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第3話 ルームメイト
「ん…?…あれ」
静まり帰ったダイニングキッチン。風呂上がりにどうしたらいいか分からず、リョウタは食事をしたテーブルに伏して眠っていたようだ。可愛いウサギのイラストがついた黄色のブランケットが肩にかかっていて温かい。
コツコツ…
カランコロン…
革靴の音とドアが開く音で振り返ると、黒ずくめで大きな銃を持った長身の男がいた。
「…あの、こんばんは…」
「…うっす…」
流し目でこちらを見てすぐに逸らされた。
それだけ言うと、被っていた帽子を取ってボサボサの長めの髪をさらに手でボサボサにしながら部屋に入っていった。
「今日も怪我人なしっ!優秀優秀!」
「サキが仕留めたからな。あいつはサボり魔のくせにここぞには決めてくるからなぁ」
「ユウヒ、もう任務終わったって!寝なさい!」
上の部屋から聞こえたのは、先程美味しい料理を振る舞ってくれたハルと、もう1人。
優しそうな顔で、疲れたようにメガネを取った。
「よぉ。起きたか?リョウタ」
「あ、すみません!これも…」
「これはアイリがな。カズキ、こいつが新しい特攻」
「君が…。医師のカズキだ。宜しくね」
メガネをかけ直してカズキが上から下まで観察する。
「あの…特攻って…?」
「なんだ、お前アサヒさんから聞いてないのか?」
ハルが驚いたように首を傾げた。
任務の時に前線で闘うポジションが『特攻』らしい。1番命の危険があるそうで、体力や身体能力が試されるようだ。他には、狙撃、情報屋、護衛、指揮官などがいるそうだ。
「コイツもどうせ寝返るんじゃねーのっ!?」
上から降ってきた声に驚いた。
「コラ!ユウヒ!初対面だろ!?」
「特攻はどいつもこいつも使えない。早く15になって俺が代わる!父さんの期待に応えるのは俺だけだ」
ギロリと睨んでくる少年。雰囲気はアサヒににていて美少年だ。
カズキが、すみませんね、反抗期なんです、と笑うと上から反抗期じゃねぇ!!と怒鳴っている。
「どーしたんだよ。新人に優しいユウヒが…珍しいな…」
ハルはニヤニヤしながらタバコに火をつけ、煙を吐き出した。
「特攻は…嫌いだっ!父さんを裏切るから」
「裏切る…?」
「お前も!父さんに愛されたいだけだろ!?残念だったな!父さんにはミナトがいるんだから!」
リョウタは首を傾げた。喚くユウヒの言っていることがサッパリ分からない。呆れたようにカズキとハルが笑い、それを見たユウヒは怒って強くドアを閉めた。
「すまない。多感な時期なんだ」
「いえ…。」
「さぁ、リョウタもそろそろ寝な?部屋は…サキのところ空いてたな」
タバコの煙を漂わせながら、付いてきな、とハルが前を歩く。ウサギのブランケットを持ったまま、キョロキョロとあたりを見回した。いくつかの部屋があるようだ。
ここの住人は2人部屋を与えられいるという。ハルとカズキは同じ部屋で、桜井アサヒの子ども達のユウヒとアイリの面倒を見ていると話してくれた。廊下を進み、ドアを2つ通り過ぎたところで足を止めた。
「リョウタ、今日からここがお前の部屋だ。ゆっくりしてくれ」
部屋に入れられ、おやすみ、とドアを閉められた。
唖然と突っ立って、部屋を見渡す。
二段ベッドの下段には、先ほどのボサボサの髪が見えた。風呂上がりなのか、少し湿った髪と、シャンプーのにおいがする。少し覗き込むと、長いまつ毛と高い鼻が見えた。
(意外に…若い子だな…)
あどけない寝顔に少し笑って、音を立てないように二段ベッドのはしごを登る。
「え…?」
二段ベッドの上段にはたくさんの銃があって息を飲んだ。長い物から小さい物。きっとこの、サキの私物なのだろう。
(どうしよう…眠る場所がない)
床で寝ようと、静かに降りると、鋭い視線を感じた。
「ご、ごめん。起こした」
「俺のに触ってないだろうな?」
「触ってないです」
「ならいい。」
寝返りを打ったのを見た瞬間クシャミが出て鼻を啜ると、舌打ちが聞こえてサキはまたこちらを向いた。そんな薄着で…と睨まれた後、サキは布団を上げた。
「入れ」
「えっ!!?」
「うるさい。銃は移動させる気はない。いつか寝具を用意する。それまで耐えろ。特攻に風邪引かせたら俺の命が危ないからな。」
眠そうに大欠伸をしたサキに慌てて隣に潜り込む。
(あったかい…)
疲れていたのか、気持ちよく眠りに落ちた。
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