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第10話 嘘と真実と告白と色々

 那月さんに案内された部屋は、たぶんスイート。  広くて快適そうな部屋の中で一番目立つのは、大きな窓から見える夜景だった。 「わあ、確かに立派な旅行ですね」 「たまにだし、今回はお前を呼ぶかもしれなかったから多少奮発した」  思わず窓に駆け寄って景色を眺める僕の、後ろから手を取った那月さんにソファーに誘導される。 「景色は後。とりあえずここに座って聞け」  リビングがある客室はなかなかないから座り位置が難しい。  とりあえず荷物を置いてソファーに腰を下ろすと、那月さんがグラス二つとワインを持って来てくれた。 「いいか。あれは真実じゃないからな」 「あれって、ネットニュースになってたことですか?」  グラスを渡され、静かに弾けるスパークリングワインを注がれながら思い返す。那月さんと距離を取った理由の記事。  那月さんはワインを一口飲んで口を湿らせてから、スマホを操作してこちらに向けてきた。 「よく見てみろ。見覚えあるだろ?」 「見覚え?」  差し出されたスマホの画面を、身を乗り出して覗き込む。  そこには何度か見た隠し撮りの那月さんが映っている。よく見る格好だから見覚えはあるけれど、それ以外になにかあるだろうか。  探る目でしばし見つめていると、那月さんが持っているのがコンビニのビニール袋だということに気づいた。家の近所にあるコンビニと同じ。 「このコンビニ好きなんですか?」 「ボケてんなよ。こっち。ここ。このマンション、見覚えあるだろうが」 「……もしかして僕の家ですか?」  指差されたのは少しだけ写っているマンションの入り口。それは僕の住んでいるマンションと同じだ。 「もしかしてじゃなくどう見ても朝陽の家に行くところだよ。すぐわかれ」  知っているのは、よく見る格好だからじゃなくて、見た格好だから。その姿とコンビニの袋、そしてビールの缶がフラッシュバックして、やっとそれがいつのものか思い当たった。 「あの日?」 「酒抱えてお前の家に行って、泊まって朝出てくるところを撮られた」  響生さんに誘われてショックで帰り着いた家に来てくれていた那月さん。  そしていつもは夜に帰るのに、ヒートになって、初めて泊まっていった日。その日の写真。 「でも朝陽とは結び付けられなくて、偶然同じとこに他に芸能人が住んでて、それがちょうど俺がCMの曲をやったことある相手だったからあの記事になったんだよ」  確かに僕の住むマンションは芸能関係の人間が住みやすい場所らしく、他にいてもおかしくない。わりと入れ替えが激しいから詳しくは知らないけど、ちょうど那月さんに都合のいい相手がいたらしい。それで熱愛なんて記事を書かれたのか。  僕が思っていた1割ではなく、3割の方。 「正直勘違いでほっとした。だからそのまんまにしておいた。向こうから否定の記事出てたし。思いっきり自分のマンションの入り口だからわかってるもんだと思ってたけど、その後一切連絡なくなるし、ドラマの撮影が忙しいのかと思って日にち置いたけどやっぱ反応ないしでさすがに焦った」  バリバリと自分の頭を掻いて、那月さんはヤケ気味にグラスを呷る。そんな那月さんのスマホを手にソファーに戻り、写真を拡大したり元に戻したりして見つめる。  言われて見れば僕のマンションで、コンビニの袋も認識していたんだから、初見で気づいてもおかしくなかった。いや冷静に見て気づくべきだった。  でもあの時はできなかったんだ。 「だって嘘かもって思ってたのに那月さんがもう行けないって言うから」 「もうじゃない。しばらくって意味だったんだよ。本当のことがバレたらまずいだろ」  旅行の時は離れた場所で待ち合わせていたから平気だったけど、油断して一緒に外に出ていたりしたら意外な繋がりに注目されていたかもしれない。そして那月さんが毎夜通っていた場所がどこか気づかれたかもしれない。それを、那月さんは気遣ってくれたんだ。  そんなこと、全然考えつかなかった。  違う人と噂になっても約束を守ろうとしてくれていたのか。

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