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第11話 社長が許すとお思いですか?

 那月さんはしばらく黙っていようというスタンスだったけど、僕はちゃんと社長に報告したかった。オメガのことを知っていてもアイドルとして育ててくれた人だし、那月さんの誤解も解いておきたかったし。  だからタイミングを見計らって直接報告しに行こうと決めたところで、その社長に呼び出された。  仕事終わりに真雪さんに連れていかれた事務所には、社長と、そして那月さんがいた。 「……那月さん」 「よう、お疲れ」  疲れたような顔で片手を上げる那月さんは、どこか達観した雰囲気でソファーに座っている。  他事務所のミュージシャンである那月さんが偶然ここにいる可能性は低く、つまりは当事者として呼ばれたということだ。どうやら社長はすべてお見通しらしい。 「お疲れ、朝陽。さあそこに座って」  とても若く見えるけれどそんなはずのない年齢不詳の社長は、よっぽどの場所じゃない限り常にジャージ姿。だというのに不思議と威厳があって、この人の前に来ると自然と背筋が伸びる。  そんな社長は、表面上はにこやかに僕に席を勧めた。  社長のデスクの目の前に一つだけ置いてあるイス。まるで面接が始まるみたい。 「先に那月くんの事情聴取……じゃなくて事情は聴いておいたよ。次は君の番だ、朝陽」  どうも那月さんも先にこの面接形式で事情を聴かれていたらしい。だからこそのあの顔か。 「まさか君が恋人を作るとは思わなかったなぁ」  前置きなくすばりと切り込まれて、小さく息を飲み込む。もうちょっと探られるのかと思ったけれど速球の直球で来られた。 「……あの、なんでわかったんですか?」 「さて、なんでわかったんだっけ?」  ずっと黙っているつもりはなかったし、言おうとは思っていたけれどすでに知られているとは思わなかった。  その理由を問うと、社長は僕の後ろに立っていた真雪さんに向かって呼びかけた。振り返れば真雪さんはいつも通りのクールな表情で後ろに手を組んだまま口を開く。 「朝陽くんはわりと顔に出るタイプなのでなにか隠していることは気づいていましたが、基本的にはそちらから話されるまで探る気はありませんでした。が、期間中に体調が良いというのに引っかかりまして」  仕事の時には具合の悪さは出さないけれど、認識を共有するということで自分の体調のことは真雪さんに話している。ヒートの時は特段注意をするためにどういうコンディションなのかを伝えるようにしていた。  特に僕は強い抑制剤を使っているために、副作用として頭痛と吐き気とだるさが強く出る。それがそうじゃなかったから真雪さんは怪しんだらしい。 「朝陽くんのことなのでまさかとは思いましたが、必要な荷物を取りにマンションに行った時にネスティングしているのを見つけて嫌な予感が確信に変わりました」 「え!?」  予想外に飛び出た単語に驚き、体が飛び跳ねる。それを見てソファーの方の那月さんも驚いたのが見えた。 「自分で気づいてなかったのか?」 「……言われれば、確かにしてたかも」  ネスティングとはつまり、好意を抱くアルファの私物を掻き集めて自分の周りに置いてしまうオメガの特性だ。  していたつもりはなかったけれど、思い返せば枕元辺りに那月さんに借りたままになっていたハットとメガネ、あと忘れていったシャツやタオルを置いていた。  それがあるとよく眠れたからなんとなく置いているつもりだったけど、そうか、僕ネスティングしてたのか。  今さらそのことに気づいて、しかもそれをみんなに知られたことに恥ずかしくなる。  ヒートも遅れて気づくわ、ネスティングしてることにも気づかないわであまりにオメガとしての意識が低い。那月さんに何度もオメガとして注意しろと言われていたのに。  こうなったらむしろ、今までバレなかったのはただの運じゃないかと思うくらいに僕は鈍い。

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