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第4話
「ごちそうさまでした」
なんだかんだで残さず美味しく食べ終わり、両手を合わせて挨拶。
ついでにぺろりと唇を舐めとったらシーフード味でにやついてしまった。
「ふふ、唇までおいしい」
「どれ」
「!?」
「うん、確かに」
「え、な、なにしてるんですか!」
グラスを置いた那月さんが立ち上がり、普通に近寄ってきて普通にキスしてきた。しかも顔を離す前に僕の唇を丁寧に舐めていったから、一緒に香ったほのかなワインの香りに体温が急激に上がった気がした。
なんで普通に話していたはずなのに、そんなにナチュラルに人にキスできるんだ。
王子様王子様と僕のことをバカにするわりには、自分の方がキザな仕草ばかりするじゃないか。ワイン味のキスなんて、ドラマの設定だってしたことがない。
「朝陽が自分の唇がおいしいって誘ってきたから味見」
「誘ってないですし味見とか……ん、あれ、いつの間に名前」
「最初からずっと呼んでただろ」
「あ、そうですよ! なんで名前」
「そっちも『朔也くん』って呼んでもよくってよ? ヤってるときに名字呼びじゃ……まあそれはそれでありか。『王子様と敬語セックス』とか、なんかのエロいタイトルみたいだな」
そういえば最初から当然のように名前で呼ばれていた。その時に指摘できるほど余裕がなかったせいで、まるで既成事実のようになっているのがなんとも恨めしい。
距離の詰め方が一足飛びというか、僕には予想もつかない詰め方をしてくるから困ってしまう。
「……僕のこといじめるの楽しいですか」
「楽しい」
そして見事なほどの即答。しかもキラキラと音がしそうなほど明るい笑顔付きだ。しかしあいにくと、これは僕の好きなキラキラではない。
「いやー、朝陽っていつでもにこにこうさんくさい笑顔浮かべてるうさんくさい王子様キャラってイメージだったけど」
「うさんくさいって二度言うほどですか」
「だけど実際話してみたら表情くるくる変わるし変に真面目なのとかずれてんのとか、からかい甲斐ありすぎてたまんない。……それに」
「ひゃっ!?」
「こんな無防備なオメガなかなかいないし」
首の後ろを指先で撫で上げられて、びくりと体を震わせれば本当に楽しそうに笑ってくれる。生粋のいじめっ子なのだろうか。
「そもそも僕のことをオメガとして扱う人がいないので」
「でもオメガであることは事実なんだから、もうちょっと警戒はした方がいいぞ。現になんだかんだで俺に気許してるだろ?」
空になったスキレットとパンが乗っていたお皿とフォークを手に、逃げるようにキッチンに向かったその背に投げかけられた言葉で視線を落とす。
すっかりと食べ終わった跡。確かになんだかんだで馴染んでしまっている。
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