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第9話・才覚(2)
軽装の剣士は修練場を駆ける。
蹴り出したつま先によって砂のつぶてが、鋭く後方へ弾かれる。激しく巻き上がる砂煙を背後へ置き去りにしながら、ヴィクターは対象との間合いを詰めた。
視界の真ん中に捉えている標的は、入隊初日に使ったのと同じ、敵兵を模した巻藁。
昨日と違うのは、その状況だ。
♡
「テスト……?」
早朝ぶりの、ユージンとの再会。
予想していなかった言葉にヴィクターは首をかしげた。
「そう。君はある人の推薦で入団したから知らなかったな。一般的にここに入るには入団テストがあるんだ。今日はそれを受けてもらう」
「は…はい」
やはりよく分かっていないまま、ヴィクターは返事をした。そんな制度は、聞いたことがなかったからだ。
ヴィクターは思い返す。入団の経緯らしい経緯といえば──いつも通り剣を振っていたら身なりのいい男が話しかけてきて、騎士をやってみるかと言われ、それに頷いた──本当に、それだけだ。
とにかく、村から離れるということが、ヴィクターにとっての重要事項だった。それ以降、白馬騎士団の存在とその噂ぐらいは嫌でも耳に入ったが、実のところ自分がどういった立場なのかは、今でも分かっていなかった。
「不安かな。大丈夫、コレの成績で採用なし!とかはないから」
「い、いいえ」
一番の不安事項をあっさり見透かされ、動揺したヴィクターの視界にひょこり、と。どこから飛び出したのか、二人の男達が現れた。
「おはよー!君が新入りのヴィクターくん?」
「田舎から引き抜かれてきた天才なんだって?」
「あ…はい……??」
「はいはい、捲し立てるな」
現れた二人はユージンよりも後輩であるらしく、制止に従って大人しく一歩下がる。が、好奇心は隠しきれていない。
「よろしく」
セオドアと名乗る黒髪の男が、僅かにヴィクターを見上げて名乗る。
「俺はギルバート。ギル先輩、でいいぜ」
その後ろで跳ねている茶髪の男は、身長こそセオドアより高いものの、10代後半の少年としか見えないほど若い。
「とりあえずこいつら二人が、今日のテストのサポートと審査員をやるから。遠慮なく使ってくれ」
「そーそー、俺らもなんだったら訓練付き合うし」
「ガンガン頼れ、後輩」
♡
それが経緯。
ヴィクターは砂を蹴って跳躍し、そのまま剣を振りかぶる。昨日の指南のおかげなのか、姿勢にブレはない。
──いける。
そう実感したのと、刃が藁を斬り抜けたのが同時だった。人間の肉と骨に最も近いと言われる、その感触を手に確かめる。
「次……っ!」
深紅の双眸が、刀からの光を反射して鋭く光る。
「ゆ、ユージン先輩……あの新入り、ヤバくないっすか……?」
砂煙を巻き上げて駆けるヴィクターを観ながら、ギルバートは声を震わせた。跳躍力、瞬発力、筋力、耐久力。そのどれもが、想定をはるかに超えている。
セオドアとて、口には出さずとも同じ感想だった。自分が入団した時の実力とは全く違う。なにより、鋭く疾る剣と鋭い視線が、先程見た大人しげな田舎の好青年という印象からかけ離れていた。
「ああ、やばいな」
そんな二人を横目に、ユージンは嬉しそうに笑った。
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