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第8話

「昨日はどうでした?」 「は、はい!?」  気合を入れて臨んだ仕事の一歩目、というか車の中での問いにまず声が裏返ってしまったから僕もまだ未熟だ。  なにせとてつもなく後ろめたいことを抱えているものだから、そのワードには過敏になる。  ただ、真雪さんが聞きたいのは当然そのことではなく、その前のことだった。 「響生さん。大丈夫でした?」 「あ、は、はい。酔う前に帰りました」 「それなら良かった。連絡なかったので少し心配してました」 「え、あ、ごめんなさい。気づきませんでした」  慌ててスマホを確認すると、確かに状況を確認するメッセージが届いていた。迎えに行こうかと聞かれている。それを無視した形になっていたから、それは心配もされるだろう。  申し訳ないけれどそれどころじゃなかったんです、と思い返して危うく赤面しそうになった。だからそれが顔に出ないようにそっぽを向いて別の話題を探す。  いや、無理して話題を探さなくても話しておくべきことがあった。 「あの、真雪さん。実は昨日の夜辺りから」 「……響生さん、大丈夫でした?」  語尾を濁してヒートが始まったことを告げると、真雪さんは信号で止まったタイミングで振り返り目を細めて僕を窺ってくる。  周りに人がいなくてもヒートのことをはっきり言わないのは、そういう癖がお互いについているから。どこからバレるかわからないから、オメガに関するような話題は極力口にしないようにしている。  ……それが、あんな凡ミスで那月さんにバレてしまうのだから日頃の努力はなんだったのかという話だけど。まあ注意不足が大変な危機を招くというのを身をもって知ったということだ。 「その時は平気だったと思います。家に帰ってから体調の変化に気がついたので」 「肝が冷える話ですね。やはりもっと注意を払っておくべきでした。前兆があったかもしれないのに」 「いえ、今回はちょっと違う感じで自分でもだいぶ後まで気づかなくて。響生さんと話せると思ってちょっと調子に乗りました。次からはちゃんと気をつけます」 「まあ相手が相手なので今回は仕方がないとは思いますが」  僕のアニマート愛を十分知っている真雪さんは、小さくため息をついて大目に見てくれた。今回ばかりはイレギュラー続きだったから反省はしても後悔はしたってしょうがない。  それに悪いことばかりじゃないんだ。 「それで実は今日かなり体調いいんです」 「おや珍しい。薬はいつものものを?」 「実は一つ軽いんです。飲まなくてもいいくらい。っていうのは言い過ぎですけど」 「良い分にはいいことですけど、心配なので気をつけてくださいね」 「はいっ」  昨日今日のことだから心配されるだろうけど、体調も気分もいいのは本当なんだ。たぶんアルファである那月さんのおかげ、なんてことは決して言えやしないけれど、結果的にはいい作用にはなった。  ただ副作用として、気がつくと那月さんのことばかり考えてしまうのが少し問題だった。

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