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第7話

「これ脱げ」  短く指示されて、なにも考えられない僕はその言葉通りボタンを外そうとする。けれど手が震えてうまく外せずにいると、すぐに那月さんがそれを諦めた。 「もういい」 「あっ」  脱げなかったシャツをめくられ、身を屈めた那月さんが胸に唇で吸い付いた。 「ひ、あ……っ、あ、ん」  その瞬間ぴりりと小さな電流が走った気がして、思わず腰が跳ねる。  着替えの時に触れたってそんな風には感じない。……ああ、そうか。感じてるのか。  鈍い頭と感覚に鋭く反応する体がうまく繋がらず、もどかしい思いで那月さんを引っ張る。 「ん」  短く答えた那月さんは、体を起こして自らの服を脱ぎ捨てた。  薄暗い部屋の中でもしっかりと見えたのは、僕がいくらジムにいってもつかなかった男らしい筋肉。思っていた以上に引き締まっている体を見て、心臓が壊れそうなほどドキドキ言い出した。  なにこれ。体が熱い。 「ふ、あっ! あ、なに……? あ、ああ!」 「指だけでいい顔しすぎ」  足の間で指を動かす那月さんの動きは見えないのに、ぐちゅりと差し込まれた指の動きがどうしてだか鮮明にわかる。  探る指の腹が中を撫でるたび腰が疼いて動いてしまう。まるで自分の体じゃないみたいだ。 「そのまんま、力抜いてな」 「ん! あ、ああ……あっ!」  反射的に閉じようとする膝を割って体を滑り込ませた那月さんは、僕の足を抱えるように持ち上げて腰を突き上げるように打ち付けてきた。  ずちゅりとぬめった音が響いてそれと同時に衝撃にも似た快感が体の中を走り抜ける。 「んっ、あ……ひゃ、あ、あっ、ああ」  乱れた呼吸を整える暇も与えられず、那月さんは奥を穿つように激しく突き上げてきた。容赦がない揺さぶりに声が抑えられない。  思考が蕩ける。理性がぐずぐずに溶けて、なくなってしまったみたいだ。  どうしようもなくなって自分の手に噛みついて強引に声を止めようとしたけれど、那月さんにそれを見咎められた。 「こっち」  そしてその手を掴まれ那月さんの体へと回される。  だから僕は那月さんの体にしがみつくようにして、突き上げられるたびにずり上がる体を引き留めた。  今まで感じたことのない気持ち良さに頭がくらくらする。あまりの激しい快感に溺れそうだ。 「あッ!」  その時那月さんの手が体の間に入ってきて僕自身を手荒に扱き始めた。  そのせいですでにキャパオーバーだった脳にいくつもの快感が同時に襲いかかってきて、チカチカと限界のランプが点滅する。 「あ、も、しんじゃう……っあ、ああっ!」 「う、く……っ」  掠れた声での訴えは心の底から出たもので、次の瞬間、本気で感電して死んだかと思った。それぐらいの衝撃だった。  息を詰めて痙攣するように欲を吐き出す自分の次に、抱きついていた那月さんの体が一瞬強張った後に弛緩して、それと一緒に息を吐き出す。  まるで嵐に巻き込まれたように、なにが起こったのかしばらくわからなかった。 「はっ、はっ……はあ……あれ、もしかしてこれって」  今さらだけど、もしかしてこれがヒートなのだろうか。  いつもすぐに薬を飲んでしまうからわからなかったけれど、こんな風におかしくなってしまうものだったのか。 「鈍すぎだろ。すごいぞ、フェロモンの匂い。……つか、もっとわかりやすいもんかと思って油断した。俺としたことが」  どうやら那月さんはわかっていたのか、深く息を吐き出してから上半身を起こした。汗で湿った前髪を掻き上げ、もう一度ため息のように深々と息を吐く。微かに汗で濡れた体が月明かりでキラキラして見えて、目の前が眩みそうなほど興奮した。  それが表情に出てしまっていたのか、那月さんは口元を笑みの形に歪めると、今度はゆるりと腰を動かし始めた。まだ繋がっていた場所から再び重たい熱が広がっていく。 「あっ、はあ……なつきさん」 「甘すぎて脳と理性がどろどろに溶けてく感じ。ちょっと、一回で治めんのは無理」  体の中で一度果てたはずのものが硬さを帯びていくのを感じて、少しだけ晴れたはずの思考がまたピンクの靄に溶けていく気がした。  那月さんも同じことを思っている。それだけで体が熱くなる。 「ん、僕も……っ、まだ、熱い、なんとかして」 「その爽やかな顔でエロい目すんの卑怯なんだけど」  緩やかな動きはすぐに体が求める激しさに変わり、僕と那月さんは初めてのヒートの夜をお互い意識しないまま迎えた。

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