16 / 191
第16話 天才
レンはアジトに着く頃には昏睡状態になった。途中、サトルが呼吸器をつけてあげていなければ最悪の事態になっていたとカズキは話した。顔色も悪く血圧も低く、心音も弱い。
「アイリに解毒剤をお願いしてるけど…」
カズキははらはらしながらアイリとユウヒの部屋のドアを見つめた。
「アイリが解毒剤を…?」
「あぁ。あの子は天才なんだ。薬品関係の知識と、調合は僕でも真似できない」
カズキはレンの容態をみながら、サトルを心配そうに見た。
「サトル、少し寝てきて。レンはきっと大丈夫だから。」
聞こえていないのか、レンを見たまま黙っている。
「サトルのせいじゃない。これは仕事。毎回言ってるでしょ」
カズキの声はサトルには届かなかった。
パタパタ
ドカン!
「カズキ兄ちゃん!できた!やってみて!?」
「アイリ!ありがとう!!」
アイリの手には透明な液体が入った瓶があった。そして、左手の甲は針の穴だらけで血がたくさん滲んでいた。
「アイリその手…」
「あぁこれ?実験してたんだぁ!レンちゃんの血液から取った成分と同じものを作って、反応を見てたの。アイリも同じ薬を作って打って、これで良くなったから」
(こんな危険な実験を自分の身体で?!)
カズキは貰った薬をレンに打つ。
「アイリ、おいで」
カズキはアイリの手を手当てしていた。ピッピッという音が強くなってきて、安定してきた。
「さすがアイリ!やったぞー!!」
「えっへへー!嬉しいー!!」
「ハルがご褒美でプリン作っていたよ。もう出来ていると思う。行っておいで」
「プリン!!ハルちゃんのプリーン!」
嬉しそうに回転した後、ハルのいるキッチンへ走って行った。
「アイリにあんな才能があるとは…」
「天才だよ。成績もずっとトップクラス。アサヒさんに似たのか、奥様か。」
カズキはレンが落ち着いたのを見ると、リョウタの肩を抱いて医務室から出した。
「レンがあの状態になると、サトルは自分を責めて何も使い物にならない。そっとしておこう。」
カズキとキッチンに行くと、アイリは美味しそうにプリンを食べ、ハルはそれを頬杖をついて微笑んで見ていた。
「リョウター、プリンあるぞ」
「やったぁ!」
羨ましかったリョウタは自分ももらえることを知って勢いよく席についた。
「あははっ!本当お前犬みたい」
「はい!よく言われます!いただきまーす!」
スプーンで掬うだけで嬉しくなって顔が緩む。カズキとハルが爆笑しているが構わず食べる。
「うっ…まぁあ…」
「「あっはははは!!」」
「リョウちゃん、美味しいね!」
「美味しいね!」
目の前の夫婦はいつまでも笑っていたが、アイリとリョウタも美味しさに自然と笑顔が溢れた。
ともだちにシェアしよう!