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第8話 山は登れば下山する
朝、妙にすっきりしている頭と反比例する熱っぽい体に違和感を覚えて起きると、目の前に那月さんがいた。
いつもは僕が寝る時間には帰っていたから、こうやって家に泊まったことはない。旅行に行った時にも起こされたから、こんな風に眠っている姿を見るのは初めてで新鮮だ。
すっきりした眉、しっかりした鼻筋、厚い唇、シャープな顔立ちだけど決して冷たくなくて、僕とは真逆の男らしい色気のあるかっこよさ。
ちゃんとヒートを体感するのが初めての僕は当然流されるままだったけど、煽られた那月さんもまた少し余裕がない感じで、オメガのフェロモンがどれだけ本能的かを思い知った。
でもそのおかげか、いつものようにどんよりとした体の不調さはない。
仕事のために抑制剤は必要だろうけど、これほど楽なら普通の抑制剤で平気な気がする。いつも飲んでいる強めの薬は、フェロモンをしっかり抑える分副作用が地味に辛くて困っていたんだ。
秘密を守るためとはいえ、確かに那月さんが言った通りWin-Winだったのかもしれない。
「あ、おはよう……んっ」
その時じっと見つめていた先の那月さんの目が開いて、挨拶しようとした言葉を遮ってキスされた。
そのまま仰向けにされて、あっという間に組み敷かれる。
「一人で爽やかな顔してんなよ。こっちはずっとムラムラしてんだぞ」
眉間にしわを寄せて唸られ、それを示すように下半身を擦り付けられて、その硬さにぞくりとした。どうやら今も気持ち良く寝ていたわけではないらしい。
確かにスイッチがあるわけではないから抑制できていないフェロモンは常にお互いに影響を及ぼしている。
那月さんにキスされて、喉に、胸にと下がっていく唇に少しばかり落ち着いていたはずの体が火照っていくのを感じた。
「んっ、思ったんですけど、昨日の響生さんってこれのせいだったのかも」
「でも、前から可愛いと思ってたとかアルファ同士とか言われたんじゃなかったか?」
「……そうでした」
触れられるたび体が疼く。理性が気持ち良さに勝てない。こんなの今まで一度も経験したことがない。
「でもまあ、前からそう思ってたとしても発露のきっかけはそうかもな。アルファはオメガのフェロモンに抗えないし、こんなに誘う匂い駄々洩れにされたら手出したくもなる」
「んっ、那月さぁん……っ」
辿る指が焦れったくて、那月さんを引っ張ってねだってしまう。
自分からこんな媚びるような甘ったるい声が出るなんて思わなかった。
「まだ時間あるか?」
「ん」
まだ朝早いし、仕事の時間はいつもよりは少し遅い。
なによりこのままじゃいられないと那月さんに向かって両手を差し出すと、それを背に回させてくれた。厚い体が頼もしい。
「終わったらちゃんと薬飲めよ。じゃないと、ちょっとやばい」
「んぅー……っ!」
待っていた場所に挿し込まれる圧迫感に勝る快感に、答えることができずに那月さんの背中に爪を立てた。
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