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第12話 躾部屋

2日間意識を失ってようやく目覚めると、躾部屋というところへ呼ばれた。そこにいたのは、ミナトとアサヒ。  「呼ばれた理由はわかるかな?」  「たくさんありすぎて…」  2人の笑顔と圧が怖くて下を向いた。リョウタが眠っていた2日間はサキがここに入っていたようだ。  「まずは…、指示を聞きませんでした。サキの邪魔をして…ボコボコにされたこと…、怪我をしてしまったこと、またハルさんから血を頂いたこと…」  「まぁーそうなんだけど。」  アサヒはミナトの肩を抱いて、ニヤリとこちらを見た。  「リツとの差を埋めろ。あまりにも弱すぎる。訓練と実戦は違う。リツは訓練で手を抜く、だが、実戦は動ける。今までリツを越えられない特攻は全員死んだ。」  「っ!」  「俺はお前を死なせるために入れたわけじゃない。素直そうなところを買ったのさ。なのにミナトの指示を聞かなかったな?」  「…はい。すみません。…あの時…サキに、あの人を撃たせちゃいけないと思ったら、身体が勝手に…」  最後は声が小さくなった。あまりにもアサヒの眼光が鋭くて、頭に銃を突きつけられているようだった。  「直感タイプかな?」  「だろうな。初対面で当てるとは」  「リョウタ、できる人かも」  「任せてみるか」 2人はヒソヒソと小声で話したあと、リョウタに優しく微笑んだ。  「サキを宜しくな?」  「傷心だから癒してあげて」  「傷心…」  「リツはね、サキがここに来て、ずっとそばにいた人だから。ユウヒと同じくらい…もしかしたらそれ以上に大切な存在だった。」  ミナトは眉を下げて頬杖をついた。 「まぁ…サキとそーゆー仲だったからデキてるのかと思ってたけど…まさかリツがアサヒにこんな執着してたとはね…」  流し目でミナトがアサヒを見ると、アサヒはふにゃりと笑ってご機嫌になった。 「…何だよ嫉妬か?!可愛いやつだなぁ!」  「嫉妬なんかしないよ。何人目なの?全く…」  「仕方ないよ!色男の相手になったんなら耐えどころだな?」  「いつ相手になったの?本当勘違いされて困るよ」  アサヒは嬉しそうに笑い、照れ屋さんだから、とリョウタに言うとミナトは呆れていた。1時間ほど2人の惚気みたいなやりとりを聞き、機嫌を損ねないように注意を払って相槌をうった。  (はぁ…はっ、どうしよ…、ちょっと、体調が悪い…けど…)  悪寒がして冷や汗が流れる。頭がぼんやりしてきて、惚気が聞こえなくなる。  「アサヒ、そろそろ休ませてあげようよ。」  「いや。まだだ。限界を超えてもらう。リョウタにはリツを潰してもらわなきゃならない。ミナトや、仲間、そしてサキとユウヒの為にも。…あいつらがリツに手を下せる訳がない。なら、リツとは関係のないリョウタがやるしかないんだ。」  「でも…」  今にも意識が飛びそうなリョウタに、ミナトは眉を下げる。  「リツはどんな高熱でも、骨が折れてても笑って任務をこなした。リョウタにもそうであってほしい。」  「…リョウタはリョウタだよ。リツにはなれない。比べるな、って言ったのはアサヒでしょ。」  「口答えか?」  「違う。事実。それぞれのやり方がある。リョウタは直感が優れてる。リツみたいに間違った方向にはいかない。ただ身体的なハンデはどうしようもない。カズキが言ってた、血が止まりにくいって。まだ貧血かもしれない。これは耐えるとかじゃなくて、回復のために必要なんだよ。」  アサヒはつまらなさそうに聞いたあと、甘えるようにミナトに抱きついた。  「ごめん。あいつのせいで冷静じゃなかった」  「うん。いいよ。」  「殺したくてたまらなかった。ミナトが止めるから…」  「サキの目の前では酷だよ。サキが選ばない限り、他人が目の前で消すとサキのメンタルが保たない。」  「…殺してぇよ。俺の仲間が何人も死んだ。俺のせいだ。」  「違うよ。」  ガシャンと椅子から落ちて、意識を失ったリョウタを無視して、2人はキスに夢中になった。リツが現れたことでアサヒの機嫌がずっと悪かった。サキは精神的な拷問で躾され、傷付き、部屋に篭った。アサヒの誰よりも強い後悔や悔しさ、苛立ちはミナトでしか解消ができない。そしてミナトも、アサヒに触れることで自分を保っていた。 「あっ…っ、っ、ンっ、ん、ふっ、」  「好きだよ、ミナト、愛してる」  大きな熱が、狭いところをゆっくりと進む。ガクンと腰が跳ね、出そうな声を押し殺す。何度も抱かれているミナトはすぐに快感に落とされる。 「んぅ、っぁ、っ、っ、ッ!!」  「好きだ、好きだよミナト、絶対に逃がさない」  「もう、っ、逃げない、って」  ミナトはこの時だけ自分が生きていると実感していた。アサヒの体温が、自分の中にある時は泣きたくなるほどの説明がつかない感情に戸惑う。嫌なのか、気持ちいいのか、辛いのか、もっとなのか、普段一切出てこない感情が口から出そうになる。だんだん絶頂に近づくと、いつも怖くて、必死に腰を引いて、アサヒの背中に爪を立て逃げる。 でも、すぐに飲み込まれる。  背中から落ちた両手をしっかり握られ、ぼんやり見つめると、誰もが憧れるあの顔で笑う。 「俺に任せて、大丈夫だから、ミナト、大丈夫だから」  「ンんーーッ!!や、っぃ、ぃや!」  「全部俺が受け止めるからっ、ミナト、そばにいるからっ、だから、イけ」 「っ!っ!ッ!ーーッァアア!!」 中にどくどくと注がれる熱が、今後、自分が死ぬまで自分のところだけに注がれますようにと祈った。その後に、リツのようにアサヒを独り占めしたがっている自分への自己嫌悪が襲って涙が込み上げる。  「ミナト…」  「ぅっ、っ、ぅ、っ、」   「ごめんな、不安にさせたな。俺はミナトのモノだから。お前だけだよ。」  「ぅっぅ、ひっく…っぅ、っ」  「あぁもう。泣くなよー…お前が泣くとどうしたらいいかわかんねぇよ。」  アサヒと体を重ねた時だけ、自分が現れる。弱くて、卑しい自分。そんな情けない自分を見たいと、出してほしいと、わざわざ引き摺り出して、抱きしめてくれるアサヒが心の支えだった。  「1人にしないで」  「分かってるよ。お前が死ぬまで一緒にいる。」  「もう今死にたい、疲れた。みんなのとこいきたい」  「ダメ。お前は俺とお爺ちゃんになるまで死なせない。死ぬよりも楽にいられる幸せを与えるって言ったろ?」 ニシシと笑う顔に心臓がドクドクうるさくなって顔が熱くなる。  「今日は寝ような?」  「眠れるかな…分からない」  「一緒に寝よう。リョウタ預けてくる」  アサヒはミナトの後処理をした後、リョウタを担いで出て行った。 

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