7 / 191
第7話 真摯
重い体をなんとか動かして、自分の部屋に戻ると、サキはいなかった。サキの布団に入ると温かくてすぐにまた眠りに落ちた。
「痛っぅ…」
「痛むか?」
「サキ…。おかえり…」
「寄らなくていい。」
「でも…サキが狭いよ?」
じりじりと寄ってサキのスペースを開けようとすると、背中と足に細い腕が入る。
「サキ…?…うわぁっ!」
ふわりと体が浮いたあと、そっとベッドに背中がついた。
「はい。移動終了。おやすみ」
(も、持ち上げられた…っ)
ドキドキしながらサキの寝息を聞いていた。幼い寝顔を見て微笑み、なんだか目が覚めたリョウタは、水を飲もうとゆっくり壁伝いにキッチンに向かうと、ユウヒの怒鳴り声が聞こえた。
「ほらな!あの特攻は使えない!!3日も寝てるなんて何してんだよ!」
「喚くな。ユウヒ。」
「サトル兄ちゃん!早く俺にも訓練させてくれよ!」
「ダメだ。アサヒさんのお子さんを殺すわけにはいかない」
「お子さま扱いすんなよ!」
ユウヒがサトルに向かって行くが簡単に倒され、それも頭を打たないように守られていた。
(す…すげぇ…)
「大丈夫か?怪我は?」
「うぅー!」
「ユウヒ。焦っても強くはなれない。まずは今やるべきことをやるんだ。」
「サトル兄ちゃん…俺、あいつが特攻なの嫌だ」
「何故だ?」
「裏切り者と似てる。あのオンナみたいな顔も、優しそうな雰囲気も。あんな奴こそ裏切るんだ。」
ユウヒの声には段々と嗚咽が混じる。
「大好きなお兄ちゃんだったのに…。父さんを独り占めしたいだけで、俺たちを裏切った。俺のことは、見てくれてなかった」
「ユウヒ…」
「レン兄の情報を初めて疑った。信じたくなかったの。あの時はごめんなさい。サトル兄ちゃんも怒らせちゃった」
「いいさ。終わったことだ。…リョウタはスピードがある。きっとお前も参考になるはずだ。見習うといい」
リョウタはビクッと肩を震わせた。
「立ち聞きは嫌われるぞ」
「あ…ごめんなさい」
「お前っ!やっぱり嫌いだ!」
「う、ごめんよ…」
あからさまに落ち込むと、ユウヒは一瞬目を見開いた後、サトルの胸に顔を埋めて号泣し始めた。
「ユウヒ?」
「えっ!?ごめ、ごめん!」
「ぅえええ〜ん!!」
ガチャ!!
パタパタパタパタ
「ユウヒ!どうした!?」
「ハルさん。悪い…起こしたか?」
「いい。ユウヒ?どうした?」
ハルはサトルからユウヒを預かって抱きしめ、頬を撫でて涙を拭う。ユウヒはハルに甘えるように抱きついてハルのシャツをぎゅっと握る。
「あいつ、リツ兄に、似てる、から、っ、嫌なのっ」
「えー?似てるか…?リツの方がもっと大人っぽくね?」
「似てるの!!俺を置いてった…リツ兄が、俺の、入学式、一緒に行くって、約束したのに、」
(寂しかったんだろうな…)
サトルもハルも気の毒そうにユウヒを見ていた。リョウタはゆっくりと歩き、ユウヒの前に座った。
「ユウヒ。寂しかったね…。思い出させてごめん。…でもね、俺は、ユウヒをもっと知りたい。悲しかったことも、嬉しかったことも。俺のも教えるよ。だから、ゆっくり仲良くなれたら嬉しい」
痛む腕を無理矢理上げて、ユウヒの手を握る。するとユウヒの目からは余計に涙が溢れた。
「本当だ…似てるかもな」
ハルも苦笑いして、リョウタの頭を撫でた。サトルとリョウタはハルに追い払われてキッチンを後にした。
ともだちにシェアしよう!