12 / 56
第3話
「朝陽、なんか独特な趣味してんな」
「え、あ、なに勝手に見てるんですか!」
とりあえず着替えようかなと力なく寝室にこもろうとした途端、放たれた言葉に動揺した。
いつの間にか那月さんが部屋の中を移動していて、テレビ台の引き出しを開けて覗き込んでいる。今ソファーに座っていたと思ったのに、目を離した瞬間になにをしてるんだ。
いや、勝手にやるとは宣言していたけれど、そこまで即座に勝手にすると思わないじゃないか。
「アイドルはまだしも、戦隊ものとか魔法少女とか動物もの?」
慌てて止めにいった僕をなんとも思わず、勝手に引き出しの中に並べてあるブルーレイを取り出して見る那月さん。
普通、人の家で勝手に引き出しは開けないだろうと思うけど、普通じゃないからこそこの人はここにいるわけで。
その理由を考えると、行動だけで子供みたい、という嘆き方ができないのがなんとも。
「お、これアニマートだろ? 同じ事務所だっけか」
「というか、アニマートがいるから今の事務所に入ったんです」
取り出されるブルーレイやDVDを一つずつ戻しながら訂正を入れる。
アニマートは誰もが知っている三人組のアイドルで、先輩である前に一ファンとして大好きなグループだ。
絶対無敵の正統派アイドル和音 とダンスに秀でたクールな律 、歌とセクシーを率いる響生 の三人は、僕の昔からの憧れで目指すべきアイドル中のアイドルなんだ。
「ふぅん。で、これの誰のファンなわけ?」
「僕は箱推しなんで! 全員のファンです!」
三人ともそれぞれ憧れる部分があって、その三人が集まったアニマートが最高に輝いているから全員好きだと言うと、那月さんは唇の端を片側だけ上げた。
「誰かを好き、じゃなくてみんな大好きって王子っぽいな」
「みんな好きでなにが悪いんですか。三人ともかっこいいんですよ!」
それぞれに魅力があるからそれぞれを尊敬している。
なんならそれぞれに語りましょうか、いや見た方が早いからライブの映像を見ますかと息巻く僕に、那月さんは肩をすくめてから他のタイトルに目をやった。
「で? こっちは? なんかこう、無節操な感じだけど」
「別に僕がなにを好きだっていいじゃないですか」
そうは答えても、次から次に出しては並べる那月さんはちゃんと返さなければそのまま引き出しの中身全部を周りに広げそうな勢いだ。
勝手にやるってこういうことなの?
「……キラキラしてるものが好きなんです」
「キラキラ? 鏡見りゃ十分だろ」
仕方なく素直にその答えを渡すと、意外そうな顔で投げ返された。
その言葉を少し喜んでしまった自分は単純だと思うけど、褒められるのは好きなんだ。この場合、褒めているかどうかは微妙であるのはさておいて。
「好きだからなりたいんです。誰かが輝いてる瞬間って、すごくドキドキするし、見ていて元気になるじゃないですか。そういうの、いいなって」
落ち込んだ時に見ると、こんなにキラキラしている世界があるんだと元気が出る。だから自分も誰かにそう思ってもらえたらと思ってアイドルになった。
ありがたいことに今はドラマやCMにもたくさん出してもらってるしコンサートもできているけれど、まだまだ頑張り途中。だからこそこれからもっと、というタイミングでこんなことになった。
注意が足りない。足りなさ過ぎた。
はあ、と思わずため息をつくと、引き出しを閉じた那月さんは僕の頭をよしよしと撫で始めた。なんで傷つけてきた人に慰められてるんだ。
「ま、頑張れ。ミスは誰にでもある。今回がたまたま致命的だっただけだ」
「それが一番の問題なんです!」
「俺が得したから良しだろ。……あ、そうそう。キラキラで思い出した。鍵」
手のひらの上で転がされているというか遊ばれている僕を象徴するかのように手のひらを出され、虚を衝かれてそれを見つめる。
ともだちにシェアしよう!