば瓜二つというほどではないけれど、メイクルームの端にあるテーブルの上にまとめて置かれていたものだ。そもそも同じようなものが二つあるとは思っていなかったら、間違えてしまうのは仕方ない。
でも、ありがとうございますとお礼を言って受け取ろうとした手は、なぜか空を切る。
あれ、今なんか避けられた?
「那月さん? これ、那月さんのリュック。良かったです、連絡してもらって」
「いや、そもそも俺が間違えたから」
ともかく荷物を交換しようとリュックを差し出したけど、やっぱり受け取ってもらえない。
なんとなくそわそわするように周りを見回した那月さんは、ウィンクするみたいに片目をつぶって自動ドアの向こうを指さした。
「悪いんだけどちょっとトイレ借りていい?」
「あ、どうぞどうぞ。今開けますね」
なんだ、そのせいでそわそわしていたのか。
その態度の理由にすぐ納得して、手元のリュックを見やってから那月さんを見ると僕がなにを言いたいか伝わったらしい。
「はい、鍵」
「え、あ、どうも」
いや、やけにピンポイントに伝わったらしい。
なぜか那月さんは鍵だけを僕に渡してリュックを肩に背負ったままで。
一応中を確認してから交換するのかなと頷いてまずエントランスの自動ドアを開けた。
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