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第八話・才覚
ヴィクターが目を覚ましたのは、見知らぬ部屋だった。
騎士団のある街までは宿を利用したから、家の古臭い天井でないことには慣れていた──が、隣に男が寝ているのには流石に驚いた。
「うわ、」
閉じた瞼に差し込む朝日のコントラストがよく映える。文句なしの美形が、ヴィクターを包むように眠っている。
「ん……おはよう」
その男から掠れた低音が発せられて、その途端、ヴィクターの頭に昨晩の記憶が一気に蘇った。
「……っ!ユージン様、その、私は……」
その記憶は夢か現か。ひょっとすると酒の勢いでとんでもない迷惑をかけたのでは。狼狽え、寝台の下で正座しようとするヴィクターを、
「さん、でいいよ。訓練じゃなければ言葉を崩しても良い。昨日だってそうだったろ?」
ユージンの優しげな言葉が宥める。
「は…はい、ありがとうございます」
その瞳が微笑みに細められた。
「記憶はあるみたいだね」
「ということは、昨日のお願いも、有効ってことでいいのかな」
「その、せ……、抱く、と言う話ですよね」
「うん」
「それはむしろ、俺の方が良いのかと」
その言葉を聞いて、ユージンはさも不思議そうに小さく首を傾げた。
「こんなに可愛くて良い子に気持ちいいことを教えられるんだよ?感謝したいぐらい」
(お、おお……)
相変わらずの、歯の浮くような台詞。それを僅かでも間に受けて喜んでいる自分は、馬鹿なのか、ユージンの思うがままなのか。
「勿論、お願いします」
「期待してるね」
その後ユージンとは、簡単に言葉を交わして別れた。と言っても、教官である彼とはすぐに再会することになる。朝の自主トレーニングを済ませてから訓練の準備をし、兵舎に向かう。
「──テスト、ですか?」
少し位置の高くなった太陽を受けて白く光る兵舎。その真ん中で、ヴィクターは調子の外れた声を上げた。
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