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第3話
「にしても、もったいないなぁ。せっかく綺麗な顔して相手選び放題なんだろうから楽しめばいいのに。……っと、オメガなのはナイショなんだっけ」
「それがバレたからこんな目に遭ってるんですけど」
「じゃ、やっぱりちょうど良かったな。お互いの利害が噛み合って」
「噛み合ってないです!」
那月さんの認識と僕の認識が根本から食い違っているからわかり合うのは難しい。これもアルファとオメガの違いなのだろうか。
なんとなく距離を取りたくなってソファーから立ち上がろうとしたら、目ざとく気づかれて素早く腕が伸びてきた。逃げるより先に手首を掴まれ引き寄せられて、勢いあまって那月さんへと飛び込みそうになる。
それをなんとか堪えたけれど、その動きが面白かったのか那月さんが笑みを漏らした。
しかも手を離してくれない。すごく笑われているあたり、どうもそれほど力を込めているわけでもないらしい。
「オメガだということをバレたくない王子と、オメガのヒートを楽しみたい俺とだったから成立する取引、だろ? 問答無用で周りにバラすんじゃなくて、ヤらせてくれれば黙ってるって言ってんだから。噛み合ってるじゃん」
「……那月さんがいい人だったらそもそも気を遣って黙っててくれます」
「そんな奴逆に恐いだろ。秘密を握ったままなにもしない方が不気味だと思うけど」
「だからって普通は脅しません」
「脅しっていうか、交換条件だろ。難しい話じゃないし」
「むっ……!?」
なんとか手を外そうと足掻きながら、那月さんの言いようにむせてしまった。
難しい話じゃないなんて、やっぱりこの人はとんでもない人だ。
あんな立派な脅しをかけて無茶な約束をさせておいて、なにをカジュアルな話題のように話してるんだこの人。
あと力強いのか僕が弱いのか、ちっとも逃げられないのが今の状況を暗示しているようでとても嫌だ。
「とにかくヒートの兆候は少しもないんで今日は帰ってください。あと手離してくださいっ」
那月さんの目的がヒート中のオメガなら、今の僕はそれに値しない。だからもう用はないだろうとお帰り願いたかったんだけど、叶ったのは手を離すことだけ。
しかも離す前に手の甲にキスされて、驚いて手を引っ込める。王子王子とふざけているからやったことなのだろうけど、そんなこと僕でもしない。
「まあいいからいいから。勝手にくつろぐんで、そっちも勝手にやってて」
「なんで……」
「そのタイミング逃したらもったいないし。本来ならヒート期間ってことは、もしかしたら急に発情するかもしれないんだろ?」
絶対しない、とは言い切れないのがこの体の厄介なところだ。
そして一度こちらがヒートになれば、どんな時でもそれに煽られるのがアルファという種で。
結局自分の家なのにくつろぐ許可を那月さんから得て、首を傾げながらも逃げるように距離を取る。
どうして自分の家でこんなにびくびくしなきゃいけないんだか。
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