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第10話

「嘘、興味ありありに決まってんだろ。そうじゃなきゃあんな通いつめねぇよ。そっちがその気になってくれたならいくらでもする気あったっての。でも全然ノってこないしヒートは予定より遅れるし、そのくせ勘違いするくらいには懐いてくるし抵抗弱すぎて罪悪感湧くしで割とマジで焦った」  テーブルに手をつきこちらに身を乗り出しながら那月さんが怒涛の勢いで気持ちを話してくれて気おされてしまう。  ちょっと待って、難しい。いっぺんに詰め込まれすぎてうまく飲み込めない。 「えっと……」 「もしかしてピンと来てない?」  那月さんのスマホを手にしたまま頭の中を整理させていると、窺うように眉をひそめられてしまった。 「えっと、それってつまり?」 「……それは天然でやっているのか、それとも俺を追いつめようとしてるのか」  つまりもう会わないっていうことはなくて、嫌われてもいないということ? と辿り着いたことを確かめたくて答えを求めたけど、ひどく難しい顔をされてしまう。  別に僕も困らせようと思って言っているわけではなくて、むしろ僕が困っている。 「んーと、那月さん、ちょっとこっち来てください」  とりあえず僕も言わなきゃいけないことがあるから、それを聞いてくださいと隣に来てもらうことにした。小さなテーブルでも挟んでいると距離がある気がするから。  すぐにテーブルを回って隣に座ってくれた那月さんの分ソファーが沈んで、その感覚にすーっと息を吸い込む。なんだかちょっと舞台に出る前の気分だ。 「僕、那月さんが好きです。たぶん」  まずは大事なことを最初に告げる。  変な始まり方をしたからか、僕の那月さんへの感情は恋愛じゃないと思っていた。けれどそうやって自分の気持ちに名前をつけることによって、すべてのことがそこに収まる気がしたんだ。  ここではっきり言い切れないのはちょっとカッコ悪いかもしれないけれど、この場合は許してもらおう。初心者の特権だ。 「こういう感じで人のことを好きになったことがないからわからないんですけど、でも毎日那月さんのことばっかり考えてるし、当たり前に一緒にいられると思ってたのに今すごく寂しくて」 「お、おい、ちょっと待て」  「恋」かどうかは言い切れなくても、「恋しい」という言い方はぴったりくる。僕は那月さんが恋しい。 「さっき三人に相談したら、全部思ってることを素直に言った方がいいって言われたんです。だから言います。那月さんとの旅行は楽しかったし、那月さんの料理も美味しかったし、那月さんとするのも気持ち良かったです。初めてだから一番って言っていいかわからないけど、でもそれくらいすごかったし、体が楽になって助かりました」 「待てって。落ち着いてくれ。すごいこと言ってるぞお前」  なぜか僕よりも聞いている那月さんの方が慌てている。両手でストップの振りをしているけど、首を振ってその手を握った。  那月さんが本心で話してくれたんだから、僕も本心を話す。 「那月さんと一緒にいるのに落ち着けません。触ってみてください。ほら、すごくドキドキしてる。これって、『好き』って気持ちで合ってますか?」  握った那月さんの手を自分の胸に当てる。表情には出さないようにしているけれど、心臓の鼓動は嘘をつけない。 「……なんつーか、ほんともう、さすが王子様だわ」  しばらくそうしていた後、那月さんは大きく息を吐き出してから額に手を当ててうなだれた。 「俺がここまでうろたえることないぞ、マジで」  あまりそうは見えないけれど、顔を上げて僕を睨んでくる那月さんの耳は微かに赤くて。  こんなに近くにいるのにいまいち感情が読み取れなくて、その目を覗き込んだ。

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