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第5話
「とりあえずラーメン二つ、味は?」
「あ、醤油で」
「だと思った。じゃ俺は豚骨で。あと餃子。生ビールと行きたいとこだけどとりあえずウーロン茶で」
散歩がてら歩いてきた商店街の端にあるラーメン屋さん。そこの奥の席を陣取り、那月さんと向かい合わせで遅めの昼食。
ずいぶんと意味ありげな言葉とともに連れられてきたからどこに行くのかと思ったけど、観光地というよりかは地元の人が来そうな場所でほっとした。言われれば確かにこういうところで普通に食事する機会はあまりなかったかもしれない。
お昼を少し過ぎているからか店内に他に人影はなく、僕らが来るまで新聞を読んでいたらしい店のおじさんがあまりにもそれっぽすぎてなんだか嬉しくなってしまう。
まるで高校の帰り道に寄る場所って感じだ。
「あとはもうちょっと駅に近づいた辺りで食べ歩きだな」
「そういえばロケ以外で食べ歩きってしたことない」
「だろ」
色々あるぞ、と挙げられたものだけでお腹が空いて、やってきたラーメンが輝いて見えた。
スタンダードな醤油ラーメン。
好き嫌いはないしどれも美味しいとは思うけど、結局のところシンプルなラーメンらしいラーメンに辿り着いた僕を、那月さんは「さすが正統派」と楽しそうに笑った。
「いただきます。……んんんん、おいしいっ。あ、な……やーちゃんは餃子どうやって食べるタイプ?」
「普通にラー油だけど酢にコショウもおすすめ」
「なにそれ、やってみたい」
「あ、俺のもやるからそっちちょっと食わせろ」
たれの付け比べをしたりラーメンを分け合ったり、まるで本当の友達がするようなノリで食べる食事は本当に楽しく美味しくて、あっという間に食べ終わってしまった。
そこを出てからも同じようなノリで散歩を続けた。
お土産物屋さんが立ち並ぶ商店街を歩きつつ目についたものを食べ、合間にゲームセンターに寄ったり、これぞ温泉街といった感じの射的をしてみたり。昔ながらという感じの駄菓子屋さんを見つけて楽しくなってお菓子を買いすぎたら、こんなに買ってどうするんだと子供みたいに叱られてしまったり。
変装が功を奏したのかそれとも意外性の勝利か、幸い二人ともはっきりと気づかれることはなく思う存分町をぶらつけた。
平日なのと海が観光名所の場所でそちらに近づかなかったのも大きかったんだと思う。
何度か気づかれそうになった時も近くのお店に入ったり路地を抜けたりするたび新しい発見をして、時間が過ぎるのは本当にあっという間だった。
その辺りでやっと那月さんの言う「遊び」の意味を理解した。本当に、僕を遊ばせるつもりなんだ。
たぶんきっかけはあのアンケート。
最近友達と遊んだエピソードがなかったから、こうやって遊びに連れ出してくれたんじゃないかと思う。
本来なら僕らは秘密と約束だけで結ばれている関係で、こんなところで二人でいるのは不自然なはずなのに。
那月さんの行動は強引ながらもどうにも自然で、まんまと乗せられて楽しんでしまった。
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