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第2話

「他のことでは、なんとかならないんですか」 「金でも払う?」  たとえば物とか誰かを紹介するとか。他にも楽しいことならもっとたくさんあると思うんだけど。 「興味ない」  一言で切り捨てた那月さんは、僕を軽々と抑え込んだまま僕の上で悪い顔して笑う。  ドラマでも舞台でも大層悪役が似合うことだろう。ミュージシャンより俳優を目指したらいい。 「せっかく王子様がオメガだなんてとんでもない秘密を知ったのに、それを使わない手はないだろ」  そして残念ながらこれは現実で、僕の上のスキャンダルミュージシャンは愉快そうな笑みを唇に刻んだまま歌うように続けた。 「俺、どうしてか週刊誌の記者とよく会うんだよ。その時に黙ってられるかなぁ。ヒートセックスするって約束があれば、口も堅くなると思うんだけど」  ああ、さっきの言葉は撤回しよう。  しっかりと脅迫された。なんだ。スタンダードな脅し方もするのか。 「…………わかりました」  それ以外の答えがない。それだけの弱みを握られた。 「その約束を飲んだら黙っててくれるんですよね?」  だから僕にできることは、せいぜいその約束が守られるように願うのみ。 「書面にしてもいいけど、それはそっちが困るだろ?」  できないとわかっていることをわざわざ持ち出すあたり、とても意地悪な人だ。  そんなわかりやすい証拠残して困るのは僕だけじゃないか。 「じゃ、約束」  ただ、そんな意地悪な人が次にしたのは、小指を立てて僕の目の前に差し出すことだった。なんとなく、というか反射的に同じように小指を立てると、それを絡めてぎゅっと力を込められる。 「はい、指切りげんまん」 「……そんな可愛い約束の内容じゃないと思うんですけど」  妙にいい歌声での約束は歌手の無駄遣いというかなんというか。もっとそれなりの場所で、ちゃんとした使い方をしてほしい。 「じゃあ内容に合わせてディープキスで約束しようか?」 「しないです。あといい加減どいてくださいっ」  本当に乗っかられているわけではないから重くはないけれど圧迫感がすごい。  求める答えが得られて気が済んだのか、意外と呆気なく僕の上からどいた那月さんは、元の位置に戻り今度こそリュックを返してきた。薬はこれ見よがしにテーブルの上だ。 「で、次のヒートはいつ?」 「予定では明日辺り……なんですか」  きっとちゃんと薬の写真でも撮ってるんだろうなぁとため息をつきながらそれを確保していたら笑われて顔をしかめる。 「この状況で誤魔化そうとしない辺り、真面目な王子様だなと思って。面白いなお前」 「あっ」  そうか。一か月後だとでも嘘をつけば、その間になんとかする方法が思いついたかもしれないのに。  今日は本当に、仕事以外の場面が全部ダメダメだ。そりゃあ笑われもするだろう。

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