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第8話

 その後、しっかりと僕が薬を飲んだのを確認してから「また夜に来る」と言い残して那月さんは帰っていった。  夜に来る。  夜に来たら、またするのかな。  そういえば一回とは言っていなかった。ということは、ヒート期間中は毎日するのだろうか。  あんなに頭が真っ白になることを、那月さんと、毎日? 「わあ……」  抑制剤を飲んだからかだいぶ頭の中がクリアになってきて、昨日の痴態を思い出して赤面する。  とりあえず少し落ち着いたからシャワーを浴びよう。  ベッドに腰かけ体の状態を確かめてから足早に風呂場に急ぐ。  ヒート期間中にこんなに体が辛くないのは珍しい。それはたぶん、本来なら体の中に溜まる熱が発散されたからだと思う。  ……でも、薄っすらと想像していた、なにもかもわからなくなるほど本能に支配されるような感じではなかった。  なまじ記憶があるだけに、後からの恥ずかしさがすごい。  ただただ理性が緩くなって、体の奥から湧き上がってくる欲の熱に耐えられなくなる感じ。そもそもそんなものが自分の中にあること自体知らなかったから、これがそうだとすぐに気づけなかったのはだいぶ情けない。  けれどそれこそ本当に響生さんの前から逃げて良かった。大変なことになってしまうところだった。 「……色んな記憶、洗い流せないかな」  頭からシャワーのお湯をかぶっても、昨日のことは何一つとして消えてくれない。それどころかあれこれが思い出されてわあわあ叫びそうになった。  一気に色々なことがありすぎて、どう処理していいのかわからない。  これで約束は守ったってことになるのだろうか。でもまた夜に来ると言っていたし、それってやっぱりそういうことなのかな。よくわからないけどあれで良かったんだろうか。 「セリフ、もう一回入れとこう」  プライベートが仕事に響くのは良くないことだし、せっかく体調がいいんだからちゃんとしないと。  さあ、目を覚まして楽しい仕事の時間だ。

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