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第4話

「……でもあんまりエピソード変わり映えしないっつーか面白くねぇな」 「う」 「つーかこれ話古くないか? 学生の時じゃなくて、最近の友達の話とか……なんだよその顔。もしかしていないのか? 友達」  鋭すぎる言葉の刃に傷ついていたら、すぐに二の太刀がやってきて那月さんを見やる。この人のパーソナルスペースってどうなってるんだろう。 「あ、いや悪かった。てっきり一度会ったらみんな友達! 休みの日はバーベキュー! みたいな感じかと思ってた」 「そんな真面目に謝られても困るんですけど。いや、真面目かどうかはさておいて」  寝室の中まで土足で入ってきてから土足厳禁だったことに今気づいた、みたいな顔で訂正を入れられても困る。しかも謝っているようでバカにされていることぐらいさすがの僕でもわかるのですが。 「別に、友達は、いますよ。ただちょっと休みが合わないだけで」 「いやいや言い訳しなくていい。俺が悪かった。そうだよな、オメガだってことを隠してるから、なんとなく距離取ってるうちに誰とも親しくなれなかった的な、な?」  なぜかものすごく可哀想な人扱いで気を遣われている。  けれど正直なところほとんどその通りで、時間を合わせて遊びに行くような相手となるとちょっと思いつかないのが今の僕。  アルファはもちろん、ベータの人相手でもやっぱり秘密は秘密で、どこからどう気づかれるかわからないし、親しくなればなるほどそれを隠していることが後ろめたくなる。  そのせいで自然と距離を取ることになってしまい、一定の距離から近づかないことで友達といっても個人で親しい人はほとんどいない。  そんな僕とは逆に、那月さんは明らかに知り合いも友達も多そうだし、そんな人からしたら信じられないことかもしれない。  ただ、だからといって憐れまれるようなことではないし、那月さんには関係ないのだから放っておいてほしいと思う。 「ま、俺みたいにバレたら困るもんな」  ……隠していた秘密を見つけて即脅してきた人がなにか言っている。  本当ですねと実感の伴った頷きを返して、那月さんの手からアンケート用紙を取り返した。取材用のエピソードからプライベートを探られても困る。すでに誰かさんのせいで最近のプライベートがなかったとしても、だ。 「休みがないのは本当ですよ。だから遊びに行くってのもなかなか」  そもそもこの業界にいてスケジュールが合う相手を見つけることが難しいと思う。平日や休日の区別はないし、動く時間も一般的な世の中とはずれている。  気の合う相手と予定を合わせることの難しさは那月さんだって知っているはず。  だから人のことを友達のいない可哀想な奴だと思わないで下さいと返そうとして、那月さんがこちらを凝視していることに気づいた。 「またまたー。休みがなかったら遊べないだろ? ……え、マジで?」  勝手に隣に座って他のアンケートを眺めていた那月さんの手が止まっている。そこまでぎょっとした顔をするほど意外なことでもないと思うんだけど。 「丸一日の休みっていうのはここ一年……近く、少なくとも半年以上はないです」 「は? マジか。売れっ子アイドル恐っ」 「あ、でも朝だけの仕事だったり、今みたいに本来ならヒート期間の時はあんまり仕事詰めないでもらってるので、そんな働き詰めってわけじゃないですけど」 「休みなしとかマジかよ……遊びなしの人生とかありえないんだけど」 「いや、ほんと、全然そんな感じじゃなくて……! あの、ほら、ちょうど明後日もお昼からの仕事が終わったらその次の日のお昼まで仕事ないんでほぼ一日休みのようなものですし!」  よっぽど予想外だったのか、ものすごいショックを受けたような那月さんの様子に慌てて言葉を重ねる。そこまで驚かれるとは思わなかった。  僕は仕事が楽しくて大好きだから、仕事が詰まっているのはとてもいいことだと思っている。だけど那月さんの思想には合わなかったらしい。別に奴隷のようにこき使われているわけでもなく、毎日楽しく仕事をしているだけなのに。 「明後日?」 「はい、雑誌の取材三本入ってますけど、それを終えたら休みです」 「ふぅん」  少しは心配してくれているんだろうか。それとも心配しているのは別のことか。 「ちゃんと休まないと体に悪いぞ? ヒートの期間狂うとか、絶対そのせいだろ」  香らないフェロモンを嗅ぐように僕の首筋に鼻を寄せる那月さんに、思いっきりつっこめる性格だったらどれだけ楽か。  だってそれは、たぶんあなたのせいですよ?

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