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第12話 第二夜※

夜闇に侵された部屋の中で、若い騎士の白い背中が跳ねる。 「………ッ、ぅ、…………!!」 震える背の窪みをなぞり降りたその先で、ヴィクターは上官の、その根元までを呑み込んでいた。 「ほら、息我慢しない」 快感の受け入れ方すらまだ拙いヴィクターに、息の仕方から教えるように。ユージンの手はヴィクターの胸をなぞり、腰を抱え込む。 目の前の教官の技量は想像を絶するものだった。挿入と口付けのみでいとも容易く蕩されたヴィクターは、思考の暇すらなく拙い歓喜の声をあげるので精一杯だった。 「っは、はぁ……はぁ……」 下腹に圧迫感を覚えつつ、何度か背を撫でられて、やっと呼吸を取り戻す。 「落ち着いた?」 「はい……」 「よかった」 ユージンが落ち着いた笑みを浮かべると、またゆっくりと抽挿が再開された。 「ん……、はぁ……っ」 「はぁ……、はっ……」 会話のない時間の中に、二人の呼吸が溶け合う。それらが少しずつ高まり──繋がりは加速度的により深く、激しくなってゆく。 「ん……ふぅ……っ」 ヴィクターは気付いていなかった。 教官のそれがヴィクターの中でさらに硬く、高く昂っていること。熱く煮える自らの直腸が、慣らした時よりもさらに馴染み、より深くへ相手を迎え入れる準備をしているということに。 ──その瞬間は突然やってきた。 ぐちゅん。 「っひ、ぎぃ………っ!?♡♡」 来たるべき最奥にユージンを迎えて──普段高音を発さないヴィクターの喉が、箍のはずれたような嬌声を奏でる。脚ががくがくと震え、頭の奥は混乱していた。前の夜とこれは、何かが違う。 「………ッ、??、ぁ?」 ピストンは止まらない。かたや白髪の男は激しい快感に晒されて助けを求めるように縋りつき、かたや茶髪の男は二人の絶頂を確信し捕食する野生動物のように強く相手を捕らえる。 「───……ッッ♡♡♡!!」 頭の奥で火花が弾けて、何かが割れて溶け出す。 ヴィクターの意識は遠のいていった。 ♡ 「…クター……、ヴィ…ター…………」 「ヴィクター、平気か?」 少しの間意識が飛んでいた。 気付くと、ユージンの膝上に座り込むような格好で抱きすくめられている。 「やはりまだ刺激が強かったかな」 「いいえ、だいじょうぶです……」 返す言葉には現実感が希薄だ。 「ちょっと休憩しようか」 ユージンは枕元に置いたグラスを手に取り、水を一口飲んだ。 「君も飲んでおきなさい」 そう声を掛けても、若い男はまだ半分ほど夢の中だ。歳にしては隆々と、しかし鹿のようなしなやかさのある肢体が、寝台へと投げ出されている。ユージンはまたグラスから一口含んだ。今度は飲み込まずに。 ぼんやりと中空に浮かんでいたヴィクターの視線がユージンのブラウンの瞳に捉えられ、自然と惹かれあってゆく。 「ん、む………」 口付けとともに、ユージンはヴィクターの両腕を優しく掴んだ。 互いの盛り上がった胸が押しあって潰れる。 流し込まれた冷たい水が、二人の体温と同じになってゆく。 「ぷ、はぁ………」 接吻は夜が永遠に思えるほど長く続き、やがてゆっくりと糸を引いて別れた。 一連の口付けは──緩慢な動きにも関わらず、ヴィクターの身体を再び昂らせるのに十分だった。行き場のない熱にもだえて、太腿に乗った股がゆるゆると揺れて、無意識に擦り付けるような動きをする。 「ユージン、さん……」 細い笛のような音を伴って、呼吸音が部屋を満たす。額を滑り落ちた汗が、くちびるをつたって2.3滴ユージンの肌に落ちる。 「はーーッ、はー……♡」 赤く、赤く濡れた瞳が何よりも雄弁に語っていた。 もっと欲しい。初めて知ったこの情欲を、まだ手放したくない。 その懇願に応えないユージンではない。白く柔らかな筋肉の間の、小さく閉じた入口に、大蛇のようなそれが再び呑み込まれてゆく。 「ぁ……ぁあ………ッ♡」 天井を仰ぐように反る首筋を、ユージンは唇でなぞった。 「動くぞ……」 「っは、い………」 規則正しく部屋に響く衣擦れと、呼吸と、肌のぶつかる音が、にわかに間隔を縮めてゆく。 手はやはり握ったままで、二人は夜へと溶けていった。

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