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第18話 引き金

(後ろに3人、左に4人…)  レンが得た情報を元に、お嬢様の父親の薬製造現場へ特攻を始める。レンが命懸けで掴んだ情報を最大限に生かし、自分が黒幕の首を取るつもりで先陣を切る。  『いいよ、リョウタ。あと200m。気を抜かないで。』  「了解です!」  警備は全員気絶させた。 だんだん、強い薬品の匂いと… (人の叫び声?!)  目の前に重厚な鉄の扉が現れた。その向こう側から叫び声や呻き声が聞こえる。  「ミナトさん」  『今開けるね。リョウタ、冷静にね。もしかしたら検体がいるのかも。その人たちはなるべく殺さないように。重要な情報源だから。研究者1人を生捕り、あとは全員殺処分。』  「了解です!」  ガコンという音とともに、引き戸がゆっくり開く。  「っ!!?」  目の前の光景に目を見開いた。  (何…これ…)  全裸で倒れる人。子どもや大人もいる。そして、白衣を着た研究者が何かをデータに打ち込んでいる。リョウタに気が付かないほど、被験体が叫ぶ。    「うわぁああああ!」  「まだ死なないですね、これは失敗作です。旦那様からは10分で、との指示がありますから。」  (レンさんへの薬はここで作られた…多くの人が犠牲になった。そして、レンさんも危なかった。)  ブチン!!  「お前らが死ねばいいだろうが!!」  「っ!な、何者だ!警報、警報…ぐはっ」  死体を避けて、越える度に怒りが収まらない。きっとこの人達はアイリみたいに優秀で、人を助けることができるはず。それなのに何故、その力を殺すために使っているのか。それが許せずに、無抵抗に近い、逃げる研究者達を殺していく。  (こんなの!無駄な知識だ!得するのは雇っているやつらだけだ!!)  先ほど叫んでいた人は事切れた。助けられなかった。歯を食いしばると血が滲んだ。  『リョウタ、あの人だけは生かして、殺しちゃダメ。』  「ミナトさんっ、殺したいよ」  『ダメだよ。大事なこの人も貴重な情報源だから。気持ちは分かるけど、言うことを聞いて。』  情報源と聞いて頷いた。良い子、と褒められて研究者1人を気絶させ、被験体の息のある人を探す。  「っ!君!大丈夫かい?」  「殺して、お願い、殺して」  「俺だってあいつを殺したいけどダメなんだ」  「違う、私を殺して。もう生きたくない」  「ダメだ。生きて。君はここから出るんだ」  「出たって行き場所なんかない。死ぬためにここにいるのに」  リョウタは絶望のあまり、何もできずに固まった。死にたがる目の前の人。でも死んでほしくない、きっといい未来が…。  『リョウタ、次の行程へ』  「こ、この人は?」  『調べたところ被験体は全員犯罪者。…だからバレなかったんだね。この人は自分の子どもを殺害。反社会の人の妻になったけど抜けて追われてる』  「ならうちで…」  『それはアサヒが決めること。リョウタはそのまま進んで』  指示に従って先を急ぐと、後ろでドサリと音がした。振り向きたいのを我慢して前に進んだ。  地下から裏ルートで最上階へ上がる。お嬢様の父親がここにいる。この人が、人を苦しめる薬で大儲けしている人だ。  『こんなスムーズに行けるってことは、向こうは気付いてる。リョウタ、死なないでね』  「了解、です!!」  突入と同時に銃声が鳴る。殺気で俊敏になったリョウタにはそれさえも遅く感じた。  (見つけた!逃さない!!)  他の奴には目もくれずにそいつだけを追う。シェルターに入ったところで、命乞いが聞こえた。  「お前を雇ってやる。」  「2億を支払う」  「一生の安全を約束する」  どれも、リョウタには全く響かないものだった。敵から奪った銃でシェルターの入り口を破壊する。  『リョウタ、いいよ』  ガタガタ震えるおじさんに笑う。やっと、苦しんだ人達の気持ちが分かっただろう。  (お前がいたら、たくさんの人が死ぬ)  リョウタは笑いながら引き金を引いた。 

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