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第5話

「どうせそのうちヤるんだからこれぐらいで恥ずかしがるなよ」 「一緒に入る必要ないと思うんですけど! 思うんだけど!」 「どっちにしろ部屋の中から丸見えなんだから、視姦されたくなかったらさっさと入ってこいよ。風邪引くぞ」  部屋についている露天風呂に入る時に問題が起きた。むしろ問題にされた。  ガラス張りの露天風呂は洗い場含めて部屋の中から丸見えで、一人で入るのも恥ずかしければ二人で入るのも当然恥ずかしく。  せっかくの温泉を楽しみたくても那月さんがそこで見ているかと思うと急にすごく恥ずかしくなってしまった。  大きさ的には十分二人で入れる余裕があるし、普通にしていてくれればそこまで気にならなかったかもしれないのに、那月さんから余計な言葉が飛んできて意識してしまう。  頭を洗って体を洗って、何気なく温泉につかればそれで終わりだったのに。 「……あんまり見ないでくださいよ」  先に一人で出ようにも今のままじゃ寒いし、あとで一人で入ることもできなさそうだし、ここは思いきって入るしかない。  端に寄って、温まったらすぐ出よう。普通の温泉なら他の人と入るのは全然変なことじゃないのだから。 「別に見られて恥ずかしい体してるわけじゃないんだからさっさと入りゃいいのに。もったいぶってんの?」  ゆっくりとお湯に身を浸からせ端に張りつく僕を見て、那月さんは呆れたため息をつく。  そりゃあ仕事で脱ぐこともあるし、意識の上ではいつ見られても大丈夫なようにはしてある。  だからといってじろじろと見られたいわけでもないから、向かい合わなきゃいけないこのシチュエーションは困る。 「ジム行ってるわりには筋肉ないな」 「いくらやってもつかないんで……つかないんだよ。いくら食べても肉もつかないし」 「確かにその見た目でわりと食うくせに細いよな。でも、そういえば太ってるオメガって見たことないな。それもフェロモン関係あんのかな」  見ないでと言っている僕の言葉が耳に入っていないのか聞く気がないのか、ぶしつけに視線を向けられて敬語とタメ口がぐちゃぐちゃになる。  そもそも周りにバレないようにと使っていた言葉遣いなら、二人になった時点で解除だろう。罰ゲームの回数も厳密に数えているわけではなさそうだし、どうかそのまま忘れていてほしい。 「で、こういうシチュエーションでもムラムラっとは来ないわけ?」 「来ないです。全然」  そりゃシチュエーション的には裸のお付き合いだけど。  日本酒と温泉の熱で温まってはいるけれど、それはヒートの感覚とは違う。  本来ならそろそろヒート期間が終わる頃だけど、よっぽど那月さんから逃げたいのかそういう気配は訪れない。  それを素直に告げると、那月さんは温泉の縁に頬杖をついてほんの少し唇を尖らせてみせた。 「環境が変わればその気になるかと思ったけど」 「え、あれ、じゃあこの旅行はそれが目的で?」 「それも目的」  てっきり思い出作りの優しさかと思っていたのに。  そういえばそんなことしてくれる義理はないのかと当たり前の結論に行き着き、がっくりするやら納得するやら。

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