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第19話 宴会
「任務成功おつかれさーん!」
「「お疲れ様でしたー!」」
アサヒはご機嫌でワインを流し込む。組織の全員が食卓を囲んだ。
「リョウタが初めて任務完了!成長したな!」
「ありがとうございます!」
「リョウタ、落ち着いて。おかわりはあるから」
食欲が止まらなくて口いっぱいに頬張る。アサヒはそれを見てププっと吹き出した。
「いやぁー、やっぱセンスあると思うよ。任務後は食べられないやつ多いけどな」
「リョウタは指示も聞けたし、よくやったね。」
ミナトが微笑み、全員が頬を染める。
「サキは緊張してたみたいだけど」
ミナトがチラリとサキを見ると、ぎくっと肩を震わせた後、小さく呟いた。
「銃撃戦の中、丸腰なんて…そりゃあヒヤヒヤしますよ」
「武器なんて敵から貰えるから大丈夫だよ」
「「貰えるから」」
ミナトとアサヒが揃って復唱した後、ケタケタ笑い始めた。ミナトが笑ってるのを初めて見た全員は顔を見合わせ、花が咲くように笑った。
「負けねぇからな!」
「あぁ!ユウヒが1番のライバルだから、俺も気が抜けないよ」
「いち…1番とか言うなバーカ!」
「こら、ユウヒ。好きな子には優しくしないと」
アサヒがチーズを食べながらユウヒに言うと、ユウヒは顔を真っ赤にして怒った。アサヒはずっとご機嫌で、爽やかな笑顔が、モテるのも分かるなぁとリョウタはぼんやりとその笑顔を見つめた。
トントン
足を指で叩かれ、隣のサキを見ると、つまらなさそうにこちらを見ていた。
「ん?」
「見すぎ」
「え?」
「アサヒさんばっか、見すぎ。」
無意識を指摘されて驚くと、ミナトとも目が合い、ニコリとされた。
(ミナトさん、酔ってる?)
「あまり見てるとミナトさんに警戒されるよ」
「う、気をつける!ありがとう」
ミナトを見るとクスクス笑っていて首を傾げる。ハルがそんなミナトに目を奪われていると、テーブルの下でアサヒに足を踏まれ、慌てていた。
「サキってば、僕を使わないでよ」
ミナトが酒が入った火照った顔で指摘した。すると、アサヒが興味津々に食いついてきた。
「リョウタがアサヒばっか見るから、サキが拗ねてる」
「はぁー!?お前!父さん狙いかよ!?」
「ち!違うよ!みんなしていじめないでよ!アサヒさんが嬉しそうだとみんなが穏やかだなって思ってただけ!…すごく、居心地がいい場所を作ってるんだなって…」
全員の視線に恥ずかしくなって俯いた。
「だって。サキ、ユウヒ、安心だね?」
「もぅ〜みんなしてリョウちゃん取り合って!アイリの旦那さんなんだから!」
「「「え!!?」」」
アイリはドヤ顔で言い放ち、アサヒは勢いよく立ち上がり、リョウタの胸ぐらを掴んだ。
「てめぇ、アイリに手を出したのか?」
「ままま、まさか!!しょ、小学生ですよ?」
「お父さんやめてよー!乱暴しちゃダメ!」
「だってアイリ?旦那さんなんて…」
「アイリはリョウちゃん大好きだもん。ねぇ?お父さんいいでしょ?」
「う…っ。うー!!ダメだダメだ!アイリを嫁になんか!!ぅ、っ、うー」
アサヒの目が潤み、アイリを抱きしめながら泣き始めた。
「アイリー俺を置いていかないでくれぇ〜」
「んも〜お父さん、酔いすぎ〜」
アイリは楽しそうにアサヒの頭を撫でた後ミナトを見た。
「お父さん、酔っちゃったみたい」
「うん。休ませるね。」
ミナトはゆっくり立ち上がって、アイリからアサヒを受け取った。
「ミナトぉ、アイリがあのヘナチョコ野郎の嫁に…」
(ひどい!!)
ハルとレンはリョウタを指差して笑ってきて、じわりと涙が浮かんだ。
「リョウタぁ!俺は、俺は認めねえー!アイリはやらん!おぼえてろ!」
「はいはい。リョウタ、明日からあたりきついかもだけど、頑張ってね」
ミナトに言われてガックリと肩を落とす。アイリとユウヒがリョウタの脇で取り合っていたが、可愛さに負けて2人とも抱きしめた。
しばらく宴会は続き、ハルがアイリとユウヒをお風呂に入れに行った。病み上がりのレンはサトルの膝でスヤスヤ寝息を立てている。カズキは片付けをし始めて、リョウタはそれを手伝った。
「うちの特攻はモテるねぇ」
「モテてないです。揶揄われているだけです。ひどいよ、みんなして。」
「それにしても、サキとユウヒはこうも被るかね」
「被る?」
「そ。君がタイプみたいだよ?罪な男〜」
眼鏡の奥で優しい目が笑う。
「カズキさんは…ご結婚されてますか?」
「僕?僕は独身だよ。恋人はいるけど。」
「遠距離ですか…寂しくないですか?」
「寂しくないよ。いつも一緒だから。」
ドタバタ
「コォラ!ユウヒ!髪!ドライヤー!」
「やだ!俺これ嫌い!」
「アイリも使うからさっさとしろ!」
一気に騒々しくなり、レンが目を覚ましてユウヒにゆっくり近づき、ギュッと捕まえた。
「ユウヒ〜♪」
「ひいっ!!サトル兄ちゃん助けて!」
「前言ったよな?今度ドライヤーから逃げたら悪戯するって」
甘い声で囁き、レンがユウヒの太腿を撫でると、ユウヒは真っ赤になって急いでドライヤーをした。
「あーあー。大人にしてやろうと思ったのにーっ」
「お前アサヒさんに殺されるぞ」
「成長を助けてやってんの。殺されるわけないだろー?バカだなー。」
「バカはお前だよ」
呆れるサトルの肩にまた頭を預けてウトウトし始めた。ユウヒはレンをチラチラ見ながら静かに部屋に逃げていった。
アイリとハルが戻ってくると、カズキがニコリと笑った。
「ハル、リョウタに言っていい?」
「ん?何を?」
「僕の話。」
「え?したら?」
何で俺に聞くんだとハルは呆れながらアイリの髪を乾かし始めた。
「ハルが僕の恋人」
「え!!?」
「はぁ!?お前、何言ってんだ!!」
ハルが慌ててドライヤーを止めて叫ぶ。カズキは聞いたでしょ、としれっとしている。
「リョウちゃん知らなかったの?」
アイリはきょとんとしていた。
(こ、この組織…リア充すぎる…)
「ハルのギャップがさ…。あんな強そうなのに、器用で優しくて、世話焼きで…。本当いい奥さんって感じかな。漢字読めないけど」
「カズキー聞こえてんぞー」
「アイリが漢字を教えてあげるね」
「優しいなぁ〜」
ハルはアイリの髪を綺麗に乾かした後、一緒に部屋に入っていった。
「アイリは…まぁ、ユウヒもだけど早くから母親を亡くしているから、毎晩ハルか僕かが一緒に寝かしつけるんだ。夜になると2人とも寂しがるけど、アサヒさんには強がって甘えないから。」
「そうなんですね…寂しいだろうな」
「でも、夜中になったらアサヒさんは2人の部屋で寝てるよ。だから朝は一緒。アサヒさんはミナトさんを寝かせなきゃだから。」
複雑な家庭環境に眉を下げた。施設にいたリョウタは毎晩同じ歳の子ども達や年下の子達と寝ていた。リョウタは新しく入所した子の世話係だったのを思い出し懐かしく思った。
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