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第六話・ユージン編※
離れた唇が淫らに糸を引く。
「ぷ、はぁ………ッ」
(く…くちのなか、きもちよすぎて、わけわかんなくなる……っ)
何度目か分からない口吸いに、酸素を求めてヴィクターの肺が大きく上下する。眼下にあるユージンの顔は平静ながらも熱を帯びていて、天と地ほどある経験値の差を否応なく感じさせた。
一体自分は今、どんな顔をしているのだろう。そんな考えが、ヴィクターの頭から離れない。上司の前での体面というものは、容易には捨てられないのだ。信頼できる人だからこそ、それを壊すのが怖い。
「緊張してる?」
そんな迷いを見透かしたように、柔らかなヴィクターの声が注がれた。「朝もそうだったね」
「あ、あれは……違います」
「違う?」おずおずした返答に、ユージンが首を傾げる。
「あれは…教官になる人が、こんなにかっこいい人なのかと、照れてしまっただけで」
「うれしいな」
「!」
返答と共に首へ顔を埋められると、ヴィクターは喜色を隠すこともできず、頬を赤らめた。
ユージンの言葉には一貫して拒絶の響きがない。それは年下の新入団員に対する教官としての優しさであり、自分にアプローチしてきた男に対する色男としての優しさだったが、少なくとも、ヴィクターの人生にとって非常に稀有な経験だった。
「っん………、ぁ」
首筋への刺激に、ヴィクターの身体が跳ねる。
「かわいい」
「……は、反応に困ります」
畳みかけるように褒めると、ヴィクターは居心地が悪そうに目を背けた。どうやら自分が好意を向けられるのには慣れていないらしい。
今日出会ったばかりとはいえ、なかなかどうして、可愛らしい後輩ではないか。肌着同然のヴィクターの服に指を滑り込ませながら、ユージンは唇を舐めた。
真面目で優秀で、少し臆病かと思えば、隙だらけで、愛され慣れていない男。
(先ずは愛され慣れて貰わないとな)
「ん、…ぅ、は、ぁっ、あ……」
喘ぎ声というには未熟な、押し殺した声を解すように、ヴィクターの肌を愛撫する。既に中心は芯を持ち、とろりと先端が濡れていた。
「ヴィクター」
「はい?」
快感に乱れる、という状態からは程遠いものの、きょとん、として見つめ返す火照ったヴィクターの顔はどことなく無防備だった。
そんなヴィクターに見せつけるように、下着の下にある秘めた窄まりを、とんとん、と優しく撫でる。
「抱かれる準備をしようね」
「──ッ!」
白い肌をこの上なく赤くしたヴィクターはしかし、その言葉に、確かに頷いた。
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