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第3章:浮所類 〜卵焼き〜

「ぁ・・・類ッ・・・アァッ、いい。そこッ・・・」 「・・・こんなに感度よかったっけ?」 「んッ、だって、類と、久しぶりだからッ・・・」 3年前にゲイバーで出会ってから 1年前まで1ヶ月に1、2回ほど会っていた元セフレのミトが 久しぶりに「会いたい」と言ってきたので、 土曜日の夕方から会っていた。 ミトは俺と同い年だが160cmあるかないかの小柄で、 プードルのように髪の毛がふわふわしていて 黒目が大きく可愛らしい。 何よりもタイプだし、 セックスの相性も良くて、 セフレとしては最高だったが、 本命彼氏が出来たと言うことで 今日までセフレは解消していた。 1ラウンド終わって、 大の字でベッドの上で少し休んでいると、 ミトは俺の腕に頭をちょこんっと乗っけた。 「彼氏と別れたんだぁ。」 「だろうな。」 「うん。でも、今いい感じの人がいて 付き合えそうだから、 最後に類とやり納めしておこうかなーって連絡したの。」 「へぇ。じゃぁ、当分またミトとは会えなくなりそうだな。」 「当分じゃないよ!もう一生会えないよ!」 「はは・・・」 「笑って!バカにしないでよー! 本気なんだからぁ!!」 「いや、前も同じようなこと言ってたなぁって思って。」 「俺はいつだって真剣なんだからねぇ。 類こそさ、なんで彼氏とか作らないの?」 「特に欲しいって思ったことないから?」 「好きな人は?」 「さっきまではミトが好きだったよ。」 「欲情してる時だけね。」 「正解。」 「類はイケメンに産んでくれた親に感謝するべきだね。 その容姿のおかげで引く手数多だから、 普段寂しいとか感じないんだろうな。」 「そうかねぇ・・・」 「否定しないところが、類らしいけど。 本当に誰かを好きで好きで堪らなくて、 泣くことなんてなさそうだよねぇ。」 「んー どうかな。」 「濁したなぁ!!!」 そう言って、 ミトは俺の上に跨り 俺にキスした。 「そう言う類が俺は好きだけどね、セフレとしては! ねぇ、最後にもう一回しようか。」 「最後になるといいな。」 俺が最後に恋をしたのは、まだ学生の時だ。 今思えば、 あれは恋だったのか、 それにも満たないものだったのか、 正直分からないが、 多分、最初で、最後のものだった。 相手は、高校の時の同級生の黒田悟(くろださとる)。 小柄で、童顔で だけど声だけはやたら大きくて、 先生にはむかったりするなど、ヤンチャな奴だった。 優等生なのにかっこいい、と女子に チヤホヤされていた俺とは違った意味で 目立っていて、 俺も、存在感が強い彼から目が離せなかった。 俺は当時、 典型的な好きな子をいじめてしまうタイプだったので、 彼のことを チビだとか、ガキだとか、バカだとか、 言って、向こうを怒らせてばかりいた。 またそんな怒った顔も好きだった。 黒田と俺は友達と言うよりも犬猿の仲だった。 学校でくだらない絡みをするだけで、 学校外で遊んだりする関係でも 連絡を取るほどでもなく、 高校卒業した後は尚更、 別々の大学へ行ったこともあり、 話すことも、会うことも、無かった。 大学に進学し実家をでた俺は、 医学部の勉強、そして初めての家事などに追われ 最初の1、2年は 恋愛だとか、自分がゲイだとか、 他人のことも、自分自身のことも 考える余裕すらないほど忙しかった。 そんな中、風の噂で、 黒田が高校の時から付き合っていた女子と 結婚をしたと言うことだけは耳に入った時も、 どうせノンケだったしな・・・ と、意外と冷静だった。 勉強にも、家事にもなれ、 心にも余裕ができた大学二年生が終わった春休み、 俺は二年ぶりに帰省した。 その時に偶然 実家がやっている産院の前で、 少し背の伸びた彼と、 産まれたての赤ちゃんを抱いた ふっくらとした彼女の 絵に描いたような幸せそうな姿を見た時に、 急に胸に締め付けらるような痛みがして 生暖かい液体が自分の頬をつたったのを感じた。 彼が結婚をしていたことなど、分かっていたこと。 だけど、実際に 自分には一生訪れない、 そして自分には一生与えられない 彼の「普通の幸せ」を目にしてみると、 思ったよりも、それは俺にダメージを喰らわせるものだった。 未だに彼のことを好きなわけではないし、 もはや彼の顔すらはっきりとは 覚えていないくらいなのだが、 あれ以来ずっと 彼と似たような見た目の子ばかりと寝てきた。 ただ単にそれが自分のタイプだと、 片付けられるが、 無意識に、 あの時の叶わなかった想いを 引きずっているのかもしれない。 だからと言って、 そう言う子達と 付き合いたいと思ったこともなく、 縛られずに 何人とも築ける気楽な関係を楽しんでいた。 ミトとの第二ラウンドも終わり、 ミトがシャワーを浴びている間に、 ピンポーンと、ドアベルが鳴った。 時刻はまだ夜の7時半だったので、 配達か、何かかと思い覗き窓に目を当てると、 日向さんが立っていた。 そういえば、 親子が夕飯を食べにきて 最後に卵焼きを教えると言ったのは 1週間以上前だ。 特にその時に日程を決めたわけでも、 その後会う機会もなかったので、 そのことはすっかり忘れていた。 突然の訪問に、 俺は急いで、部屋着を着て、 ドアを開けた。 「今、大丈夫でしたか?」 「あー・・・はい・・・。 どうしました? もしかして、また爽太君が?」 「あ、いえ・・・違います。 この間焼きそばを入れていただいたタッパーを 返そうと思いまして。」 「あ、そうですか。 別に袋に入れてドアにかけてもらってもよかったのに。」 「・・・そうでしたか。すみません。」 「いえいえ。わざわざご足労かけてしまい、 こちらこそすみません。」 「・・・あ、いえ。どうせ隣なので・・・。 あ、あの」 日向さんが、その後何かを言おうとした時に、 バスルームのドアの開いた音がし、 目の前の日向さんの表情が一瞬にして凍りついた。 俺が後ろを振り向くと、 濡れたままの裸のミトが立っていた。 「あ・・・ヤベェ。」 とミトが、とりあえず前を手で隠し 「いや・・・洗顔をバッグに忘れてさ・・・」 と言い訳を始めた。 日向さんの方を再度見ると、 顔を赤らめて、下を向いていた。 「ちょっと失礼しまーす」 そう言い、ミトはベッドルームに行き 自分の鞄から洗顔を取ると、 「すみませんでしたー」 と気にしていなそうに笑って言い、 バスルームへ戻って行った。 「・・・いや、本当に、なんかすみません。」 「いえ、僕のタイミングが悪くて・・・」 「・・・」 「・・・」 「・・・」 あんな後に何を言ったらいいのか分からない俺と、 ドン引きして何も言えないでいる日向さん。 この空気・・・辛いな・・・。 「では・・・僕は・・・」 しかし、 そう言って、帰ろうとする日向さんの腕を 俺はとっさに掴んでしまった。 自分がゲイなことを隠したいわけでもないし、 ・・・と言うか既にバレていると思うし、 彼に何かを説明をする理由などもないけれど 勝手に体が動いていた。 明らかに困った様子の日向さんに、 俺は握った手を離し、 「あ・・・あの、さっき何か言いかけてませんでした?」 と、とりあえず頭に浮かんだことを訊ねた。 すると 「あー・・・あの、卵焼き、いつ教えていただけるのかと・・・ でも・・・お忙しいようなので・・・」 と、小声で返した。 「・・・覚えていらしたんですね。」 「え・・・? あー・・・まぁ・・・ あれからも全然上達しないので・・・」 「・・・明日! 明日はどうですか? お昼ごろはお暇ですか?」 「・・・え?あ・・・まぁ。」 「では、11時ごろに来てください。」 「・・・はい。」 まさか向こうから言ってくるなんて・・・と思いながら リビングルームのソファーで呆然としていると、 「さっきの誰?」 と下着のみを身につけたミトが 髪の毛をタオルで拭きながら、やってきた。 「隣の人。」 「へぇ、類ってちゃんとご近所付き合いとかしてるの? 笑うんだけど!」 「まぁ、ちょっとあってね。」 「え〜、何々?もしかして、狙ってるの?」 「は?」 「な訳ないか。 あの人、全然、類の好みじゃないもんね。 この間もパープルラビッツの前で見たもんなぁ、 類が前髪系をお持ち帰りしてるの。 でもさ、眼鏡の人って眼鏡とったら、 全然顔の印象が変わる人とかいるじゃん。 俺は意外と好きなんだよねぇ〜、眼鏡男子。」 「へぇ。」 「興味なさげだね。」 「そもそも彼はそう言う対象じゃないから。 ノンケで子持ちだし。」 日曜日、11時ちょうどに、 日向さんは卵のパックを持ち、 爽太君を連れて来た。 「卵ご用意してくださったんですね。 うちにもありますよ。」 「いえ。こちらが教えていただく側なので。」 「そうだ、昨日やってたアニメの映画を録画しておいたので、 爽太君に観せてもいいですか?」 「あ、はい。わざわざすみません。」 「いえ。」 「爽太君、トラえもん観る?」 「観るぅぅ。昨日は早く寝ちゃったから観れなかったんだ! やったー!」 爽太君は早速ソファーの上にダイブした。 「こら、爽太。」 「大丈夫ですよ。」 「すみません。」 録画していたトラえもんを再生すると 爽太君はテレビに釘付けになっていた。 「では、早速始めますか。」 と言い、キッチンのある小さなスペースに入った。 うちのキッチンは、リビングダイニングと分離された 独立キッチンになっている。 他人から生活感を見られるのが嫌な俺の このマンションの部屋を選んだ決め手でもあった。 結構広めのスペースなのだが、 180cm超えの男が二人がいると さすがにいつもより圧迫感があった。 「味付けはどんな感じがいいですかね?」 「あー・・・僕は、しょっぱいのが好きなんですけど、 爽太は甘いのが好きらしく、 甘いのを教えていただければな、と。」 「分かりました。」 そう言い、日向さんの頭の後ろにある棚から 砂糖が入ったケースを取ろうとしたときに、 日向さんの顔と顔が近づいた。 なんとなく、昨日のミトの言葉を思い出すと、 いたずら心と小さな好奇心が急に胸に宿った。 「ちょっといいですか?」 「え?」 俺は、空いている方の手で キョトンとした日向さんがかけている眼鏡の ブリッジを掴み、 ゆっくりと彼の顔から眼鏡を外してみた。 ・・・んー・・・まぁ、 眼鏡を取っても、地味顔だなぁ・・・。 「あ・・・あの・・・」 慌てふためきながら 日向さんは一重蓋をパチクリさせていた。 睫毛は真っ直ぐだけど、意外と長いんだ。 あ、後 色白い顔が 少しずつ赤くなってきて・・・ あー・・・ 確かに、こう言うのはちょっとそそられるかも・・・ って俺は一体、何しているんだ・・・ 我に帰った俺は、咄嗟に眼鏡を返した。 「な、な、なんですか、いきなり。」 「あー、すみません。 友達が、眼鏡の人って眼鏡取ったら 顔の印象変わるって言うんで、 ちょっと気になってしまって。」 「・・・友達って、昨日の・・・方ですか?」 「あ、はい。でもまぁ、友達っていうか・・・まー・・・」 「・・・あ・・・恋人・・・ですか。」 「え?」 「・・・え?」 「違いますよ。 まー俺は男が好きですが、 恋人とかは別にいないんで。」 「・・・あ、・・・」 互いに何を言ったらいいのか分からないような 気まずい空気が数秒ほど流れ、 日向さんはなかなか俺と目を合わそうとしなかった。 あ、もしかして・・・と思い、 ノンケ男性にカミングアウトしたときに 関係を拗らせないため伝えている一言を添えた。 「だからと言って、 別に日向さんのことを狙ってるとかはないんで 安心してくださいね。」 そういうと、日向さんは戸惑いながら 「・・・あ、別に、そんな。僕は・・・あの・・・」 と気を使って言葉を選ぼうとしているのを感じ そんな彼が少しだけ気の毒に思えた。 「・・・卵焼き作りましょうか。」 自分用と日向さん用のボウルをそれぞれ用意し、 日向さんが持ってきてくれた卵を3個ずつ分けた。 日向さんが卵をボウルの角で破ろうとしているのを見て、 「平らな所に、卵の中心を打ち付けたほうが きれいに割れますよ。」 とアドバイスをし、俺の卵で、見本を見せた。 すると、日向さんは、同じように 卵をカウンタートップに打ち付けると、 3つの卵を全てきれいに割ることができた。 「いつも殻が入ってしまうんですけど、 ちゃんと出来ました。」 さっきまで強張っていた表情筋は緩み、 横顔が少し幼く見えた。 「日向さんってお幾つですか?」 「36です。」 「俺よりも三つ上なんですね。」 「え?そうなんですか。 てっきり同じくらいか、 もしかしたら上かも、と思っていました。」 「そうですか?白衣のせいですかね。」 「いや、それだけじゃなくて・・・ 常にどっしり構えていると言いますか・・・。」 「そうですか? 日向さんだって、落ち着いてらっしゃるじゃないですか。」 「僕はただおとなしくて、つまらない人間なだけなんで。」 「いやー、 大きな会社でお勤めされていて、 一人で子育てもしていて、 こうやって爽太君のために 料理も頑張ろうとしているんですから、立派ですよ。」 「・・・僕は、そんな大したものじゃないです。」 顔を(しか)め、意味深げにそう言う日向さんに、 俺は菜箸を手渡し、話題をサラっと変えた。 「それでは、この箸で混ぜていってください。」 「はい。」 「混ぜ終わったら、砂糖を大匙1杯と、 醤油と塩をほんの気持ちだけ入れます。」 「気持ち・・・」 「んー、ほぼ入れないってくらい、少量で良いですよ。 醤油だったら、1、2滴くらいでいいです。 そしたら、また混ぜてください。」 「分かりました。」 卵液が出来上がると、次は焼いて巻く作業だ。 「まず俺が作った卵液で 一通り見せるので、見ていてください。」 そう言い、 卵焼き用フライパンに油をひいて熱し始めた。 我ながら上出来に綺麗な卵焼きを作り終えると、 真剣にその様子を見ていた日向さんは 「すごいです。」 と自身の顔の前で小さく拍手をした。 俺は、使ったフライパンをさっと拭き、 コンロに再び置いた。 「次は日向さんの番ですよ。」 「上手くできる自信がありません・・・が やってみます。」 「サポートしますんで。」 「・・・は、はい。」 そう言い、日向さんは、油を熱したフライパンに、 卵液を少しずつ入れていった。 「もう少し入れてもいいかもですね。」 「はい。」 「混ぜる感じで、 角から中心に箸を動かしていってください。」 「え?あ、はい。」 「四角いフライパンなんで、角から固まっていっちゃうんですよ。 なので、均等に火を通すためにも、 角のかたまりかけているものを内側にやって 中心にあるまだ液体のものを角にやるって感じですかね。」 「はい。」 「あー、いい感じですねぇ。 少し上が半熟の状態が良いので、今の状態で、 奥から手前に箸で巻いていってください。」 「・・・え、あ・・・・・・・」 なかなかうまく行かずてこずっている様子の日向さん。 上がかたまり、 下も焦げそうになり どんどん焦っている。 俺は、助けに入らなければ、と 後ろから支えるように日向さんの手ごと箸を握った。 重ねた手に日向さんは驚き、 肩を大きく上下に震わせ、 後ろを振り向いた。 すると、 背丈が似たようなものなので、 目と目がとても近い距離で合う。 日向さんは、その状況にさらに慌てて、 すぐに顔を前に戻した。 俺の胸に当たる日向さんの背中からは ドクン、ドクンと脈打つ鼓動を感じた。 さっきカミングアウトしたから 変に意識して、ビビらせてしまっているのかな・・・。 困ったな。 「このままだと焦げちゃうんで・・・。」 「・・・は、はい。」 小さな振動を指先にも感じながら、 一緒に卵を巻いていき、 少々焦げながらも、無事卵焼きは完成した。 「出来ましたね。」 体を離れた後の日向さんは げっそりしているように見えた。 「・・・大丈夫ですか??」 「え?・・・あ、・・・はい?」 「もしかして他人から触られるのとか、 苦手でしたか?」 「・・・いや・・・その・・・」 「あー・・・ 男が好きなんて言った後に、 触れられたから、気持ち悪かったんですかね。」 「・・・え!!!・・・・あぁ・・・ いえ!!!そう言うことでは・・・ あの・・・え、っと・・・」 俺のホモネタに 過剰に反応して、慌てふためく姿が なんだか面白く思えてきて、 ついつい揶揄いたくなった。 「そう言うのを生理的に受け付けないとか ざらにありますよ〜。」 「・・・そう言う・・・わけでは・・・」 「ただ、ゲイだからって 男なら誰でもってわけじゃないんですよねぇ〜。」 「あ・・・はい、・・・あの、もちろん・・・です。 ・・・僕は・・・その・・・あの・・・」 あーダメだ。 わざと不貞腐れたように言う俺を どうにか傷つけないようと言葉を選ぼうとしているのか、 何も言えず全然フォロー出来ていないところに、 笑ってしまいそうだ。 「冗談はさておき」 そう言うと、日向さんは 驚きながらも、ほっとした様子を見せた。 「ちょうどご飯も炊き上がったようなので、 お昼ご飯にでもしましょうか。 あとは、ささっとソーセージとブロッコリーでも茹でますね。 少しの間爽太君と一緒にソファーで休んでてもらって良いですよ。」 「大丈夫です、お手伝いします。」 「そうですか? では、飲み物は何になさいますか?」 「・・・なんでも。」 「お昼からお呑みになられますか?」 「あ、いえ。」 「では、冷蔵庫に麦茶があるので、 それを出していただけますか? あと、冷蔵庫の横の棚にコップがありますので、 そちらに入れていただければ。」 「分かりました。」 俺がソーセージやブロッコリーを茹でている間に カトラリーなどもダイニングテーブルに運んでもらい、 ちょうど12時に昼食の時間になった。 爽太君もトラえもんを一時停止し、 ダイニングテーブルの席についた。 「わ〜!美味しそう〜! 手を合わせてください! いただきます。」 前回同様爽太君のその言葉の後に 俺たちも、 「いただきます。」 と挨拶をした。 「わぁ〜!!! 卵焼きがいっぱいある!」 「先生と爽太くんのお父さんが作った卵焼きだよー。 いっぱい食べてね。」 「わー、こっち、パパが作ったんでしょー! 黒くなってる。」 そう言い 爽太君は両方の卵焼きを交互に頬張った。 「んー!僕はパパの方が好き!」 そう言われ、日向さんは 二つの卵焼きを不思議そうに食べ比べをすると 目を大きくし、俺の顔を見た。 「味が違う!?」 「あ、はい。 俺のは、しょっぱいのにしたんですよ。 日向さん、そちらの方が好みって言ってたんで。」 「はい、すごく好きな味です。」 「めんつゆとマヨネーズを入れているんです。」 「へぇ、そうなんですね。いつの間に。」 日向さんは俺の作ったものを、 そして爽太君は日向さんが作ったものばかりを 食べていた。 二人の相変わらずの食べっぷりの良さに 俺はほっこりしながら 日向さんの作った卵焼きを口にした。 爽太君はしばらく食べることに夢中になっていたが、 途中箸を休め 「今度の土曜日にねぇ、 じぃじばぁばのおうちに 僕だけでお泊りに行くんだぁ〜!」 と話し始めた。 「へぇ、良いね。近くに住んでるの?」 「うん!」 「日向さんは一緒に行かれないんですか?」 「実家はマンションなんですが狭くて、 昔は僕の部屋だった部屋も 今は倉庫状態になってしまっているんです。 なので、大人がもう一人泊まれるようなスペースはないんですよ。」 「そうなんですね。 では久しぶりにお一人で寂しいんじゃないですか?」 「・・・まぁ、そうですね。」 「あー、でも、こう言う時じゃないと、 ご友人と遊びに行く機会などないのでは?」 「結婚してから、 あまりそう言う付き合いも減ってしまって、 今更誰かと遊びに行くとかないですね。」 「そうなんですか。」 「・・・はい。」 「よかったら、お相手しましょうか?」 「え?」 日向さんは突然の俺の提案に驚いていたが、 俺は、日向さんとこのように食事をして、 特に盛り上がるような共通の話題などはないが、 意外と居心地が良いと思っていた。 「ちょっと新宿の方で、 気になるタイ料理屋があるんですけど、 一緒に食べにでも行きませんか?」 数秒後、口を開きかけた日向さんの返事を遮るように、 爽太君が 「えーーー!パパたち二人で遊びに行くの? ずるいなー!!!」 と、割り込んだ。 「じゃぁ、おじいちゃんとおばあちゃんちやめて、 先生たちと遊ぶかい?」 俺が笑いながらそう聞くと、 「やっぱり、じぃじばぁばのおうち行くー!」 と子供らしい答えが返ってきた。 「じゃ、先生とパパ、二人で出かけてもいい?」 「うん・・・分かった。 今度、僕も先生とパパと3人で出かける約束してくれるなら!」 「先生は、いいよ。 爽太君、どこへ行くか考えといてね。」 「分かったー!!」 「と言うことなのですが、 どうですか?お付き合いしてもらえますか?」 「・・・あ、はい。」 「では、来週の土曜日、7時頃、 俺その前によるところあるので、 新宿駅のアルタ前で待ち合わせでどうですか?」 「・・・分かりました。」

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