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第4話

「うー……。疲れたぁ……」  パソコン触ってただけなのに、何であんなに人間疲れるん?  時間内に終わったのに、めっちゃ怒られたし。  自分でチェックしろって、自分であってると思って打ってるから意味ないっしょ。  絶対無駄な作業だし。どうせ、最後に間違ってないかメリさんがチェックするし。  あー。首痛い。  晩飯どうすっかな。  自分のは炒飯あるし、皆んなの何にしよ? 「あ」 「ん? あれ? ハチくんどうしたの?」  食堂に行くと、俺の炒飯を食っているツインテールのお姉さんが首を傾げる。 「いや、それ、お昼の残りだし、俺が食おうと思って。あれ? 他のみんなは?」 「あ、そうだっの? ごめんね。今日、私一人しかご飯食べないから、私のかと思って食べちゃった」 「え!? 皆、ご飯食べんの?」 「聞いてない? 私以外は同伴だよ」 「どうはん?」  ドウハン? 何ハンなん? それ。 「同伴、知らない? お客さんとご飯行ったりする事。私は今日非番だから何もないの」 「えー。じゃあ、ご飯いらないんだ」 「そう」 「リリさんも?」 「リリさんは、今日三人分の精子かき込む気だから終わった後何か食べるんじゃない? 高級な奴」 「俺の飯ではないのか……」  高級なのは、無理だし。 「俺一人かぁ」  そうなると、途端に全てがめんどくさくなる。  肉焼くのも、めんどうくさいな。 「一緒に食べれば良かったね。ごめんね?」 「あ、いいよ。気にしんで。えっと……」 「私は桃花。桃ちゃんって呼んでよ。ハチくん」 「桃ちゃんね。了解っ。桃ちゃんもサキュバスなんだよね? 非番って休みじゃん。ご飯食べる機会少なくならん? 大丈夫?」 「凄い心配すんね。ハチくんは。ま、ここにいる全員サキュバスだけど、私はちょっと他のサキュバスとは違うんだよね」 「精子食べないん?」 「それは食べるけど」  食べるんだ。 「桃の木から生まれた珍しいサキュバスなのよ? これでも」 「サキュバスって、木から生まれるん?」 「うんん。花から。でも、木の花から生まれるのは珍しいんだ」 「へー。って事は、リリさんも?」 「そ。リリさんも花から生まれてるよ」  めっちゃ妖精じゃん。それ。 「木から生まれたサキュバスは人間と相性がいいの。私、精子に混じってる厄災とかも吸い取るんだ。だから、ちょっと休まないと胃がもたれるの」 「厄災? 何か幽霊とか?」 「そこは呪いとかじゃない? ま、そんな感じかな。あと、私とエッチすると、病気とか怪我も治るよ!」 「え、めっちゃ凄いじゃん」 「そうなのー。全部私が吸い取るからね」 「リリさんは出来んの?」 「これは桃の花から生まれたサキュバスだけかな。桜とか、梅の花とかも出来るらしいけど、存在自体が珍しいからね。私も、私しか見た事ないし」 「へー」 「でも、リリさんは力を無限にプール出来るから、そんな必要ないし。怪我も病気も、あの人が生気を他者に分け与えたら出来るよ? エッチしなくても」 「へー。便利だね。あっ!」 「どうしたの?」  そう言えば……。 「いや、この前俺、餓死で死にかけたんだけどさ、そん時リリさんがいたんだよね」 「このご時世に餓死とか凄いね」 「ま、事情があって。起きた時にリリさんいたんだよ」 「あー。じゃあ、リリさんがハチくんに生気を分けてあげてたんだ」 「やっぱり、そう言う事なんだよね? ヘムさんじゃ生気分けれんのかな?」  強い、んだよな? リリさんより。 「ヘムロック様? いくらヘムロック様が何でも出来ると言っても、吸血鬼だしね。吸血鬼には無理だよ。生気を扱える種族じゃないしね。吸血鬼なら血を操って止血とかそう言う外部的なものしか無理かな。てか、生気を他人に与えるって普通のサキュバスでも無理だし。やれても本来普通のサキュバスが持てる力は少ないから限界あるし。あけたらあげたでこっちが力が枯渇して死んじゃうしね。リリ様ぐらいじゃない?」 「あれ? 桃ちゃんは出来んの?」 「私は与えるんじゃなくて、吸う方。悪い所があれば治すとかじゃなくて吸い尽くすの。リリ様は逆。自分の力を他人に分け与えられるの」  よく分からんけど、違うのは違うのか。 「ふーん? 取り敢えず、リリさんには感謝って事だな」  あの時、やっぱり命助けて貰ったんだ。  過去のリリさんにも命助けられてたし。  何回も救って貰ってる。 「そうだよ? リリさんが人間なんかに生気あげるなんてめっちゃレアだからね。感謝した方がいいよ?」 「俺、レアじゃん!」 「そっ。ハチくんは珍しい人間って事。それよりもさ、ヘムロック様の精子の味教えてー! 知りたいー!」 「え?」  桃ちゃんも、やっぱりサキュバスなんだな……。  いや、いいけどさ。俺も苺大福の味とか他人に聞きた気持ちあるし。  そう言う系なんだけろうけど……。 「ゲロマズだけど?」  俺にはあの味の良さがわかんねぇーんだよなぁ。  精子ってか、精液? わからんけど。 「うっそ!? ヘムロック様のだよ!? ハチくん、正気!?」 「正気なんだよなぁ。これが。人間は美味しいと思えないから、全然役に立たんよ?」 「マジかー。人間大変だね。同じお店でも人間の子いるけど、皆クソマズだと思って精子飲んでるのか。地獄じゃん?」 「地獄だと思う。俺が言っちゃダメだと思うけど、精液回収チャンスチェンジとかあればいいのにね」 「凄い事言い出すな、ハチくん」 「いや、だってさ。人間的にはダメでも桃ちゃんとかサキュバスにとってはご馳走なわけでしょ? ちょっと嫌な気持ちで飲み込むよりも美味しいなって思ってくれる人が飲んだ方が精子も喜ぶと思うわけよ。飲み込む時変わるボタンがあればいいなって」 「ボタンで切り替わるん?」 「そ。よくない?」 「めっちゃいいー。そんなボタンあったら、ハチくん私のボタンめっちゃ連打してよ」 「連打! するけど、ヘムさんめっちゃ怒りそう」 「大丈夫。速攻啜って速攻で戻るボタン連打する。サキュバスなめんな?」 「桃ちゃんかっけー! めっちゃ連打するわ」 「してしてー!」  キャッキャと桃ちゃんと二人で騒いでいると、食堂の扉が開く。 「ここに居たのか、ハチくん」 「あ、リリさん」  リリさんが俺を呼ぶ。  にしても……。 「何か、リリさんいつも以上にキラキラになってない?」  何か、ずっごくリリさんが美人に見えるんだけど。 「ふふ。有難う。それよりも、君、次の仕事だよ」 「えっ!? まだ仕事あんの?」 「そう。今から私は客先に出勤でね。メリについて来て貰うから、君もおいで」 「はーい」  そっか。メルさんが仕事教える実験台だしね。そう言う事もするのか。 「じゃ、桃ちゃんまた明日ね」 「うん、ハチくんも仕事頑張って」 「おう! 頑張ってくるね」  桃ちゃんに手を振って、俺は食堂をリリさんと出る。 「随分と桃花と仲良くなったようだね」 「ん? うんっ。さっきもめっちゃ喋ったよ」 「サキュバスだよ?」 「え? リリさんもだし、ヘムさんやメリさんなんて吸血鬼だよ? それがどうかした?」 「いや、失礼。君には愚問だった様だ。忘れてくれ」 「うん? んっ」  なんか良くわからんけど。  リリさんが忘れろって言うなら忘れとく。 「そういや、メリさんは?」 「メリなら車にいるよ。さ、私たちも急ごうか」 「はーい」 「はいは短い方がいいよ。長いと碌なことにならないからね。ヘムの人生みたいに」  笑いにくい冗談を言って、リリさんが笑った。 「乗ってください。貴方は助手席ですよ」 「あ、はい」 「道を覚えて貰います。実際に運転はさせませんが、 道を覚えているかのテストはしますので、そのつもりで」 「え? あ、はいっ!」 「スパルタだな」 「僕の教育方針にリリ様は口を挟まないで頂きたい」 「教育ママかよ。ま、いいけど。ほら、出発、出発」  俺は全然良くないけどね? 「あ、俺達も中付いてくの?」 「ん? 君、私のセックス見たいのか? 見学してくか?」 「いや、別に見たくは……。でも、ついてきてるし、あれでしょ? ボディーガードって奴じゃないの?」 「ぶはっ!」 「リリさん、今は爆笑ダメじゃない!?」 「リリ様、笑わないでください。化粧が崩れますよ」 「だ、だって! ボディーガードって! あはははっ! ヤバっ! 面白すぎるだろ。誰が私を殺してくれるんだ?」 「え? 知らんけど、女の人一人って危ないくないの?」 「ハチさん。相手は化け物の中の化け物の一人ですよ。言葉を謹んで」  良く意味わからんけど、多分メリさんのその言葉自体が謹んでない気がする。 「慎むなよ。女の人一人は間違ってないだろ? メリもそれぐらい心配していいぞ?」 「吸血鬼を皆殺しに出来るサキュバスに心配も何もないでしょうに。貴女に勝てる人を、僕はヘム様しか知りませんよ」 「それは言い過ぎだな。ヘム如きでは殺されはするが死なんよ」  け、険悪だし、何かすげぇヘムさんの事二人とも好きじゃない感出てる……。  流れ弾じゃん、ヘムさん。 「中ついて行かなくていいなら、俺達帰るの?」 「いえ、外で待機します」 「何があるか分からんからな。何か用事でもあったかい?」 「うんん。どうすんのかなって思って。帰っても仕事あるだろうし」 「仕事、する気だったんですか?」  メリさんが口を開く。 「え? うん。まだ、メリさんに頼まれたやつ終わってないし、日付越えてないし……?」  あれ? 違うの? 「数字の方は終わっているので、今日の仕事は明日に持ち越しでいいですよ」 「あ、そうなん?」 「次からは期限を聞いて下さい」 「はいっ!」 「後、無駄口を叩く暇があれば、道覚えて下さい。そろそろ着きますよ」 「あ、はい」  やべ。そんなに覚えてないかも。  か、帰り道、帰り道に期待する……。 「あのホテルです」 「メリ、三時間予約だよな?」 「はい。三時時間です」 「……よし。三人まとめて命ギリギリまで吸い取ってやれるな。では、何かあったら助けに来てくれよな、お二人さん。ああ、そうだ。ハチくん、これでご飯でも買って食べてなさい」  そう言って、万札をメリさんが渡してくれる。 「ありがとー」 「メリには、ブラックコーヒーを」 「おっけー!」 「では、行ってくるよ」  そう言うと、リリさんは颯爽と車を降りてホテルに入って行く。 「メリさん」 「何ですか?」 「俺、コンビニで飯買ってくるけど、メリさん何食べる?」 「要りません。必要ないです」 「そっか。分かった」  俺はシートベルトを外して、メリさんを見る。 「ねぇ、メリさん」 「まだ何か?」 「俺が買ってくるのが嫌か、本当に食べないのか、どっち?」 「……は?」  え。何でそんなに睨むん? 「何ですか。それは」 「いや、だって。メリさん、俺の事も人間の事も嫌いじゃん? 嫌いな人に食べ物買ってこられるのが嫌なのか、本当に食べたくないのかどっちなんだろうと思って」 「……正面切って、聞く事ですか?」 「いや、だってすぐ買いに行きたいし。それに、俺が嫌ならリリさんに頼まれたコーヒー買ってくるだけ無駄じゃん。飲まないでしょ? 俺が買って来た奴。それ、お金くれたリリさんにも失礼だもん」  だって、そうだろ?  俺の金でもメリさんの金でもない。リリさんが働いて手に入れたお金だし。 「……コーヒーぐらないなら人間からでも飲みますよ」 「あ、本当? 良かったー。じゃ、俺買ってくるね」 「どうぞ」  何だ。  そうなんだ。 「コーヒーぐらいならいいのか」  何か、すげぇーフツー。    サンドイッチと、お菓子と、牛乳。あと、フランクフルト食いたいな。 「すんません、フランクフルト一本」 「はい。フランクフルトですねー。コーヒーは向こうで入れて下さいね」 「はーい」 「千三百八十二円になります」  俺は一万を払ってお釣りをポッケに入れる。  後で返すの忘れないようにしとこ。  メリさんのコーヒーを入れるためにサーバーに向かうと、銀色の髪のポニテをした、でかいお兄さんが立っていた。  外国人? でっかー。最近会う人みんなデカくない?  デカすぎない?  ヘムさんぐらいはなくても、メリさんぐらいはありそう。  それにしても、遅くない?  あ、海外の人だし、よくわからんのかも。  けど、俺、英語喋れないし?  助けようにもなぁ。  けど、メリさんまたしてるし……。  うーん……。 「お兄さん、コーヒーの入れ方分かんないの?」  ま、日本語でも、何とかなるっしょ!  お兄さんの服を引っ張って聞いてみる。  すると、お兄さんはキョトンとした顔で俺見た。  うむ。絶対伝わってない感じ!  アホな俺でもわかる! 「えっと、そのカップのコーヒー、入れる、出来ない? 俺、やる?」  なので、身振り手振り。  そう! ジェスチャーって奴だよ! これなら何とか通じるっしょ! 「困ってる人、助ける! 俺!」  そう言ってみるが、お兄さんは変わらず不思議そうな顔をしてる。  あ、駄目?  駄目そう?  俺の知ってる英語でなんとか……。  なんとか、出来る? 無理じゃね? 「……ですいずいんぐりっしゅ……バツっ!」  英語できる人、いるかなぁ……。 「あはははっ!」  突然、お兄さんが笑い出す。  え? 何で?  うわっ。八重歯すご。ヘムさんみたい。 「……あ、ごめん。俺、日本語わかるよ」  そう言って、お兄さんがサングラスを取って目を擦る。  あ、赤い目。  え? もしかして、この人も吸血鬼……? 「助けてくれようとしてくれて有難う。どこのボタン押せばいい?」 「あ、うん。これ」  ホテル生活で覚えたての知恵を披露しながら、俺はお兄さんをマジマジとみる。  お兄さんも、ヘムさん達と一緒で滅茶苦茶美人。  八重歯に赤い目。  赤い目って、吸血鬼の証拠なんだよね?  だとすると、やっぱりこの人も……。 「助かったよ。俺の容姿、アルビノだから皆んな怖がって声かけてくれなくてさ。君が居てくれて良かった」 「アルビノ?」  何それ? 「あれ? 知らない? 髪と肌凄く白くて、目が赤いでしょ?」 「……え? あ、うん?」  吸血鬼じゃないの? 「アルビノって言うの。珍しいし、俺外国人だからみんな怖がってさ」  違うのか?  そうだよね。  ヘムさんやメリさん、普段赤い目隠して違う目の色にしてるしな。  吸血鬼ですって堂々と歩かないでしょ? と、言ってたし。  アルビノって何か知らんけど、どっかの国? 「そうなんだ。珍しい目の色だなって思った」 「ウサギみたいでしょ?」 「うん。可愛いね!」 「可愛い? かっこいいじゃなくて?」 「うさぎさんって可愛くない?」 「アルビノでも男だし人だから、可愛いは少し違うかなぁ?」 「あ、もしかして失礼だった? ごめんね」 「いや、いいよ。有難うね、じゃ俺は行くから」  そう言ってお兄さんは俺に手を振って背中を向ける。 「またね」  お兄さんはそのまま店を出る。  良くわからんけど、いい事したって事だよな?  そう思いながら俺はメリさんのコーヒーを入れた。 「お待たせー」 「待ってはないですよ」 「そう言わんでよ。はい。コーヒー」 「……有難うございます」  車の中で、メリさんがタブレット片手に俺からコーヒーを受け取った。  本当、炒飯は許されず、コーヒーは許されるのか。 「ねぇ、メリさん。アルビノって知ってる?」 「アルビノ、ですか? メラニン要素がない人間の総称ですね」 「めらみ?」 「メラニン。簡単に言えば色を持たないから白いんです」 「あー。真っ白だった」  コンビニで会ったお兄さんを思い出しながら、俺はサンドイッチを手に取る。  まずは、飯。 「……アルビノに会ったんですか?」 「うん。困ってたから助けた。えらくない?」 「どうでも良いですよ。一々報告はいりません」 「だよねー。そう言うと思った。メリさんには関係ないもんね」  アルビノについて聞きたかっただけだし、今のは余分だったな。 「……貴方、案外図太いですね」 「え? 褒めてくれるん?」 「僕は貴方が嫌いですよ」  呆れた声。 「え?」 「……何ですか? 傷つきましたか?」  あ、いや。 「……メリさんって、何か凄く良い人なのにリリさんやヘムさんが周りにいるの可哀想だなって」 「はぁ?」  嫌いな奴の質問にわざわざ答えてくれるなんて、良い人すぎない? この人。大丈夫?  あの二人に合わなさ過ぎじゃ無い?

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