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第7話

 連れてきてもらった場所だから自分がどこにいるのかわからなくて、それでも少しでもお店を離れようと歩きながらスマホを取り出した。  どこか落ち着けるところで一旦止まろう。こんなところで転んで怪我でもしたら笑うに笑えない。 「ううう……」  混乱している。  今起こったことがよく飲み込めなくて、どうしようもない気持ちを込めてスマホにメッセージを打ち込んだ。 『すごく酔いたいので悪いお店を教えてください』  相手は那月さん。返事が来るかなんてわからないけど、とにかくなにかしないと落ち着けない。  するとすぐに反応があった。それも返信ではなく、電話という形で。 『なんだよ悪い店って』  即座に返ってきた那月さんの声に不覚にも泣きそうになって、ぐっとこらえるように唇を結んだ。一日ぶりに声を聞いただけでなんでこんな懐かしく思えるんだ。 「那月さんが普段行くようなお店です」 『失礼だぞ、おい。なんだ、今外か? よくわかんねぇけどいいから帰れ。さっさとタクシー捕まえて自分の家の住所言って即帰れ。わかったな』 「でも」 『でもじゃない。いいから今すぐ家に帰れ。いいな』 「……はい」  酔って寝てしまいたい気分を問答無用で飲み込まされて、仕方なく言うとおりにタクシーを捕まえた。  確かに那月さんの言うとおり、こんな状態で飲みに行ってもいいことはない。それどころかもっと悪いことになるのは必至だ。  正論だけど正論すぎて、危うく那月さんに責任転嫁しそうになってそんな自分に落ち込む。このもやもやする熱は、熱いシャワーでも浴びて洗い流すしかない。

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