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第7章:浮所類 〜大人の時間〜

子供と二人で風呂に入るのは 流石に初めてだったので、 何が正しいやり方なのかは よく分からなかったが とりあえず 自分で全てを洗えると言う爽太君に 洗い残しがないかを一応確認しながら 一緒に髪の毛や体を洗った。 そのあと 子供にとってちょうど良い40度に 設定してある湯の中で 爽太君が満足するまで 魚釣りで一緒に遊んだ。 普段42度と熱めの湯を好む俺にとっては ぬるい湯だったが 上がるころには 体はすっかりあったまっていた。 風呂から出て、先に頭や体を拭いてやると、 爽太君は慣れた手つきで パパっとパジャマに着替え、 まるで流れ作業の様に歯磨きを始めた。 一通り爽太君のことを終えた後に 自分の体を拭き やっと下着を着たところで、 「先生、やって。」 と、仕上げ磨きを頼まれた。 なんて忙しい。 脱衣所から出ると、 日向さんは心配そうにドアの前で待っていた。 「歯磨きもしましたし、 このまま俺が寝かしつけるんで、 日向さんもお疲れでしょうから、 風呂入ってきてくださっていいですよ。」 「本当ですか?それは、助かります。 お任せしても良いでしょうか。」 「もちろんです。」 疲れているからなのか、 日向さんは珍しく迷わずに 爽太君を俺に託した。 爽太君の部屋にあるシングルベッドに 二人で横たわりながら、 爽太君が好きな「わんぱくだん」シリーズの本を 2冊ほど読み聞かせた。 この本は人気らしく病院にもたくさんあり 数冊読んだことがある。 3冊目に突入しようとしたところで、 爽太君は眠気に勝てなくなり、 目を擦すり始めた。 俺は本を置き、 小さな手を握ってやると、 爽太君は俺の方に体を向けて、 落ち着いたように、目を瞑った。 目の大きさはまるで違うけれど、 日向さんと同じ、真っ直ぐで長い睫毛。 しばらくその愛らしい寝顔を眺め、 サラサラの黒髪を撫でていると スースースーと 深めの眠りに着いたような鼻息が聞こえた。 そろそろ大丈夫かな、と 音を立てないように気をつけながら ベッドから下り、 部屋の電気を消した。 廊下には、 ちょうど風呂を終え、 髪の毛をタオルで拭いている グレーのパジャマ姿の日向さんがいた。 「爽太寝ましたか?」 「はい。」 「寝かしつけもできるなんて、 さすがですね。」 「研修医時代に 入院してる子供たちを 寝かしつけていたこともあるので、 なんとか。 きっと爽太君も疲れてたんでしょう。」 「そうですね。 すごいはしゃぎようでしたもんね。 あんな楽しそうな爽太を見たのは・・・ 久しぶりでした。 先生のおかげです。」 「いえいえ。」 「爽太も寝たことですし、 少し呑まれますか?」 「ああ・・・。では、じゃぁ。」 自分のテリトリーにいるからなのか、 日向さんが普段よりも、 リラックスしているように見える。 「片付いていなくて申し訳ないですが、 ソファーでくつろいでいて下さい。」 おもちゃがところどころに落ちていて 生活感が溢れるリビングルームに案内された。 黒を基調にした俺の部屋とは大分違う ナチュラル系のインテリア。 俺はその代表的ともいえる ベージュの布製のソファーに腰を下ろした。 木のあたたかみを感じるような 明るい木目のローテーブルの上には 爽太君が今日の予習をしていたのか 魚図鑑が マグロのページが広いたまま置いてあった。 少しすると日向さんは、 グラスに注いだビールを持って、 俺の隣に座った。 「どうぞ。」 「ありがとうございます。」 冷えたビールが喉を伝って ポカポカになった体の節々に染み渡る。 大きな一口を飲んだ後に 日向さんが口を開いた。 「今日は付き合っていただいて 本当にありがとうございました。 お疲れではないですか?」 「まぁ・・・でも 爽太君も俺に懐いてくれていて とても可愛いですし、 実際俺も楽しみましたよ。」 「そうですか?」 「ええ。 俺元々子供が好きで 小児科医になったのですが、 子供と関わる仕事と言っても 結局は医者と患者いう関係なので 今日みたいな時間を過ごすことは なかなかなくて。 だから日向さんたちといると、 諦めた未来を体験している様です。」 「諦めた未来ですか?」 「今日みたいに一緒に水族館へ行ったり、 ご飯を食べたり、 お風呂に入ったり、 寝かしつけたりとか・・・ そんなことをする機会は ゲイの俺には一生無いって思っていたんで。 ありがたいです。」 「そうですか、、、。 僕も、離婚して 一人で爽太を育てていく中で 不安だらけだったんですけど、 先生にこうやって プライベートでも関わっていただけて、 とても心強いです。」 照れ臭そうにそう言う横顔が やけに眩しく見えるのは 一口飲んだビールのせいでもなければ、 疲れているいるからでもないだろう。 俺は手に持っていたグラスを テーブルの上に置き、 日向さんの方へと体を傾けた。 「日向さん・・・前に言ったこと、 撤回させてもらえますか?」 「前に言ったこと?」 「俺が、日向さんを狙っていないと言ったことです。」 「え?・・・あー・・・」 「今日一日中、二人と過ごして、 少し欲張りたくなってしまいました。」 「・・・それは、どう言う・・・」 俺は左手を伸ばし、 戸惑う日向さんの半乾きの髪を 前からそっと撫でて そのまま襟足の方へと下ろした。 「爽太君だけじゃなくて、 日向さんのことも、 可愛いと思っていると言うことですよ。」 これが果たして恋愛感情なのか、 ただのいつもの性的な欲情なのか、 正直なところ定かでは無いけれど、 今はただ、もう少し この人に触れてみたいと思う。 「キス、してもいいですか?」 日向さんは 何も言わず、ただ 合わせていた黒い瞳を震わせた。 「嫌なら、避けてください。」 逃げ場を与えながら ゆっくりと、ゆっくりと、顔を近づけていく。 すると、日向さんは、覚悟を決めたように ギュッと目を閉じた。 その姿を見て自然と上がった口角を緩めて、 そのまま優しく口付けると、 日向さんの緊張が硬直した唇から伝った。 「もう一回してもいいですか?」 一度離れた後、そう確認すると、 日向さんは下唇を噛みながら小さく頷いたので 次は、短いキスを 何度も何度も繰り返した。 最初こそは反応がなかった唇だったが 徐々に、意思が入ったように キスを返し始めた。 そうなると、止まらない。 丁寧だったキスが 触れ合うたびに もっと、もっと・・・と 荒くなる。 そんな中、 日向さんが息をするために 小さく口を開けた一瞬を 俺は見逃さず ここぞとは言わんばかりに 勢いよく舌を 口内に侵入させた。 驚く暇も与えずに、 ビールの苦味が少し残った 口の中を舐め回し、 戸惑う舌に絡み付いた。 「んんっ・・・んァ・・・」 喉から漏れる日向さんの太くて甘い声が 耳を通して、体の芯まで届く。 これ以上は・・・もう・・・ 俺もさすがに自制しきれない気がした。 キスをするのを中断し、 「・・・そろそろ帰ろうかな。」 とわざとらしく壁時計を見ながら告げると、 突然のことに日向さんは キョトンとし、 どこか寂しそうな顔をしているように見えた。 「このまましてたら 襲っちゃいそうなんで。」 俺は笑いながら、 柔らかいパジャマの生地のせいで 勃起しているのがくっきりと分かる下半身に 日向さんの視線を誘導するように目をやった。 日向さんはそれをチラリと拝見した後、 少し黙り込んだ。 何を考えているのだろう・・・。 俺は、一か八かで、 「・・・触ってもらえますか?」 と訊いてみた。 ダメ元だったので 「・・・わかりました。 この間のお返し・・・します。」 と返され、びっくりした。 「本当に!!?? 男のものなんて触れますか!!????」 「た、多分。」 「触る寸前で、やっぱ無理って言われたら 傷つくなぁ〜。」 「じゃぁ・・・やめておき」 「嘘ですよ!・・・触って欲しいです。」 俺はこのチャンスを逃すまいと、 日向さんの気が変わらぬうちに 下に着ていたものを膝まで下ろした。 日向さんは、それを見た瞬間、 後悔したような顔を一瞬見せたので、 「眼鏡、外したほうがいいんじゃないですか?」 と訊いたが、 「・・・大丈夫です。」 と恐る恐る手を伸ばした。 「自分でするように、してくだされば。」 そう伝えると、 長い指で包み込むこんだ。 さっきまでグラスを握っていた掌は 冷たかったが、 上下に擦れる摩擦ですぐに温かくなった。 日向さんは終始恥ずかしげに 俺と顔を合わせようとはせず 下を向いていた。 「上手ですね。」 「そんなこと・・・」 「ちゃんと気持いですよ。」 俺は日向さんの下向きの顎をつかむと、 自分の方に引き寄せ、再び唇を強請った。 日向さんの手の動きは 口で感じる快感に比例して、 速くなっていくように感じた。 しばらくして 俺は空いた手で、 日向さんの股に手を置いた。 「日向さんのも、触ってもいいですか?」 「でもそれじゃ・・・ お返しにならないので・・・」 「・・・俺が触りたいんですよ。いいでしょ?」 「・・・」 無言をイエスと捉えた俺は、 「ちょっと立ってもらえませんか?」 と指示した。 素直に立つ日向さんに続いて俺も立ち、 膝で止まっていた自分の下の服を脱いだ後に、 日向さんの服もサッと脱がせた。 立ったまま日向さんを抱きしめると、 反り上がったものが 強い抱擁でちょうど当たり合う。 そこを擦り合わせるように腰を前後に揺らすと、 日向さんは息を強く吐いた。 俺は少し体を離し、 二人のソレを重ねて、 片手で包むと、 「日向さんも触って。」 と言い、 二人で二人ものを一緒に扱き始めた。 「こうやってするの初めてですか?」 「・・・当たり前です。」 「一緒にするのも、気持ちいでしょう?」 そう聞くと、 まるで察してくれと言わんばかりに 蕩けた目で俺を見つめていた。 「その顔、本当たまんないなぁ・・・」 俺はもう一つの手で 日向さんの耳を弄りながら、 緩みきった日向さんの口を 喰らうように攻めた。 そして口内にある水分の全てを 奪うように吸い尽くすと 浅く、深く、舌を何度もいれながら 俺の味を与え続けた。 日向さんの口の中が 俺の唾液で一杯になったところで 一旦口を離した。 すると日向さんは 口元からよだれをトロトロと垂らしながら 「もぉ・・・イきそ・・・ぅ・・・です。」 と溺れそうな声で言った。 「まだ駄目ですよ。」 「や・・・もぅ・・・出ちゃ・・・いm」 「もう少し我慢して。」 俺に言われた通りに 歯を食いしばりながら 一生懸命に堪え 熱帯びる顔が とてもいじらしい。 本当は後ろも触りたいけど、 今日はもう限界かな。 俺はゆるめていた手の動きを一気に加速させると 重なる日向さんの手も連動した。 すると粗く吐かれていた息は、すぐに 「も・・・ダ、め。・・・ぁアッ」 と言う擦れ声に変わり、 日向さんの先からは、ドクドクと絶頂を迎えた液体が湧き出た。 それを日向さんの掌で受け止めさせると、 その手で 屹立し続けている俺のモノを握らせた。 「俺もイかせて。」 敏感な耳元にそう囁くと 日向さんは肩を震わせた後、 俺の要望に応えるように、 手を上下に早く揺らした。 滑りやすなった手の中は さっきよりもスムーズで気持ちが良い。 そして俺は 日向さんの温もりに包まれながら オルガズムに達した。 その後は二人で浴室に流れ込んだ。 温かいシャワーの湯に当たりながら 日向さんを抱きしめ、 小鳥がついばむようなキスを ただひたすら繰り返した。 なんとも甘ったるい時間。 長い1日の終わりで、 互いに疲れ切り それ以上のことは何も無かったが 過去の関係では避けてきた こんな時間にこそ 自分自身が心身満たされていることに 気づかされる。 もう 日向さんのことを ただただ愛しいと思っていることを 認めざる得ない。 そして、一旦認めてしまえば 今まで閉ざしていた扉は開かれて 無意識に抑えていた気持ちが 破壊したダムのように溢れ出す。 「帰る前に少しだけ話がしたいです。」 シャワーから出て 帰る支度をし、そう告げた。 俺は正直舞い上がっているのかもしれない。 でも、どうしても 知ったばかりの感情を 自分の中で留めておくことは出来なかった。 日向さんは、 「分かりました。」 と言って、 俺たちはまたソファーに座った。 飲み残したビールが入ったグラスが二つ、 ローテーブルには置いたまま。 もうすっかりぬるくなっているだろう。 俺は、背筋を伸ばし 改まって、日向さんを見た。 長細い手足も、 アーモンド型の目も、 無造作な眉毛も、 薄い唇も、 おろすと幼く見える前髪も、 日向さんを形成する全てのものが 胸をときめかす。 「日向さん、 俺と恋愛してくれませんか?」 率直にそう訊くと 日向さんは 一重瞼の目を大きく見開き 「・・・え?」 と訊き返した。 予想通りの反応だ。 「前にも話したと思いますが、 俺は今まで恋愛ごとには興味がなくて・・・ それは多分恋愛関係になっても、先が見えないと言うか、 ゲイのくせに 男性同士の恋愛なんて不毛だと どこかで決め付けていたこともあって・・・。 でも、日向さんとなら、先を見据えて ちゃんと恋愛が出来る気がするんです。 今も爽太君を含め、大切に思っていますし。 もちろん日向さんがストレートなことも承知ですし、 体は許せても、 心はどうしても受け入れられないことが あるのも理解しています。 どんな答えでも受け入れられますので、 一度、考えていただないでしょうか?」 少しでも不快にさせたくないと 断れる理由を残しながらの 人生初めての告白をした。 緊張するかと思ったが、 心から漲る気持ちを 言葉にできて、 とても清々しい気分だった。 「・・・分かりました。考えてみます。」 日向さんは、そう答え、下唇を噛んだ。 照れているときの癖。 あー・・・可愛い。キスしたいなぁ。 だけど・・・ 「ケジメとして、とりあえず お返事をいただくまで 日向さんには触れませんね。」 「え?」 「え?って、触れて欲しかったですか?」 「そんなことは言っていないです。」 「そうですか? 俺は案外性欲に忠実な日向さんも好きですけどね。」 「だから僕はそんな!」 「冗談ですよ。本当可愛い人ですね。」 「可愛い・・・って。」 「ハハ・・・これ以上 戯《じゃ》れていたら キスしたくなっちゃうんで、 俺、もう帰りますね。」 「・・・え!・・・あ・・・もぅ・・・はい。」 火照った頬は、 怒っているからなのか 照れているからなのか、 定かではなかったけれど、 日向さんは、 再び下唇を噛んでいた。

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