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第10話

「やっぱり、ヒート中のオメガじゃないと興味ないですか?」  答えをください、とじっと目を見つめる僕に、那月さんはとても不機嫌そうな顔でキスをしてきた。 「爽やかな恋愛ものみたいな面すんな。今すぐ抱きたいと思ってるこっちが変態みたいだろーが」  そんな、言いがかりみたいな低音の文句と噛みつくようなキス。  二度三度と噛みつかれて、のけぞった背が肘掛けに当たる。そのままずるずると座っている位置がずれて、那月さんに覆いかぶさられる形になった。  そういえば最初はこの体勢で脅されて恐い人だと思ったんだっけ。 「俺の方が先に好きになったんだから、俺にいいとこ持っていかせろよ。そりゃそっちは違う意味で告白し慣れてるだろうけど」 「好き?」  今、先に好きになった、と言った。  ここまでの経緯は聞いたし、そういうような感じのことを言われた気はするけど、全部ニュアンスではっきりした言葉じゃなった。  だけど今、ちゃんと聞いた。  その言葉に反応して繰り返してしまった僕に、那月さんは一瞬だけしまったという顔をして、それから決意したように表情を引き締めた。 「わかったよ。言うよ。……好きだよ、朝陽」 「ふふふ、良かった。おんなじ気持ちで嬉しいです」 「まさかこの年になってこんなはっきり好きだとか告白すると思わなかったし、相手のことを考えるとも思わなかったよ」  呆れているのか照れているのか、那月さんが苦笑いを浮かべながら僕の頬を撫でる。その手はすごく優しくて、とても秘密を黙っている代わりのとんでもない取り引きを持ちかけた人には見えない。  なにより、あの始まり方でこんなことになるとは、とてもじゃないけど想像なんてつかない。 「本当にお前は俺でいいのか? 自分で言うのもなんだけど、オススメできないぞ? すぐ撮られるしネタにされるし、週刊誌に載るたび『連載』とか言われてんだぞ俺」  自虐ネタなのかなんなのか、那月さんはいつもの強気が嘘のように眉を下げてそんなことを言う。  だから僕は両手を伸ばして那月さんの首の後ろへと回し、そのまま引き寄せるように引っ張った。  那月さんでいいのか、だって?  「スキャンダルになるなら、那月さんとがいい」 「……なんつー殺し文句」  呟いた那月さんの口元は笑っていて、そのまま深く甘いキスに変わる。  何度も何度も口づけられて、ヒート中ではないのに思考が蕩けていく気がした。キスだけでこんな風に甘い気持ちにさせてくれる那月さんはとてもすごい。 「待て。せっかくだからこっち」  広いとはいえここはソファー。抱き合うには狭すぎるからと那月さんに手を引っ張られベッドへと連れていかれる。  見た目からわかる寝心地の良さはすぐに実感することになり、両手を広げても十分なくらいのサイズは残念ながら味わうことになく那月さんの腕の中に閉じ込められた。 「ここからは俺のやり方でやるから王子様は休業して。俺だけの朝陽になってくれ」 「……はい、朔也さん。代わりに、僕だけの王子様になってください」  とってもかっこいい顔でとってもかっこいいことを言われ、嬉しくなって両手を伸ばしながら素直に思ったことを返す。  そうしたら那月さんにものすごい表情をされた。突然口の中に激辛のものでも放り込まれたみたいだ。 「あれ、朔也さん? って、言っちゃダメでした?」 「ああくそ! 心底王子だなもう! もう絶対夜景なんか見せてやるか。ぐだぐだに抱きつぶしてやるから覚悟しとけ!」  なにがどう那月さんのスイッチを入れたのか、突然怒ったように宣言されて服を脱がされる。  せっかく綺麗な夜景が見られる部屋で、ヤケになったのかな? なんちゃって。

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