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第8話
それから毎晩、那月さんは家に来た。待ってることもあるし、僕が帰ってきてから訪ねてくることもある。
その日一日の他愛無い話をして、気づいたらお互い距離が近づいていて、フェロモンに負けて。
恋人じゃないのにこんなことしていいのか、悩んでいても那月さんに会うと思考が溶けてしまって呆気なくベッドに沈んでしまう。
みんなこうなのだろうか。それとも僕が特別ちょろいのだろうか。
最近は朝、起きた時にすぐ抑制剤を飲んでフェロモンを抑えるようにした。そうじゃないと毎朝……なんて不健全なことになるから。
那月さんには文句を言われるけど約束を破っているわけじゃない。
だからここのところはすっきりとした気持ちでゆっくりと朝を過ごすことができて、パフォーマンスもいい。
元々朝方の僕と違って超夜型の那月さんは、毎回朝早くにだいぶ眠そうな様子で帰っていくのが少々可哀想だけど、僕が気にすることではない。そう言い聞かせている。
……こんな生活も、僕のヒートが終わったら、終わりなのだろうか。
元々はオメガということを黙っていてもらう代わりに、言い方は悪いけど体を差し出したようなものだ。というかむしろそういう目的に適ったからその提案を持ちかけられたんだろう。
つまり、今たまたま交差している路線は、理由がなくなったらまた元の場所に戻っていくということ。
……それが望みだったはずなのに。
日が経つごとに体の軽さの分、気の重さが増す気がする。
昨日なんか、僕の次の日の撮影が早いと知って夜の早いうちに帰っていった。それだけフェロモンが弱まっているということなんだろう。
オメガだとわからないように、という僕の性質上朝に一応抑制剤は飲んだけど、たぶんもういらないぐらい。
「撮影の合間に雑誌の取材が入りますので。写真も衣装のままです」
「はい」
楽屋に着いて、改めてのスケジュール確認。
ドラマの撮影は大体折り返し。ずれたせいでヒート期間がかぶってしまったけれど、この分なら無事に終えられそうだ。
「おや」
先にメイクに、と楽屋を出ようとすると、タブレットを覗き込んでいた真雪さんが声を上げた。
「どうしたんですか?」
「いえ、まあいつものことなんですけど」
微妙に苦い顔でこちらに向けられたタブレットの画面。今日のニュースの見出しがずらりと並んでいる中にある見慣れた名前に息を止めた。
「え……」
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