10 / 15

第八話・才覚

ヴィクターが目を覚ましたのは、見知らぬ部屋だった。 騎士団のある街までは宿を利用したから、家の古臭い天井でないことには慣れていた──が、隣に男が寝ているのには流石に驚いた。 「うわ、」 閉じた瞼に差し込む朝日のコントラストがよく映える。文句なしの美形が、ヴィクターを包むように眠っている。 「ん……おはよう」 その男から掠れた低音が発せられて、その途端、ヴィクターの頭に昨晩の記憶が一気に蘇った。 「……っ!ユージン様、その、私は……」 その記憶は夢か現か。ひょっとすると酒の勢いでとんでもない迷惑をかけたのでは。狼狽え、寝台の下で正座しようとするヴィクターを、 「さん、でいいよ。訓練じゃなければ言葉を崩しても良い。昨日だってそうだったろ?」 ユージンの優しげな言葉が宥める。 「は…はい、ありがとうございます」 その瞳が微笑みに細められた。 「記憶はあるみたいだね」 「ということは、昨日のお願いも、有効ってことでいいのかな」 「その、せ……、抱く、と言う話ですよね」 「うん」 「それはむしろ、俺の方が良いのかと」 その言葉を聞いて、ユージンはさも不思議そうに小さく首を傾げた。 「こんなに可愛くて良い子に気持ちいいことを教えられるんだよ?感謝したいぐらい」 (お、おお……) 相変わらずの、歯の浮くような台詞。それを僅かでも間に受けて喜んでいる自分は、馬鹿なのか、ユージンの思うがままなのか。 「勿論、お願いします」 「期待してるね」 その後ユージンとは、簡単に言葉を交わして別れた。と言っても、教官である彼とはすぐに再会することになる。朝の自主トレーニングを済ませてから訓練の準備をし、兵舎に向かう。 「──テスト、ですか?」 少し位置の高くなった太陽を受けて白く光る兵舎。その真ん中で、ヴィクターは調子の外れた声を上げた。

ともだちにシェアしよう!