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第一話・ユージン編

白馬騎士団。 古くは、他国からの侵略に晒されたこの国を守るために結成された騎士の集団である。 多くの時代が過ぎ去り、戦争の方式や国の統治方法が変わろうと、その象徴たる騎士団の炎は途絶えることなく、脈々と受け継がれていった。 そして現在、騎乗戦のみに重きが置かれなくなった時代においても、騎士と騎士団の名はこの国で最も名誉ある戦闘集団の称号として君臨していた。 近接戦と騎乗戦、且つ軍隊の代表を務める人材を抱える白の馬。 歩兵や弓兵、間諜や魔法使いなどの補助戦力を抱える黒の弓。 ヴィクターがスカウトされたのは、そんなエリート中のエリートである白馬騎士団の見習いだった。 ♡ 色白銀髪の美丈夫に、見物客達が色めき立つ。 若者らしい素朴で整った精悍な表情に、騎士団の白い鎧がよく映える。 名も知れない田舎からやってきた新入生というイメージとは裏腹に、そこに居たのは既に清廉な空気を纏った立派な騎士だった。 もっとも、見かけだけだ。彼──ヴィクターを迎えることになる同胞たちと、ヴィクター本人だけは、そのことをよく承知していた。 白の鎧を身につけることは、決して騎士たる条件ではない。その証拠として、鎧に入ったラインも未だ未熟者を示す一本線だ。 ヴィクターは、見習いのための簡易な儀式を終え、待機を命じられていた。 その間、これから同輩となる男達の品定めするような視線を、甘んじて受け入れる。 (……しんどい) ヴィクターは心のうちに、そんな感想を浮かべた。 関係ないと分かっているはずなのに、村の人々の視線を思い出してしまう。少しでも調和から外れようとする人間を、暗黙の中に非難するあの目。 親友と、その友人達の嘲笑の言葉が、頭の奥にリフレインする。 慣れない鎧の中で、温度が上昇していた。巨大なベランダで待機を言いつけられたために、太陽も直上から照りつけている。 儀式が終わってから既に二、三時間、ヴィクターは同じ場所で立っていた。 (あつい……) 軽い目眩を感じて、気のせいだと振り払うように首を振る。 今日はまだ初日だ。こんなことで動じていてはいけない。ここで力を示さなければならない。正式な騎士として認められなければ、最悪村に帰る羽目になる。それだけは嫌だ。絶対に嫌だ。 想像すると、気分の悪さが増した。白い建物と、陽射しの生み出した黒い影のコントラストが、ぐにゃりと曲がる。 直立の姿勢が崩れ、がしゃん、と鎧の関節が音を鳴らす。 (あ、やばい、倒れ──) 「おっと」 身体のバランスを失いかけたすんでのところで、ヴィクターの手は何者かに掴まれ、引き戻された。 「?」 いつのまにか礼服の男が、目の前に立っている。 騎士らしい逞しい胸と、平均より少し大きいはずのヴィクターよりも一回り高い身長。堅実な印象を受ける端正な顔立ちに、たらりとひと束、ウェーブした前髪がかかっている。 「君がヴィクターくんだね。私が教育担当のユージンだ。よろしく」

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