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第4話 馴れ合いの味

「ひゃうっ!?」  後ろから突然生暖かいものが首筋に張りついたのに驚いて、変な声が漏れてしまった。  弾けるようにして振り向くと、当たり前といえば当たり前の那月さんがそこにいた。 「なっ、な、な……!?」 「いや、さすが綺麗な首筋してんなって思って。噛みやすそう」  どうやら後ろから僕の首を舐めたらしく、驚きすぎてイスから転げ落ちそうになった。悪気のない笑顔がまたたちが悪い。  今日も今日とてヒートが来ていないというのに家にやってきた那月さんは、我が家のように遠慮なくくつろいでいた。  勝手にソファーに陣取りテレビを見ていたから、諦めてダイニングテーブルの方で作業をしていたんだ。それがいつの間にか忍び寄って来たらしく不意を打たれた。 「なに考えてるんですか! アルファのくせに簡単に人の首筋噛みつくなんて」 「その見た目で焦ってんの面白いな」  なにが面白いのか、まるでいたずらっ子のように笑う那月さん。僕よりも年上だというのに、いたずらして楽しいだなんて本当に子供みたいだ。 「そういや首輪持ってねぇの?」 「持ってないです。そんな、いかにも『オメガです』なんてもの持てないですよ」  確かにオメガならば普通は首輪をつけて自衛する。  もしヒートのときにアルファにうなじを噛まれてしまったら、どんな相手だろうと「番」が成立してしまう。  それは結婚よりも本能的で強く深い絆。  恐いことにたとえ本人の意思がなくても成立してしまうものだから、自分を守るために普通は首輪をつける。  もちろんそれはわかりやすく自分がオメガだと知らせるもので、だからこそ僕はしていない。  周りには僕がオメガだと知らない人ばかりだし、自衛のためとはいえそんなわかりやすい印はつけられない。そもそもそんなわかりやすいもの買うことなんてできない。真雪さんに頼むのも違う気がするし、持っていたとしてもする機会はないし。 「……確かに、王子様アイドルに首輪っつーとちょっと違う方向性になりそうだな」  僕の説明をどう捉えたのか、那月さんは腕組みをしながら神妙な顔で頷いている。  一応首輪の代わりにチョーカーやストール、ハイネックで隠す衣装をさりげなく用意してもらうようにしている。けれどその分家では首周りを緩めるようにしているから、那月さんからしたら無防備に映るのかもしれない。  そもそもこのくつろぎの空間にアルファが入り込んでくる状況を想定していないから仕方がないんだけど。 「で、さっきからなにやってんのお前」  首輪の話はそれで納得したのか、今度は僕の手元を覗きだして肩をすくめる。  どうやら暇らしい。 「アンケート書いてます」 「アンケート?」 「今度出る音楽番組とバラエティ番組2本分、あと雑誌の取材分とファンクラブの会報用と」 「そんなの真面目に書いてんの?」  番組でのトークのために、事前に渡されるアンケート。よくある質問から奇抜なものまで、番組の色に合わせて質問は様々だ。 「那月さんだって書くでしょ?」 「いや、俺はもっとテキトーにさらっと」  那月さんだって音楽番組にも出ているし雑誌にだってたくさん出ているのだから実際書いているはず。 「うわあこんなにびっしりと。真面目かよ」  それなのになぜそんな驚いているのかという理由は、僕の答え方にあったらしい。後ろから手を伸ばして僕の手元の紙を取り上げた那月さんは、それを見てマジかと声を上げた。  一言二言で終わらせると足りないかなと思って毎回できるだけ回答欄を埋めるようにしている。それが那月さんのスタンスとは違うようだ。

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