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第11話
「それはそうと、新しい仕事を取ってきました」
「え、あの」
「新しいブランドのアンバサダーの仕事なんだけど、ブランドコンセプトはアリスの世界に紛れ込んだ王子様なんだって。で、色々アピールしてもらうためにまずはブランドのことを知ってもらおうと服とかアクセサリーとかあるんだけど」
その話は終わったとばかりに、社長はさっくり話題を切り替えてオシャレな紙袋をデスクの上に並べだした。
その袋に手を突っ込んで、おもむろにデスクの上に服やアクセサリーを並べていく。白と黒を基調とした、ゴシック調のカジュアルな服の数々。
普段の僕とは方向性の違う服だけど、着て表現したいと思うようなものばかり。あんまり着たことないような種類のものだから楽しそうだ。
……じゃなくって。
「社長!」
「こういうものもあります。色違いもね。オシャレだろう。つけるといいよ。オシャレだから」
僕の呼びかけを無視して社長が袋から取り出したのは数々のチョーカーだった。
あまり派手ではないけれどデザインのしっかりしたチョーカーを差し出されて、とりあえず手を伸ばして受け取る。
太いベルトにリングのついたシンプルなものから、細いバンドがいくつも重なった意外と頑丈なチョーカーまで、確かにオシャレだ。
「アンバサダーになったんだから家にあったって不思議じゃないでしょう」
その言葉にはっとして社長を見ると、ゆったりと微笑まれた。
ああ、そうか。これ、オメガの首輪の代わりなのか。
普段つけていても、家にあってもおかしくないように、それを考えてこの仕事を選んでくれたのか。
……ということはつまり?
「で、それに関する仕事が入ってきてまた忙しくなるので、今の家は引っ越した方がいいと思うんだ。色々行きづらいだろう。ほら、車もマンションの前に停めなきゃいけないしさ。撮られやすいだろう、写真とか」
反対されたはず。
それなのにこの意味ありげなチョーカーは、と窺う僕をよそに、社長はどんどん話を進める。
今の場所も事務所が選んだ家で、快適に過ごしている。それだというのに急に引っ越しなんて。
「時に那月くん。色んなスタジオに行きやすくて防音性が良くて芸能人可の物件なんてちょうどよく知っていたりしないだろうか」
「……知ってます」
なにかを飲み込んだ顔をして、那月さんは慎重に社長の問いに答える。
なぜ那月さんに? 別に物件に特別詳しい人ではないと思うんだけど。
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