5 / 14

第5章:浮所類 〜その顔〜

「お待たせしてすみません。 早く出たつもりだったのですが 電車が遅延していて。」 土曜日。 夜だとは思えないほどの 明るい照明が照らす新宿アルタの入り口で、 待ち合わせちょうどについた俺の前に 日向さんは、5分ほど遅刻し現れた。 予想通りの地味なグレートーンの服に、 ユユクロの黒いライトダウンを重ねていた。 お洒落とは言い難いが 何を着てもそれなりに決まるのが 俺と同じ長身細身のアドバンテージだ。 「では、行きましょうか。」 「はい。」 俺は日向さんが来るまで眺めていたスマホを 去年新調したアッシュベージュのレザージャケットの ポケットの中に突っ込み、歩き始めた。 アルタから新宿駅の逆方向にある 歌舞伎町手前のタイ料理屋 アイ・タイが目的地。 「今更ですが、タイ料理大丈夫でした?」 「あ、はい。 会社の近くにもタイ料理のお弁当屋があって、 たまに昼に食べたりします。」 「そうですか、よかった。 最近出来たみたいなんですけど、 ここらへんで働いてる友達が よく食べに行くって教えてくれたんで、 食べてみたかったんですよ。」 「・・・僕とで大丈夫でしたか?」 「ええ。その友達は夜の仕事をしていて、 なかなか時間が合わないんですよ。 病院の仲間も、 夜勤とか休日出勤が多い奴が多くて。 なので、付き合っていただいて嬉しいです。」 「そうですか。」 「爽太君は、日向さんと離れることに対して 大丈夫でしたか?」 「あ、はい。 前までは両親とここまで頻繁には会っていなかったのですが、 二人で暮らすようになってからは こうやって預かってもらうことも増えて。 両親もリタイアしていて二人暮らしなもので、 子供がいるだけで退屈から逃れられて 構い尽くしちゃうみたいでして・・・。 なので爽太は僕と二人でいるより楽しいみたいですよ。 ただ最後まで、 先生と出かけるのを いいなーと言って羨ましがってました。」 「そうですか。可愛いなぁ。」 爽太君が、そういじけるように言う姿が 想像できる。 店に着くと、たくさんの人が外に並んでいたが、 ちょうど二人席が空いていたらしく 四人席を待っていた3組を抜かし 待たずに席に座れた。 「とりあえず飲み物・・・ 俺はシンハ・ビールにしようと思うんですけど、 日向さんはどうなさいますか?」 「ああ!タイのビールですよね? 実は飲んだことなくて。」 「口当たりが良くて、タイ料理に合いますよ。」 「そうなんですね。では僕もそれにしてみます。」 ちょうど近くを通ったウェイターに シンハ・ビールを2つ頼み、 俺はテーブルの上に無造作に置かれた 食べ物のメニューを開いた。 「何にしようかなぁ・・・。 いつも会社の近くのお店では何を食べているんですか?」 「もっぱらパッタイですかねぇ。」 「鉄板ですね。 俺意外と、パナンカレーとか好きなんですよ。」 「へぇ。食べたことないです。」 「レッドカレーに近いんですが、 レッドカレーより辛くなくて 食べやすいですよ。」 「試してみようかな。」 「どうせなら、メインを3品ほど頼んで、シェアしませんか? 例えば・・・パナンカレーと、 パッタイと、ガパオライスとか。 日向さん、結構お食べになりますし、 俺も色々食べてみたいですし。」 「それはいいですね。 僕、痩せの大食いなんで。」 「俺は、それなりに管理しないと、 駄目な体質なんで羨ましいです。 女性にも羨ましがられますでしょう?」 「あ、はい。 妻・・・あ、元妻も、よく羨ましがってました。」 今までは爽太君も一緒だったこともあってか 初めて、元妻の話を聞いた。 もう少しその話題について 突っ込んで聞いてみようかな、と思ったが、 タイミングが良いのか、悪いのか、 キンキンに冷えたグラス二つと ビールボトルを2本持ったウェイターが来た。 「シンハ・ビールになります。 ご注文はお決まりでしょうか?」 「あ、はい。パッタイ、パナンカレー、 ガパオライスください。 シェア用に取皿も2つお願いします。」 「かしこまりました。」 ウェイターがテーブルから離れると、 それぞれグラスにビールを注いた。 「では、乾杯しましょうか。」 と俺はグラスを持ち上げ、 同じく上がった日向さんのグラスに それを軽く当てた。 日向さんは前にうちに来たときの様に グビグビと最初の一杯を飲んでいた。 「いい飲みっぷりですね。どうですか?」 「さっぱりしてて美味しいです。」 「ビールお好きなんですね。」 「会社に入る前までは全然飲めなかったんですけど、 自社の商品を知るためにも 毎日飲んでいたら、その美味しさに気付いて。 最近は特に最初の一口が美味しく感じる様になって。」 「俺も、ビールを好きになったの、 研修医時代でしたねえ。 それまでは付き合いで飲んでた感じがあったのですが、 ある日突然美味しいと思う様になって。 なんなのでしょうね。不思議ですよね。」 混んでいることもあって、 なかなか食べ物が届かない間、 飲みながら主に爽太君の話をしていると、 「ご注文の品お持ちしました。」 と、ナンプラーやココナッツなどの タイ料理独特の香りを纏った湯気が立つ ボリューミーな3品が 追加のビール瓶二本と共に運ばれてきた。 「美味しそうですね。」 「どうぞ先に食べたいものから 装っていっちゃってください。」 「あ、はい。 ではカレーから食べてみます。」 「じゃー、俺はパッタイから行こうかな。」 新宿の美味しいものを食べ尽くしてきた ヒデママのお勧めだけあって どれを食べても、美味だった。 それぞれを4分の1ほどずつ食べると お腹一杯になってきた。 一方の日向さんは、 食いしん坊な子供のように 頬を膨らませながら ずっと同じペースで食べ続けていた。 一見、少食そうなのに 本当に底抜けだなぁ・・・ そんな日向さんを 円やか眼差しで眺めながら、 ビールの入ったグラスを片手に、 箸を休めていると、 ちょうど俺のスマホに通知が入った。 『あんた、ユウリのとこから ばっくれたときの飲み代 払いに来なさいよね。』 ヒデママからだった。 気前の良い人なので、 お金のことは半分冗談で、 パープルラビッツに飲みに来いと言う催促なことは もう何年もの付き合いで分かる。 その後ヤクザ映画のキャラクターに 吹き出しで、「ちゃんと金払えやぁ!!!」 と添えられているスタンプを 大量に送りつけてきたので、 しょうがないな・・・という気持ちでため息をつと、 「大丈夫ですか?」 と日向さんは心配気に訊いた。 「はい。ここのお店紹介してくれた友達が 近くでバーを経営しているんですけど、 飲みに来いってうるさくて。 なので、これが終わったら、少し寄ろうかな、と。」 「あ、そうですか。なら急いで食べますね。 先生、もうお腹いっぱいそうですし・・・。」 「大丈夫ですよ、日向さんのペースで。 俺も、もう一本ビール頼もうと思ってたんで。」 「そうですか・・・。」 「俺、好きなんですよ。 日向さんが食べてるの見るの。 なんでもご馳走のように 美味しそうに食べるなぁって。」 「・・・ 見られながら食べるのは・・・ こちらとしては恥ずかしいです・・・」 日向さんは、 さっきまで膨れさせていた頬を赤らめてそう言い、 下唇をかんだ。 俺は、ハハと、笑って、 「そうですよね。 俺、メッセージの返信しとくんで、 好きなように食べてください。」 と伝え、スマホのスクリーンをタッチした。 急かすつもりはなかったのだが、 その後、日向さんはペースを上げ、 残っていたもの全てを完食した。 「すごいですね。」 「美味しかったんで。」 「それはよかったです。 もしよかったら、また付き合ってください。」 「あ、はい。僕なんかでよければ・・・・。」 代金は、多く食べたので、多めに払うと言われたが、 俺も一本ビールを多めに頼んでいたので 折半をし、支払いを済ませた。 店を出ると、 寒空の中、まだ店の外には人が並んでいた。 「本当人気なんですね。」 「まぁ、立地もいいですしね。」 「そうですね・・・」 「ええ・・・」 「はい。」 「・・・」 俺はこれから二丁目にあるパープルラビッツへ、 そして多分、日向さんは家に帰るの為駅方面に向かう。 その為、ここで別れるのだが、 二人ともが、別れの挨拶を言い出せずにいた。 そこに絶妙なタイミングで、 ピコとまた俺のスマホに、 メッセージが入る音が鳴った。 スマホをチラッと見ると、 送り主はヒデママではなかったが、 ちょうどいいと思い、 「では俺は、これから友達のバーに行こうと思うんで。」 とあたかも催促のメッセージが来たように言った。 そして二丁目方面へ歩き出したその時、 「・・・あの・・・」 と引き留められるように腕を軽く掴まれた。 「え?どうかしました?」 「・・・その・・・僕も・・・ あの・・・行ってもいいですか?」 日向さんは、弱気な声でそう俺に問いかけた。 「・・・え・・・っと・・・その、 どうせ家にいても一人なんで・・・ もし先生がご迷惑でなければ・・・」 「あー・・・俺は構わないですけど、 バーって言っても、ゲイバーですけど ・・・大丈夫ですか?」 「え!?・・・あ、 ・・・え・・・あ・・・あの・・・ ・・・・はい。」 「・・・なら、どうぞ。」 ゲイバーだと思っていなかったんだな・・・。 でも、来るのか。 まぁ、最近では二丁目も 観光名所みたいなものになっているし、 どんな感じが見たいのか・・・。 そんなことを考えながら 二丁目までの短い道のりを 並んで歩いた。 静かな時間が続いたが、 その沈黙に、 気まずさは感じなかった。 二丁目のネオンの看板が 目に入るところまで来たところで、 日向さんが遠慮がちに 口を開いた。 「失礼に当たったらすみません・・・。 先生は、いつから・・・ その自分が・・・同性愛者だと・・・」 「あ〜・・・いつからですかね。 気づいたらって感じなんですけど。」 「・・・皆さんそんな感じなんですか?」 「人それぞれですよ。 今から会う俺の友達なんて、女性と結婚するまで 気づいてなかったみたいですし。」 「・・・そうなんですか。」 辺りに同性カップルが ちょこちょこ増え出してきたせいもあり、 日向さんがソワソワし始めた。 俺はそんな様子を見ながら、 「二丁目に入ったことですし、 俺たちも手でも繋ぎますか。」 と日向さんの耳元でささやいた。 すると 「え!?!?いや、あの僕は・・・」 と、日向さんは俺から僅かに距離を置き 自身の顔の前で大きく手を交差した。 相変わらず からかいがいのある慌てよう。 「ほら、はい」 ほろ酔いしているせいもあり 調子に乗って手を伸ばすと 日向さんは困ったように腕を後ろに回した。 そうやってふざけている間に、バーの近くまで来た。 「あ、ほら、あそこに見える紫の看板、 パープルラビッツって書いてあるところです。」 「・・・はい。」 「緊張してます?」 「・・・あ・・・そうですね・・・。」 「やっぱ手繋いでおきますか?」 「・・・なんでそうなるんですか?」 からかわれているのを自覚し 少しむくれている日向さんに、 「入りましょうか。」 と、笑って言い、パープルラビッツの扉を開いた。 「いらっしゃ〜い。類! ・・・と、お連れの方?」 「お疲れ。」 「類が、誰かを連れてくるなんて珍しいじゃない。 誰々?」 「お隣の日向さん。」 「あー、例のお隣さんね。」 日向さんは不安そうな顔をし 「例の?」 と尋ねた。 「なんでもないですよ。」 と俺がチラッとヒデママを睨むと いらぬことを言ったことを自覚したヒデママは 誤魔化すように 「ほらほらぁ〜ん、二人とも、 こっちに座って。 何飲まれますぅう?」 と、わざとらしいくらいに カマ度増し増しに振る舞った。 「俺は、ウーロンハイ。」 「あ、では、僕も・・・」 「かしこまりました。」 「相変わらず賑わってるね。 はい、これ、水曜日のね。」 そう言い俺は、 ホワイトリリーで飲んだウーロンハイ、2杯分の 2000円を渡した。 「ちゃんと色もつけなさいよ。」 「なんでさ。」 「あの後、三人相手するの大変だったんだから。 一人の子なんて、 類に振られただの言って喚くし。」 「今日もこうやって飲みに来てるんだから それくらいいいだろう?」 日向さんは話についていけず、 暇を持て余すように辺りを見渡していた。 俺も、ホワイトリリーのことについては これ以上話すこともなかったので、 話題を変えた。 「そうそう、今日さ、ヒデママが美味しいって言ってた タイ料理屋に行って来たよ。」 「あー、アイ・タイ?」 「美味しかったですよね?日向さん。」 「あ、はい。とても。」 「あら、デート?」 ヒデママがニヤニヤしてそう訊くのに 日向さんはまごついていた。 その後、 いつもとは違うヒデママの営業トークを肴に ちょうど良い塩梅のウーロンハイを 飲んでいると、後ろから 「類」 と俺の名前を呼ぶ声がした。 聞き覚えのある声に振り返ると、イチさんだった。 40代とは思えぬほどの肌艶をしたイチさんは 昔からのここの常連で、何回か寝たこともある。 「今日は、珍しく連れがいるんだね。」 「そうだね。」 「じゃ、また後で。」 その後も、数人 俺に話しかけてきたので、 日向さんは 「お知り合いが多いんですね。」 と驚いていた。 知り合い・・・ 「まぁ、そうですね。みんな常連みたいなものなので。」 「それに皆さん・・・なんと言うか・・・ 綺麗というか・・・中性的な感じの方ですね。」 「確かに、美意識高い人多いですね。」 「・・・前に先生のおうちで会った方も・・・」 俺が面食いとでもいいたいのだろう。 確かにそうなので、言い返しようもない。 「そうなのよ。類ったら ここだけの話、 もっぱらあー言う顔だけビッチなドネコばっかりでぇ。」 とヒデママは 日向さんと俺にだけ聞こえるような小声で言った。 「ヒデママ、言葉に気をつけて。」 「あぁら、やだ。ごめんなさいね。」 「あ・・・いえ。」 「ちょっとトイレに立つけど、 あんまり変なこと吹き込むなよ。」 「私に言ってるの?」 「ヒデママ以外に誰がいるのさ。」 「あら、ヤーね。 大丈夫よねぇ、日向ちゃん♪」 ・・・日向さんを一人で残しておくのは不安だが、 尿意には逆らえない。 この店に一つしかない ヒデママ曰く 『二人で入れない為に』狭くしてあるトイレの個室から出ると、 俺を待っていたかのように、 先ほど話しかけてきたイチさんがドアの前に立っていた。 「ねー、連れの人って 今夜の相手じゃないんでしょ?」 「なんで?」 「だって類がいつもお持ち帰りしてるタイプと全然違うし。 でもまぁ、あの人は、類のこと好きそうだけど」 「ノンケだよ。ただのご近所さん。」 「へぇ、ノンケねぇ・・・。 さっきからやきもち焼いてる乙女のように こちらをチラチラと見てるけど。」 カウンター席を見ると 確かに日向さんはこちらを気にしているように 見ていた。 でも、それはゲイバーにノンケ一人で 不安だからなんだろうな、と俺は解釈した。 「ああ言うまだ染まってない子ってやっぱいいよねぇ。 俺最近リバに転向したんだけど、 類が狙ってないなら、俺が口説いてみてもいい?」 「口説けるもんなら、口説いてみれば?」 「あっ。でも、もう遅いかなあ。 ママが口説いちゃってるんじゃない? 見て、彼の緩んだ顔。 ママってほんと彼みたいな子好きだよね。」 そうだ。 よくよく思えば、 日向さんは ヒデママが好きな特徴を抑えている。 「ママって何気にノンケキラーだしねぇ。」 「・・・」 イチさんの戯言を聞き終え、 俺が席に戻ると、 ヒデママも、日向さんも 俺に対して何かを隠しているような顔をしていた。 「なんかあった?」 とさりげなく訊いたが、 「なんでもないわよ。」 とヒデママは笑いながら答えた。 酔いが回り始め 頭がグラグラしてきたのもあってか、 ヒデママの誤魔化すような笑みも、 二人に纏う妙な空気感も 面白くないと感じた。 氷が溶けて薄まった ウーロンハイを一気に飲み干し 二人分の飲み物代を賄えるであろう5000円札を カウンターに置き、 「これ、二人分ね。 そろそろ帰りましょう。」 と言い、日向さんの腕を掴んだ。 日向さんは 「え?あ、はい。」 と戸惑っていたが、 一人で残る選択肢もなかったようで、 軽くヒデママに挨拶した後、そのまま俺の後ろに付いた。 「ちょっと、類。どうしたのよ。」 そんな驚いたように問いかけるヒデママの声にも返さず 俺は、日向さんと共に店を出た。 それからの記憶は途切れ途切れで、 ちゃんとした意識が戻った時には 俺は自分の家の玄関の上がり框に だらしなく座り、 日向さんに靴を脱がされていた。 「あれ・・・家・・・。」 「そうですよ。覚えていないんですか?」 「んー・・・あ〜・・・タクシーに乗ったところまでは・・・ って言うか、靴くらい自分で・・・脱げますよ。」 「大丈夫です。もう脱げました。 フラフラなんで、 ベッドまで連れて行きます。」 そう言って日向さんは、 自分の靴も脱ぐと、立ち上がり、 「僕に捕まってください」 と、手を伸ばした。 狙っていないと宣言したけれど・・・ ゲイバーについて来たり、 ゲイだと言っている酔った男を介抱したり、 それで、そいつのベッドルームに入るだと!?!? ・・・警戒心ないなぁ。 そんなことになんだかイラついてきた俺は こちらに向けられた手を思い切り掴み そのまま自分の方へと引き寄せた。 案の定日向さんはバランスを崩し、 俺に被さる形で倒れ、 顔がちょうど目の前にきた。 「あー・・・さっきもバーで見たなー、その顔。」 小さく開いた口に 薄紅色に染まった頬、 そして、眼鏡のグラス越しに見える とろんと垂れた目元。 「ヒデママと喋っていた時も そんな顔してましたよねぇ。」 「え?」 「俺が席を立っていた時ですよ。 あの人、日向さんみたいな おとなしい感じの人好きなんですよ。 もしかしてあの時口説かれてました?」 「は!?まさか、そんな!」 「バーにいた他の客も日向さんのこと 可愛いって言ってましたよ。」 「ぼ、僕が可愛い!?!?」 「モテモテですね。 男にモテて、どうですか? ちょっとは男同士に、興味湧きました?」 意地の悪いように訊いた。 「いえ、あの僕はそう言うのは・・・」 「こんな真っ赤な顔で否定されてもなぁ。」 「これは酔ってるからです。」 俺は日向さんの本音を確かめるように、 首の動脈に手を置き 加速する脈拍を掌で感じた。 そしてそのまま 熱を持つ頬に触れた。 「そうですか。俺も酔ってるからかなー・・・」 全然タイプではないはずなのに、 反応一つ一つが なんだか可愛く思えてしまう。 指先にちょうど当たる耳輪をなぞように弄ると 体の中奥から漏れるような生暖かい吐息が 顔に当たった。 「・・・やめてください。」 小さく震えるその言葉とは裏腹に 俺は曲げた自分の膝に当たる 日向さんの股からの圧を感じた。 「下も酔ってるからですか?」 「それは・・・」 日向さんはその後の言葉を濁そうとしたが、 俺はすかさず 「それは?」 と訊いた。 「・・・最近・・・してないもので・・・。」 「そう言うお相手いらっしゃるんですね。」 「そうではなく・・・その・・・一人で・・・」 「・・・それは味気ないですね。」 「別に・・・」 「俺が抜いてあげましょうか?」 何を言っているんだ、と 言わんばかりの顔をした日向さんの 返事を待たぬまま 俺は背中に腕を回し、 くるりと、体勢を逆転させ、 「ちょっと!」 とやっと言葉が追いついた日向さんの上に乗っかった。 普段小柄な子ばかりを相手しているので、 自分と同じような体格の人を 組み敷きっていることへの違和感を感じるものの それと同時にとても興奮していた。 戸惑う表情を見せる日向さんの眼鏡を掴み取り、 腕を伸ばした先に避《よ》けた。 「え?何を。」 「眼鏡がないと何も見えないんでしたよね。 好きなタイプの女性の顔でも、 思い浮かべてればいいんじゃないかと思って。」 「好きなタイプって・・・」 「どんな人がタイプなんですか。」 窮屈そうなパンツのチャックを下ろし、 パンパンに膨らんだ下着を確認した。 「可愛い系ですか? それとも綺麗系? あー・・・清楚系かなぁ? 実は巨乳フェチ、とか?」 質問攻めにしながら、 下の方へと移動し、 衣類を勢いよくずらすと 体型に比例するようなソレが顔を出した。 ビクビク震えた細い腰に服の下から左手を置き、 もう片方の手でソレを握ると、 答えではなく、 「・・・あァッ・・・」 と、予想よりも高く掠れた声が静かな空間に響いた。 「まぁ、おっぱいはないですけど、 俺、女よりもきっと上手いですよ?」 そう言い、男の俺が触れても萎えることなく脈立つものを 俺は湿った舌と唇で下から撫でるように舐め、 先走りが滴れる先から躊躇なく口に含んだ。 「・・・そんな、口でなんて・・・」 などと、言う割には、快楽に逆らえないのか、 突き放そうと思えば突き放せるほど 体格差など無いのに俺にされるがままだった。 この人は自分の矛盾に気付いているのだろうか。 俺の口の中で液体と空気が絡み鳴る はしたない音の上に重なって 日向さんの太い息がどんどん荒く、 そして大きくなっていく。 「・・・先生・・・ダメです・・・って」 女を想像しろと言ったのに、 俺を呼ぶ声。 いじらしい。 ・・・アァ・・・抱きたいなぁ・・・。 俺は、上下に動かす顎の速度を上げながら、 前から流れた唾液でグチョグチョな後の割れ目を 何度も中指でなぞった。 それに抵抗するように逃げる腰を片手で押さえながら そのまま濡れた指で、隠れていた場所を グリグリと押した。 すると、 その直後、日向さんは 「あっ、あぁっ・・・」 と、恥を捨てきれていないような 淡い声を出し、 身体を上下に大きく震わせながら 絶頂を迎えた。 そして俺の口内は吐かれた生温かい精で溢れた。 「・・・あ、あの・・・すみません、、、僕・・・」 日向さんは、あたふたしながら腰を上げると ダウンジャケットのポケットに入っていた 灰色のハンカチを取り出した。 「これに吐き出してください!!」 俺は言われるまでもなく、 口の中の液体を渡されたハンカチに出したが、 生臭い苦味は舌に残った。 「本当にすみませんでした・・・。」 「・・・別にいいですよ。 気持ちよかったなら、何よりです。」 「・・・そ、それは・・・」 恥ずかしげに下唇をかむ日向さんに 「後ろ触られるの初めてでしたか?」 とおちょくると、 紅潮していた顔が、 急に青白くなったように見えた。 「あ、あの、もう先生の酔いも 十分覚めたようなので帰ります!!!」 日向さんは、焦るように手探りで 避《よ》けていたメガネを探し当てると、 中途半端な着衣のまま、 俺の家から逃げるように出て行った。 バタンッ!と勢いよく閉まる扉の音で 俺は冷静になり、 さすがにやり過ぎてしまったかな、 と湿ったハンカチを手に思った。

ともだちにシェアしよう!