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第7話
「わかったわかった。憧れの人の残念なプライベートに出会って災難だったな。そんな男に誘われるほど魅力的だった自分が恨めしいな」
空腹で飲むな、食えと口の中にピーナッツを放り込まれて、もう遅いですとビールで流し込む。
元々強くないけど、変な酔い方をしているのか顔がかっかする。でもこの際明日に響かなければ少し酔うくらいいいだろう。そうじゃないとうまく眠れない。
「でも、俺も同じようなもんだろ。いいのかよ、こんな気抜いてて」
「那月さんには最初から夢抱いてないんで」
「そういう失礼なこという悪い子からはお酒没収しましょうね」
「あーいじわる!」
「ちょっ、あぶ……っ!」
手の中から缶を取り上げられ、反射的に取り返そうと掴んで引っ張ったら体勢を崩した那月さんがこちらへと倒れてきた。咄嗟に那月さんが手をついたのとお気に入りの柔らかなラグのおかげで転げただけで済んだけど、下手したらお互い頭を打ち付けるところだった。
大丈夫ですかと見上げた那月さんとばちりと音がしそうなほど目が合い、一瞬動けなくなる。
なんだろうこの感じ。なんか、変だ。
「なんか、今日お前さ……」
呟いた那月さんが、ふと頭を下げて僕の首筋に顔を埋めてくる。
「や、くすぐったい……っ」
髪が喉や顔をくすぐってそわそわしてしまう。それだけじゃなく湿ったものが首筋に張りついて、そこからゆっくりと熱が広がっていく気がした。
「那月さん、やばい、僕、すごい酔ったかも。熱くて、くるしい」
ぐるぐると目の前が回る。自分の吐息まで熱がある気がする。吐きそうではないのに胸が苦しくて、体がうまく動かせない。
やっぱり飲みすぎたのだろうか。でも缶一本も開けていないのに。
「ふっ、う……んっ」
いつの間にか首筋にあったはずの唇が唇を塞いでいて、キスをされていることに後から気づく。
この前よりももっとがっつくような激しさに、苦しさに口を開けるとそこに舌が滑り込んできた。ぬるぬるしたものが絡みついてきて、訳もわからず応える。
「おい、起きろ」
頭の芯がぼーっとしてきて思考がうまく働かない。
ただただされる動きについていくだけだった僕を引っ張り上げるように起こした那月さんは、そのまま僕の手を握って立ち上がった。
「こっち」
そして間髪入れずに手を引かれる。痛いくらいの力で手を掴まれたまま足早に歩く那月さんに引きずられるようにして寝室へ入って。
介抱とはいえない乱暴さでベッドの上に放り投げられて、シャツの襟もとを掴まれた。
暗い部屋の中、外からの光で一瞬那月さんの目が鋭く光る。
それを見て、まるで夜の山で獣に会ったかのようにどきりと心臓が鳴った。
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