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第21話 囮

怖い夢を見た。  任務失敗したことで、みんなが冷たく見てくる。温かい日々がガラガラと崩れていく。 「ヘマしやがって。だからリツに及ばねぇんだよ」  「特攻としては力量が無さすぎるかな」  「あれだけ鍛錬したのに無駄な時間だった」  「リョウタがいなくても俺が特攻になるよ」  「任務があるのに熱?体調管理もできないなんてありえないな。」  「俺がとってきた情報が無駄になるところだった」  「アイリの手…傷だらけになっちゃった」 「今日からはあいつの分の食事は無しだ」  「女みたいに…男のくせに気持ち悪い」  (俺の失敗が迷惑をかけた…。もう、ここにはいられない)  暗闇の中で、涙を流すと、頬を触る温かい手に驚いて目を覚ます。  「リョウタ、大丈夫か?」  アサヒのドアップに息を呑んだ。そして周りには心配そうなメンバーが。  「良かった…リョウタ、頑張ったね」 ミナトが少し眉を下げた。リョウタは覚醒しない頭のまま、ぼんやりとみんなを見た。 「リョウタを狙ってくるのは分かってたけど、捕まらないと思ってたから…。体調悪かったのかな?気付かなくてごめんね」  ミナトは資料を見ながらため息を吐いた。  「…見つからなければ売られてたかも。スタンガンも服で隠せる場所に当てられてるし、リョウタの動きを見て品定めしてたんだろうね」  「ど…いう…ことです…か」  絞り出した声は掠れていて驚いた。  「男色家のオークションよ。リョウタみたいに、若くて、可愛い系の童顔。ほどよい筋肉と体力のある奴が高値で取引される。今回は…リョウタを囮にして黒幕を出す作戦だった。でも、下っ端が我慢出来ずにリョウタに手を出した…まぁ…結果は成功…かな。」  レンは、話さなくて悪かった、と頭を下げた。 「成功…したんですか?」  「あぁ。焦れた黒幕が自らリョウタの所に行こうとしたところを、リョウタを捜索するサキと鉢合わせた。サキは一瞬で仕留めてくれた」  目線だけでサキを見るも真顔のままだった。  「いやぁ、サキも近距離戦できるように成長してたね!偉いよ!」  アサヒはニコニコしてサキの頭を撫でた。  「レンの言った通り、今回は囮だった。言わなかったのは僕の指示。まだ囮の訓練をしてなかったから、意識しちゃうよりは、と思ったけど…。」  ミナトは眉を下げたままこちらをしっかりと見た。  「怖い思いさせたね。ごめんね。」  この言葉で涙腺が崩壊した。  怖かった。 何も出来なくて、ただ助けを呼んで叫んだ。  この場に居られなくなると思った。  腕で涙を拭いても拭いても止まらなくて、しゃくりあげるように泣いた。  アサヒが頭を撫でてくれて、大丈夫大丈夫と言い続けてくれた。高熱もあって、疲れて目を閉じた。  リョウタが目を閉じると、集まっていたメンバーはそれぞれの部屋に戻る。動かないままのサキにレンは隣に座って、サトルを先に部屋に戻した。 「サキ…支えてやれ。助けてくれたお前ならリョウタも安心できるはずだから。」  「…はい」  「なーに落ち込んでるの?」  「…」  「仕方ないさ。好きなんだろ?リョウタのこと。…聞いたぞ。アサヒさんの躾部屋に自ら来て、躾希望なんて…」 サキは拳を握りしめて俯いたままだった。  「襲われてるのを見て、頭に血が昇った…。すぐ、殺した…。先にミナトさんに報告しなきゃだったのに…。それに…」  「…欲情してしまったと…。ミナトさんの指示が聞こえないくらい夢中だったみたいだな。」  サキはギリッと歯を鳴らした。  「言ったろ?仕方ないの。そりゃ好きな人が目の前で誘ってんだ。」  「リョウタは誘ってない。怖いって言って泣いてた。俺も、あいつらと変わらない。俺も、リョウタを襲ったんだ。」  「違うちがーう。助けたの。お前さ、薬の強さ舐めんなよ?放置される地獄味わってみ?…アサヒさんだって、だからリツを抱いただろ?これは、仕方ないことなの。」  レンは呆れてリョウタのベッドに頬杖をついた。  「ヤったの?」  そう聞くと首を横に振った。レンは口笛を吹いてニヤリと笑った。  「若いのによく我慢できたなぁ〜!すげぇよ。」  「泣いてたんだ!…そんなリョウタを…抱くなんて…」  「まぁまぁ。気にすることはないっつー話。リョウタは可愛い顔してるから守ってやれよ?変態じじい共のオカズにされちゃ胸糞悪いからな。」  レンは立ち上がり、部屋に戻ろうと歩き出した。後ろから慌てたように、サキが呼んだ。 「…レンさん…。もし、また、リョウタがこんなことになったら…俺…」  どうしたらいい?と、必死の顔に、年相応な顔が見れて嬉しくなった。レンはニヤリと笑った。 「ぶっ飛ぶくらい激しく抱いてやりな。」  ドアを閉めて鼻歌を歌って部屋に戻った。  「……簡単に言うなよ…だから大人は嫌いだ…。」  サキは頭を抱えた。 

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