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第4話

「那月さん、普段の僕には興味ないって言いました」 「自分で言うのもなんだけど、あんまり俺のこと軽々しく信じるなよ。嘘かもしれないだろーが。アルファだぞ、俺」  別に信じているわけではないけれど。  オメガであることを黙っててもらう代わりの交換条件だって覚えているし、できることならそれを避けたいとも思っている。  でも人生の経験値的にはどうやったって那月さんには敵いそうにないし、本当に悪い人ではないんだってこともわかってきた。そしてどうやら諦めてはくれそうにないってことも。  それならば、こういう人なんだと慣れるしかないとでも言おうか。  無駄に波に抗って溺れるよりも、いっそ流されて時が過ぎるのを待った方が賢明じゃないかという悟りの気持ちかもしれない。  なにより僕はオメガで、那月さんはアルファで、そういう間柄でしかないのだから。 「ま、無理やりはしないからそこんとこは安心してくれ。合意の上じゃないとお互い楽しくないからな」  この場合紳士というよりかはただの余裕なんだろう。僕が立った席に座ってグラスを傾ける那月さんはとても優雅で、人の家にワインを持ち込んで飲んでいる人とはとても思えない。  でも、僕がオメガじゃなかったら扱いは全然違うんだろう。  那月さんの相手として名前が挙がる女の人はみんな綺麗で華やかな大人の女の人といった感じで、隣に並んだら迫力のあるカップルとして目立つだろう。  そんな人ばかり周りにいる那月さんだから、僕みたいなのがオメガと知って逆に興味を持ったに違いない。なんせうさんくさいと思われていたらしいですし。 「あ、そうだ。明日出かけるから荷物用意しときな」  どうせ珍しいだけのうさんくさい奴ですよ、ともやもやを泡まみれのスポンジにぶつけながら食器を洗っていたらまたもや唐突な言葉が投げつけられた。 「え、なんで」 「なんでじゃねぇよ。言うこと聞け。バラすぞオメガ」 「なんでそんな軽い調子で脅しかけるんですか」  あくまで一般的な問いだったのに、雑に脅されてしまった。言うことを聞くという約束はしていなかったはずだけど、そう言われると従わざるを得ないくらいの秘密ではあるからまいる。  そもそもヒート期間が予定よりずれているせいでこんな時間ができているのだから、その責任はほんの少しだけ僕にあるのかもしれない。ほんの少しだけ。 「……出かけるって、どこ行くんです」 「一泊分の用意して楽しみに待ってな」 「拒否権は?」 「あるわけないだろ?」  詳細もなく拒否権もないお楽しみとは一体。 「仕事が終わったら迎えに来る」  結局それ以上はなにもわからないまま僕はなし崩し的に明日の予約を入れられてしまった。  一泊分の用意。  ……それってもしかして、那月さんと泊まるってこと?

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