リョウタが屋上に着くと、サキが1人の人に銃口を向けていた。きっと撃ち殺すのだろう。でも、リョウタには、サキにさせてはいけない、と身体が反応した。　 『リョウタ！だめだ！止まって！』　 珍しく声を荒げたミナトに、心の中で謝り、対峙した人に向かう。その人は冷めた目で振り返り、目の前から消えた。　 「うっ！ぐ、…っ、ぐ」　 全く見えないうちに、たくさんの衝撃を受ける。受け身が取れないほどのスピード、食らった威力、リョウタは何もできない。　 「まさか、お前が新しい特攻？…落ちたな」　 「っぅ、っは、」　 「こんな弱い奴…今までの特攻よりもクソだ」　 「ぐっぅ、」　 「虫唾が走る。お前みたいな雑魚が、アサヒさんに選ばれたなんて。消えろ！消えろ！！今すぐ消えろ！！」 「ぐっ！！っぁ、っ」 パン！　 ドサッ　ドサッ （ぅ…っ、撃たれた…？）　 地面に落ちて、目を開けると、隣にリツが左腕を押さえて倒れた。 「次は利き腕を撃つ。アサヒさんを出すまでもない。」　 「っ…、あくまで殺さない程度…再起不能にするって？」　 「そうだ。」　 「どうぞご自由に。…でもさぁ…サキ、アサヒさんに会えないなら俺、生きる意味もない。今殺してよ」　 「…」　 「…ふふっ。サーキー、優しすぎるよ？こんなんだから、ここぞの時に手が止まるんだよ。初めてのオトコのことなんか忘れてよ」　 「っ…」　 「サキがどう頑張っても、俺がサキを見ることは一生あり得ない。スカウトされた日から、俺はアサヒさんしか見てないから。」　 サキの手から銃が落ちる。カシャンと寂しい音がした。そして、この元特攻リツの言葉と、あまりにも優しくサキを見る顔が残酷だった。　 「サキ、バイバイ。」　 ふわりと笑った顔に、サキは膝から落ちた。完全に戦意喪失したサキの所へ動こうとするも、ピクリとも動かないどころか、血を流しすぎて意識が朦朧とする。　 「ミナトさん、聞こえてる？次に会ったらあんたの目の前でアサヒさんを奪ってやる」　 『サキ、インカムをリツに渡せ』 「っ！！」　 聞こえた声に、サキとリョウタはビクッと跳ねた。サキはカタカタと僅かに震える足で、立ち上がって、ゆっくりとリツに近づく。　 「…何？銃ももたずに…」　 痛みに耐えながらサキを見上げるリツ。渡されたインカムをゆっくり耳に入れる。　 『リツ、元気そうだな』　 「っ！…アサヒさんっ！アサヒさん！」　 声を聞いた瞬間、リツの目に涙が溢れる。サキはぼんやりとそのリツを眺めた。 『俺に言いたいことでもあるようだな』　 「アサヒさん、っ、」　 『…なんだ？リツ』　 優しい声だ。安心するような、リツを落ち着かせるような声だった。　 「アサヒさん、俺だけを、見てほしい」　 『それは出来ない』　 「ミナトさんじゃなくて、俺を選んでほしい」　 『それは有り得ない。』　 「っ！」　 『お前さっきサキに言ったろ？お前も初めてのオトコなんか忘れろ』 「っ！！」　 『お前がしくじったから俺が処理してやった。それだけだ。俺はミナト以外に触るつもりはない。勘違いすんな。あれはミナトの指示だ。』　 「ぅ、っ…っ」　 『仲間を裏切った、俺を裏切ったお前になんの感情もないよ。そうなるの分かってただろ？お前が選んだことだ。幸せになれよ。』 リツは泣きながら血が流れる左腕を握りしめた。　 『まぁお前が幸せになろうもんなら、秒で潰すけどな？』　 外せ、とリョウタに向けて指示されたのを聞いて、リョウタは慌てて耳からインカムを外した。　 「ぐっ！！」　 リツの耳からパタパタと血が流れた。外したインカムから爆音が鳴り続ける。グラリとよろけたリツをサキが支える。　 「リツさんっ、戻ってきてほしい…」　 「っ、っ、俺にっ…触るな…」　 「リツさんっ…」 サキを突き放して、よろめきながら、出口へと向かって行く。出口にはリツの仲間が待っていてリツを抱き上げ去っていった。