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第2話

「それにタイミングの合い方最高ってことは相性いいかもよ、俺ら」 「僕的には最悪です」  思ったことをそのまま口にしたら、わはは、と今度ははっきり声を出して笑われた。撮影の時には見せていなかった愉快そうな顔が本当に気分をへこませる。 「しっかしイケメン王子様なんて呼ばれてる奴、てっきりいけ好かない感じかと思ってたけど、いい意味で裏切られた感じだな。近くで見たら思った以上に顔綺麗だし反応も面白いし、がぜんやる気になったわ」 「全然嬉しくないです」  自分の不甲斐なさに落ち込む僕とは正反対に、上機嫌の那月さんにため息が洩れた。  むしろ本人に会ってやる気を失ってほしかった。脅迫されている相手にやる気になられても嬉しいわけがない。 「褒め言葉なのに?」 「状況によります」 「いいじゃん、オメガの王子様。意外性があって惹かれる」  僕が落ち込むのがどれだけ楽しいのか、那月さんは自分のリュックを取り返すとそこから鼻歌交じりにスマホを取り出した。ついでにもう1つのスマホもテーブルに置く。 「そういうわけだからまた明日、と帰る前に連絡先交換な。ま、電話出なくても住所わかってるから来るけど」 「だから家に届けにきたんですね、那月さん」 「正解。王子様は頭も賢いね。ほら、観念してスマホを出す。5秒以内に出さないとキスして舌ねじ込むぞ。いーち、にー」 「わあああ待ってください!」  完全に那月さんの手のひらの上で転がされながら、まんまと連絡先の交換。  「指切りげんまん!」なんて可愛らしいスタンプ付きのメッセージを送られて、スマホを取り落としそうになった。 「当然このことは誰にもナイショ。俺とお前の秘密ってことで」 「むしろ那月さんに秘密にしておいてもらいたいです」 「それはそっち次第」  立てた小指を見せるオシャレな脅迫でダメ押して、那月さんは今度こそリュックを持って立ち上がった。用件も気も済んだらしい。  こちらはなにも済んではいないけれど、色々と終了した感はある。 「見送りは結構。じゃ、また明日。楽しみにしてる」  颯爽と身をひるがえし、那月さんはそう言い残して我が家を去っていった。ばたんと閉まった玄関のドアの音を聞いて、思わず頭を抱える。  悪夢じゃない証拠に、スマホの中にしっかりと連絡先と可愛らしいスタンプが残っている。  本来なら唯一気を許せるはずの自分の家が、まるで戦場になってしまった気分だ。  ……バレたショックと勢いでとんでもないことを約束してしまったけれど、本当に、どうしよう……?

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