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第9話 初任務
「走ってきます!」
レンの仕事内容を知ってから、リョウタは真剣にトレーニングを始めた。サトルと何度も手合わせをして傷ができないようにもなった。
「ユウヒ!着いてこい!頑張れ!」
「くっそぉ!待てこらぁ!」
ユウヒも学校終わりに一緒にトレーニングをしている。アサヒはとても喜んでくれた。
「痛ぇえ!」
「ユウヒ、全体重を使うんじゃなくて、こう」
お互いの状態を客観視して伝え合い、体力があがるのが分かった。
ユウヒと鍛錬し始めて2週間。その日は突然やってきた。
「リョウタ、久しぶりの訓練だ。」
「はい」
「今回は人数を先に言う。25人だ。」
「はい」
前回よりも遥かに多い人数は、サトルやミナト、アサヒの期待を感じた。
(前よりももっと遅く見える。全然疲れないし…)
「っ!!」
咄嗟に避けた銃弾。擦りもしなかったことに、自然とニヤける。笑う自分に怯える敵。アドレナリンが出て止まらない。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「終了。32分」
「う…そだろ…」
サトルの結果発表と、ユウヒの落胆の声がする。ユウヒは5人に1時間まるまる使っていた。
「ミナトさん」
『うん。25人40分のリツを越えたね。明日の任務からスタートしようか。明日は銃撃戦も予想されるからサキも付かせる。』
「御意」
悔しそうにするユウヒに笑って、明日に備えようとアジトに戻った。
ハルの美味しい料理をユウヒと奪い合いながら食べる。アイリに怒られながらも賑やかな食卓が好きだ。
カランコロン…
「ただいま」
「お父さん!おかえりなさいっ!」
帰ってきたアサヒにアイリは飛びついて頬擦りしている。ユウヒはソワソワしながら自分の番を待っているのが可愛い。
「ユウヒ、ただいま」
「おかえりなさい」
「聞いたぞ。初訓練。よくやったな」
嬉しさを噛み殺すように唇を引き結んでいるが、だんだん堪えきれず甘えるようにアサヒに抱きついていた。
(可愛い!可愛いなユウヒ!)
頭を撫でられると、ふにゃりと笑った顔が可愛くて白米が進んだ。
ユウヒとアイリが寝る時間になって、リョウタも部屋に戻る。サキは眠っているかと思ったが、二段ベッドの上で真剣に銃の手入れをしていた。
「すごいな…こんなに種類あるんだ」
「まぁな。ミナトさんの指示ですぐに動けるように全部持っていく。」
「へー…」
「先に言っておくけど、俺が動かなきゃいけない時は、お前に何かあった時だ」
「え?」
「特攻が潰されたら次に動くのは俺だ。どこに配置されていようが始末する。ビルからならこれを、近くにいればこれを。つまり、リョウタ次第だ。」
ごくりと唾を飲む。レンだけじゃない、明日からは死と隣り合わせの任務が始まる。
「俺はずっと見てる。ミナトさんも。だから思いっきり暴れてこい。その間に残りのメンバーが動く。」
「分かった」
磨き終えたのか、ゆっくり降りてくる。
「リョウタ」
「ん?」
「死ぬなよ」
「…うん。」
この日はサキに強く包まれて眠った。いつもの寝息が聞こえなくて不安だったけど、確かめることも出来ずにただひたすら息を潜めた。
コンコン ガチャ
「っ!」
「おーい、特攻のくせに寝坊かー?」
レンの声に飛び起きてベッドに頭を打つ。見ていたレンは崩れ落ちて指差して爆笑していた。
「ひーっ!ひーっ!だっさ!だっさ!」
「もう!いい加減にしてくださいよ」
リビングで集まっていても笑い続けるレンにさすがにイラつく。
「黒ひげ危機一髪みたいにっ!わっはははは!」
「レン」
「はぁい!すみませーんっ!!」
ミナトに名前を呼ばれただけで落ち着いたレンをジロリと睨んだ。目が合うとまだクスクスしていたが、隣のサトルにお腹を殴られて静かになった。
「いい?指示はその場で変わる。状況にあわせて動いて欲しい。ターゲットはココ。レンが待ち合わせているのは19時だから、サキはこの打ち合わせが終わったらすぐ向かって。6時間待機。19時にレンと落ち合ったところでサトルとリョウタは尾行して。レンに何かあれば戦闘開始。サトルはレンの回収、リョウタは黒幕が尻尾を出すまで進んで」
「御意」
「了解です!」
「レン、自分の安全だけ考えて。」
「はーい」
「リョウタが万が一ケガしたらサキは敵を躊躇なく殺していいから。仕留め損ったら…分かってるよね?」
「はい。…アサヒさんが現場に出る」
全員がヒヤリとした。相変わらず真顔のミナトも少し顔が怖くなる。
「そう。今回はアサヒを出すまでもない。手間をかけさせることは許されない。しくじる時は死ぬ時だよ。」
「はい」
「サキ。リョウタが潰れたらサキが現場に向かって」
「はい」
「リョウタ。突っ走らないで、冷静に指示を聞いて。その時のベストだけしか言わないから」
「了解です!」
死なないで、と言った言葉が、この作戦会議の締めの言葉のようだ。全員がそれぞれのやる事をする。
(よし!)
リョウタもストレッチして、用意された服に着替えた。
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