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第二話・ユージン編
「君がヴィクターくんだね。私が君の教育担当のユージンだ、よろしく」
目の前に、見慣れない礼服の男が立っている。
ワンテンポ遅れて、ヴィクターは、目の前の人間が先輩であり、上官であることを認識した。
「はい!よろしくお願いします!」
慌てて姿勢を正し、礼とともに挨拶をする。
(やって、しまった……)
頭を下げながら、ヴィクターは自分の行動を反省していた。入団初日でフラついたどころか、それを上司──それも、おそらくヴィクターを監督する立場にある男に、見られてしまうとは。
相手の顔を伺うべく、恐る恐る顔をあげる。
「はは、頭を上げてくれ」
しかし、初対面としてはお世辞にも良いとは言えないヴィクターの態度を前にして、男は嫌な顔をするどころか、小さく笑みを浮かべていた。
(うわ、)
(めちゃくちゃ好み……)
優しさの中に、えも言われない色気を秘めた顔立ち。
「ほら」
親しげに手を差し出されて、その手を握ると、すかさず両の手で握り返された。
「!」
礼服の上からでも分かる。鎧を纏ったようながっしりした肩、広い背中、割れた筋肉。容易に相手の肉を千切れそうながっしりした手は、しかし柔らかくヴィクターの手を包んでいる。
触れた肌に頬が赤くなるのを自覚して、ヴィクターは顔を庇うように俯く。しかし白い肌に白い鎧では、異なる色は嫌が応にも目に付いたらしい。
「目元が赤くなっているね。緊張しているのかな」
ユージンの茶色い瞳がヴィクターの顔をまっすぐ覗き込んできた。余計体温が上昇してしまいそうになる。
「は、はい、赤面症で」妙な嘘をついて、すぐに視線を逸らした。
♡
ここに来てやっと、ヴィクターは気がついた。国一番の騎士団ともなれば、選りすぐりの屈強な男達が選ばれてきているということに。
阿呆な話であるが、全然考慮していなかった。老多めの老若男女入り混じり、というのが今までのヴィクターにとっての世界であり、標準だったのだ。
ユージンに兵舎を案内される道中も、周りを見渡してみると、ユージンほどではないにせよ、若く、美しく、逞しい男達が多くいるのが分かった。近くを通られるたびに胸がざわつく。
(……でも)
しかしだからこそ、距離を見極めておかなければ傷付くのは自分だと、ヴィクターは自分を諌めた。いや、場合によってはひょっとすると、相手を傷つけてしまうかもしれない。それはこの上なく最悪だろう。
──もしかしたらここも、苦しいばかりかもしれない。
思い出した痛みに、触れられない胸が締め付けられる。
仕事だと割り切れば平気なはずだ。恋なんてしない方がいい。
兵舎の中を不安げに見渡すヴィクターの視線を、ユージンは柔らかな表情で見つめていた。
「では、初日の訓練といこうか」
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