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第8話 見学

今日はサトルの仕事を見学するために同行させてもらった。レンという情報屋の護衛をしているそうだ。 「レンさんは…どなたですか?」  「あそこのバーカウンターにいるやつだ。」  「あぁ…あの茶色のスーツの…」  「違うその隣。」  茶色のスーツの隣には、真っ黒なロングドレスにブロンズのロングヘアの美しい女性がシャンパンを飲んでいる。  「あ。女性だったんですね。名前から勝手に男性かと思ってました。」  「いや、男だ。」  「あははー。男っぽい性格なんですか?」  「いや、男だ。」  「えっ!?」 仕草や立居振る舞いも女性にしか見えない。  「動くぞ」  「はい!」  ハイヒールを履きこなし、絵になる2人はホテルの部屋に入って行く。  「え…」  「インカムだ。」  渡されたものを左耳に入れると話し声が聞こえた。 『……俺に言えばなんだって手に入るさ』  『そうなの?私、その懐中時計、見たことないの』  『用意させよう』  『本当?その中にモノが…?』  『あぁ。海外からのモノだ。きっとユミも気に入ってくれるはずだ』  『やだ…トんだらどうしよ?』  『俺が天国を見せてやるよ』  『ンッ…、は、ンぅ…』  『綺麗だよユミ…』  リョウタは顔を真っ赤にして慌ててインカムを外した。 「何外してるんだよ。いいか、レンに何かあったら突入する」  「もうナニかあるじゃないですか!」  「大丈夫だ。」  もう一度左耳にさして、緊張したまま聞き耳を立てる。  『吉高さん…今日は、ダメな日なの。完璧な時に抱かれたい』  『全く…可愛いやつだ』  『でも、今日は私にご奉仕させてください』  『あぁ、頼むよ』  「っ!!!だ、ダメです!これ以上は聞けません」  「この童貞が。役に立たないな。」  サトルは涼しい顔して聞いていて、この音声はミナトにも流れていると聞いて、ミナトが只者じゃないことが分かった。  しばらくして、サトルのケータイにたくさんの情報と、吉高という男のケータイの中にある連絡先ややりとりなどのデータ全てが送られてきた。それをサトルは転送し、任務が終わる。  別室で化粧を落とし、最近の若者風で出てきた金髪のレンは完全に別人だった。 「よぉ!お前か!特攻って!チビだなぁ!」 道具は全てサトルが持ち、チャラい風貌のレンはズンズン前を歩いて行く。  「あのオッサン早漏すぎて助かるわー!めっちゃ気持ち良さそうだったわー!さすが俺!俺様のテクは物凄いからなぁ!わっはははは!」  「静かにしろ。まだホテル内だぞ。」  「へいへい。わかったよ!クソだりぃな!」  あまりにも別人すぎて先程のはやはり女性だったのかもしれないと思った。ホテルを出ると、サトルが用意していた車に乗り込む。もちろん運転はサトル、レンはご機嫌で助手席に乗り込む。リョウタは荷物と一緒に後ろに乗った。 しばらく進んでいると、レンが大人しくなり、様子がおかしくなった。 「うぇー…飲みすぎたかも…」  「…大丈夫か?」  サトルが片手でレンの前髪を掻き上げると、鼻にかかる声が漏れて、目を見開いた。 「違う、な、っ、これ、っ、やば…っ、…いっ…っヘン…クッソ…」  レンは急に大人しくなってコテンと窓に頭を預けた。サトルは路肩に車を停めた。  「っぅ、っは、はっ、はっ」  顔が真っ赤で汗をかき、呼吸が荒く、甘くなっていくレンにリョウタは心配になりオロオロしているとサトルからの指示でサトルのアタッシュケースを開けた。  (医療器具…サトルさんお医者さん?!) 「そこの瓶取ってくれ。」  茶色の瓶と、注射器などを渡す。レンは目を閉じ、眉を下げて顔を真っ赤にして必死に呼吸している。  「レンさん…」  「盛られたな…。まぁよくある事さ。慣れたレンでも強力なものにはこんな状態になる。」  「強力…」  「これ、普通のやつならホテルで意識を無くして簡単にヤられてるはずだ。」  注射針を慣れた手つきで入れ、採血をしていた。  「血を…?」  「この薬も立派な情報だ。」  「治療は…」  「今からだ。」  瓶の中の錠剤を取ると、サトルは自分の口に入れた。  (え?)  サトルはレンの後頭部を掴み、レンの唇を塞いだ。  「ンッ、っ、っ!ん、っ、!」  レンはサトルのスーツのジャケットを握って気持ち良さそうにしている。ゴクンと聞こえた後、サトルが口を放した。  「サトルっ、っ、やだ、お願いっ…俺っ」  「我慢しろ。じきに薬が効く」  弱々しくサトルを求めるレンは涙目で呼吸を荒くする。  「も…っ、はっ…これ、きっつ…っ」  泣き出しそうな声に、サトルはスピードを上げてアジトに向かう。  「はーっ、…ん、ん、はっ、はっぁ…ん」  ぎゅっと自分の服を握りしめて甘い吐息で苦しむレンにハラハラする。それと同時にその声にゾクゾクしてしまう。 (声だけでも…腰が重くなる…。早く解放してあげてほしい…)  何もできず、眉を下げて大人しくしているしかなかった。アジトが近付いてきた所で、レンが焦ったようにベルトを外しはじめた。 「サトルっ、サトルっ、お願い、触って!」  「あと少し」 「無理っ、もう、もう、無理ぃっ」  「チッ」  「頭っ、おかしくなる、っサトル、サトル」 駐車場に車を入れると、リョウタはすぐに降りろと指示された。慌てて降りると、助手席のシートが倒れ、サトルが覆い被さった。アジトの入り口まで走って車から離れた。 「ーーーーッ!!」  声が聞こえた気がして振り返る。荷物を下ろしたほうがいいのか、先に戻っていいのかしばらく迷ってウロウロしていると、車のドアが開いた。  「っ?…お前、まだいたのか」  「あ、すみません。道具とか…」  「そうだな…今日は助かる。レンがトんだからな。」  スーツケースとアタッシュケースを持って、サトルは長身のレンを持ち上げた。 「重くないですか?」  「重いよ。こいつ細いけど男だからな。それに、意識ないと全体重がかかる」 だらりと垂れる細い腕や長い足、金髪がプラプラと揺れる。レンの部屋に荷物なども置くよう指示され、そこにはサトルの私物もあった。  「同じ部屋なんですね」  「ああ。バディみたいなもんだ」  レンは疲れ切ったように眠っていた。  (情報屋は命の危険がすぐそこだ…貴重な情報のもと俺が動く…。しっかりしないと)  レンが起きると、昨夜のことは綺麗さっぱり忘れていた。情報屋対策だと知ってリョウタはそれにもゾッとした。情報はリアルタイムで送信済みでレンは仕事をしっかりこなしたことになった。

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