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第2話 まかない

バーの看板が出ている、洒落たドアを開き、オレンジの温かい光で照らされた、地下へ続く長い階段を降りる。もう一つドアを開けるとカランコロンと喫茶店にあるような鈴が鳴った。  「お父さんっお帰りなさいっ!」 飛びついてきた女の子にリョウタは驚く。  (お、お父さん!?)  ツインテールの女の子は、可愛らしく垂れた大きな目をパチパチと瞬きをしてこちらを見た。  「お兄ちゃんだぁれ?」  「父さんのお友達だ。ハル!食事を出してやってくれ!」  「お父さんのお友達さん…お名前は?」  「あ!そういや名前聞いてなかった。」  「やだ父さんてば!お友達になるためにはお名前を聞かなきゃ!」  腰に両手を当てて注意するのが可愛くて思わず笑う。  「わ、笑われちゃった!父さんのばかぁ!」  「アイリ怒るなよ。」  顔を真っ赤にして怒るアイリに、桜井アサヒはクスクス笑って、リョウタを見た。  「俺はリョウタ。親はいないから、苗字はない。」  「や、いいよ。名前さえ分かれば。アイリ、リョウタだよ」  「リョウちゃん!宜しくね!」  こっちこっち、と手を引いてくれるのが、慕ってくれた施設の子どもたちを思い出して笑った。  「ハルちゃん!リョウちゃんにご飯!」  キッチンに行くと、ハルちゃん、と呼ばれた長身の男性が振り返る。人相が悪くてうっ、と固まる。黒いエプロンをして、イスを案内してくれた。 「座れ。アレルギーは?」  「特には」  「オムライス!オムライスにして!」  「卵がないのよー。ユウヒが全部食べやがった」 アイリはお兄ちゃん!とプリプリ怒って、その先に部屋があるのか、階段を走って行った。 「うるさくて悪いな。アサヒさんに認められたんだろ?何したんだ?」  「認められたかは分かりませんが…。借金取りに追われている子どもを守ったつもりでしたが…アサヒさんが殺しちゃいました。」  「それはそれは。大丈夫か?食える?」  出てきたのはホカホカのおでん。息を吹きかけて食べた大根は味が染みていて、なんだか温かい。  「うまぁ…っ、あったかい…」  「ははっ!泣くほどうめぇかよ?たくさん食べな!」  ニッと笑うハルに、涙と口に運ぶ手が止まらない。 優しい味が、疲れたリョウタの心を癒した。 

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