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第23話 大人の階段

「リョウタ、サキ起こしてきて」 「はーい」  ハルに言われて部屋に戻る。二段ベッドの下にはまだ夢の中のサキ。 サキに告白されて、それを受け入れて、みんなに祝福されたのがこの間。(ユウヒとアイリは認めていない)特に変化のない穏やかで幸せな日々。  「サキ、サキ」  「ん…、…」  寝起きの悪いサキが可愛くて、この時間が結構好きだ。いつもの固く無表情な顔の筋肉が緩んで、年相応の顔をしている。リラックスして気持ち良さそうな寝顔。しばらく見つめていると、意識が浮上して、長いまつ毛が震える。  「おはよう」  「…近…」  「えっへへ!また見てた!」  「っ、見るなって…」  寝返りを打ってしまって残念になる。ボサボサの髪を撫でながら、またサキを呼ぶ。  「サキ、朝ごはん。」 「もう、起きたから向こう行って」  「え?一緒に行こうよ。待ってるから」  「いいって。すぐ行くから」  「何で?また寝ちゃうかもだろ?」  引き下がらないリョウタに、サキは顔を真っ赤にして顔だけ振り返った。  「察してくれよ…リョウタも男なら分かるだろ」  恥ずかしそうに潤む目にドキッとした。もじもじと足を動かして、切なそうに眉を下げる。  (可愛いっ!)  ドキドキして、ゆっくりとベッドにあがると、飛び上がるようにサキが起きた。  「なっ!?な、なんで、上がってきてんの」  「お手伝いしようかなって」  「は?ガキ扱いすんな!」  「怒らないで。ほら、みんな待ってるから。」  兄貴ヅラすんな、と悔しそうに言うサキはしっかりテントを張っていて、リョウタはクスクス笑う。スウェット越しに触ると、ビクッと跳ねて、喉を曝け出す。  (うわ…気持ち良さそう…良かった)  「っ、リョウタ、っ、悪戯…しないでくれ」  「悪戯?」  「こんなの…っ、くっそ…」 泣きそうになるのが、幼く見えて、リョウタは早く解放してあげようと、自分のを触る時を思い出してゆっくり刺激する。  「っ…は、っ…リョウタ、っ…」  「気持ちいい?」  「ダメだ…っ、やめ…っ、っ」  「あ、そっか。パンツ脱がなきゃだよね」  「ちがっ…!っ、あぁ、もう…っ」  リョウタが刺激しながら、下着ごとスウェットを下ろした瞬間、サキの体が跳ねて、リョウタの顔に温かいものがかかった。  「はぁ、っ、はぁ、っ…」  「さ、サキ…」  「っ!?ごめ!!ごめん!!」  しばらく放心していた2人は目が合うとサキが顔を真っ赤にして慌て始めた。タオルやティッシュでリョウタの顔を拭き、泣きそうな顔で謝った。  「最悪…っ、本当にごめん、だから、ダメって…もう嫌だ」  落ち込んでしまったサキに、なんと声をかければいいか分からない。ただ黙っているのも可哀想と思い、回らない頭で何とか口を開いた。  「じゃ、じゃあ次は俺のでおあいこな!」  「へ?」  「…あ!ちがう!そういう意味じゃ無くて、サキだけ恥ずかしい思いをさせたから…その!」  「いいの?リョウタに触っても」  サキの目がキラキラとひかる。じっと見つめてくる瞳には嬉しさが篭っている。 (この瞳が落胆に変わるのは嫌だ)  「う、うん。そしたらおあいこな!だから、恥ずかしいって思わなくていいんだよ!顔射には…びっくりしたけど…」  「リョウタも顔射してくれるの?」  「えぇ!?そ、そういうことじゃない!」  「してくれないの?…そんなの…おあいこじゃない…」  あからさまに落ち込むサキに慌てて、了承すると、ニヤリと笑った。  「言ったな?約束守れよ」  「お、お前!演技か!?」  鼻歌でも歌いそうなほどご機嫌になったサキに安心して、苦笑いした。  (可愛いやつだなぁ…)  サキからは、「リョウタが好き」という気持ちが溢れ出ていた。リョウタは少し照れくさく思うところもあるが、味わったことのない幸福感だった。逐一ハルに相談してはアドバイスを貰ったり、レンに揶揄われたりして、不器用なりに一生懸命恋をした。  「なぁ?リョウタぁ」  「んー?」  「サキ兄のどこがいいのー?」  鍛錬のあとにユウヒがぶっきらぼうに聞いてきた。口を尖らせて首にかけたタオルをギュッと握っている。  (ユウヒ…緊張してる…?)  「サキは優しいから」  「俺…は…優しく…はない…けど…」  「ユウヒも優しいよ」  ふふっと笑うと、嬉しそうにこちらを向いた。  (ユウヒはアサヒさん似だな)  初めはアイリが少しアサヒに似てると思っていたが、成長するにつれて、ユウヒはアサヒにそっくりになってきた。  「じゃあ俺も可能性あるってことだな」  「可能性?」  「リョウタをサキ兄から奪う」  「へ?!」  「リョウタが好き。もう、我慢しない。もう失いたくない。自分の気持ちは伝えないと…いなくなったら…後悔しかないから。」  真剣な顔に息を飲んだ。有無を言わさない言い方、どこか高圧的な視線は父親と瓜二つだった。  「ガキだって、今は思っててもいい。でも、覚悟しといて」  (覚悟?)  「俺はリョウタを抱くから」  「はっ!?ちょっと、何言ってんの!」  思わず真っ赤になってしまう。朝のことも思い出して、顔が熱い。  「色々経験して、リョウタを喜ばせるから」  「ど!どうしたユウヒ!エッチな動画でも見たのか!?あれは!大人じゃなきゃ見ちゃダメなんだぞ!?分かってんの?!」  「さぁねー?」  面白そうに笑う顔は純粋無垢な子どもなのに、と不安になった。  「じゃあ…ユウヒ、彼女できた?」  「は?彼女?いないよ?だって俺、リョウタが好きだもん。今告白したんだけど」  「あ、ありがとう。…じゃなくて!なんか、雰囲気違うから…」  リョウタは心臓がバクバクするのを抑えて、この大人びた顔をするユウヒを見つめた。 「…綺麗なお姉さんに教えてもらった」  「え!!!?」  「何回も声かけてくるから…。んで、学校帰りに雨降ってきて、そのまま歩いてたら、風邪ひくからってお部屋に連れてかれて、制服洗ってもらった。」  なんでもないように話すユウヒに、心臓がうるさい。  「え?っ、え?」  「お風呂借りてたら、お姉さんが入ってきて…触ってって言うから触って、そしたらお姉さんも俺に触ってきて…なんか喜んでた。」  「い、いつ?!」  「この間…。サキ兄とリョウタがくっついて1週間後くらいかな…大雨の日あったでしょ?その時。」  その日を思い出すと、何でもないように帰ってきたユウヒしか思い出せない。  「泊まってほしいって言われたけど、父さんに言ってなかったし、ハル兄やカズ兄にも心配かけると思って走って帰ってきたんだ。でも、眠くて仕方なかった。まだ体力ないんだなぁ…」  リョウタは唖然と口を開けたままだった。知らないうちに大人の階段を登っていたユウヒに何も言葉が出てこない。  「2回くらいでへばらないように体力つけねーと!リョウタも体力あるから満足させなきゃだし。」  「ダメだ!混乱する!俺の知ってるユウヒじゃなーい!!」  「え?ごめん、こんな話嫌いだった?子どもじゃないと思ってほしくて…」  落ち込む姿はやっぱり可愛いユウヒなのに。  「ユ、ユウヒ、中出ししてないよね?」  「出してって言われたもん」  「バカじゃないの!?その人が妊娠したらどうするの!?」  「え?妊娠すんの?」  「バカ!アサヒさんに言わなきゃ!早く!」  リョウタはユウヒの手を引いて、アサヒとミナトの部屋の前に立った。  (う…。勢いで来たけど…。緊張する。そういえば近づくなって言われてた…。) 「…何でずっと立ってんだよ?父さんにチクるんだろ?」  「き、緊張するに決まってるだろ!もう、羨ましいな!何も考えないでいいんだから!」  リョウタは息を吐いて小さくノックした。  ガチャ  「わぁ…特攻コンビだ…珍しいね。」  気怠そうなミナトがドアを開けてくれた。ミナトの色気に、リョウタとユウヒの2人は顔が赤くなって下を向いた。  「お?どした?ユウヒ」  後ろからアサヒが出てきた。こちらは普通だったので情事中を邪魔したわけではないと知り安心した。  「知らない。リョウタが父さんに話があるって」  「知らない、じゃないでしょ?!」  「まぁ…入って」  ミナトは眠そうに2人を入れた。  たくさんのモニターと各国の新聞や資料が積まれた部屋で、アサヒが適当に場所を空けて2人を座らせた。ユウヒも初めて入ったのか、キョロキョロしている。  「アサヒさん、簡単に言うと、ユウヒがパパになる可能性が」  「はぁ!!?」  「ならないよ。リョウタ、何言ってんの」  ユウヒは不貞腐れて唇を尖らせた。アサヒはどういうことだ!?とブチ切れていてリョウタは怯む。ミナトは興味深そうにアサヒの隣に座った。  「女性とその…シたと言う話を聞いて…」 「ユウヒ?本当か?」  「何だよ!みんなして説教かよ!お姉さんが勝手に!」  「誰だそいつ。知り合いか?」  「知らない。でも、入学してから帰り道にいつもいる。よく声をかけてくれる優しくて綺麗な人だよ。この間は大雨で濡れて、風邪ひくからってお部屋に行ったんだ。そしたら…お風呂で触ってきたり、ベッド行って上に乗ったりして…中で出してって言うから…」  ユウヒは何が悪いんだ、とアサヒに全てをしゃべった。ミナトは話を聞きながら、その人物を特定した。  「…どこの組織にも入ってない人だね…。単純にユウヒが好みだったんじゃない?」  「クソ女が…俺の宝物に手ェ出しやがって」  殺す、と指をパキパキ鳴らすアサヒにユウヒが慌てて止める。  「ユウヒ!いいか!この女は変態だ!二度と喋るんじゃねーぞ!あと、女に中出しはダメだ!責任とれないだろ?」  「責任て…?」  「男が女とセックスしたら子どもができんだよ。お前、あの人との子どもがほしいのか?」  「いやだ!欲しくない!俺、知らなくて!」  ユウヒはやっと理解したのか泣きそうになってどうしようとアサヒに抱きついた。 「どうする?」  「警察に情報を流す。うちの可愛い子に手を出した奴は許さない」  「父さん!俺も逮捕されるの?」  「お前は被害者だ。お前は父さんが守る。だーけーどー!」  ゴチン!!  「痛ぁああ!」  「誰にでもついていくなって言っただろ!相変わらずバカだな!!お前何回誘拐されてんだよ!いい加減学べ!!」  「うっ…だって…だって…」  「世の中優しい人ばかりじゃないんだよ。お前の命を狙ったり、お前とイイコトしたい変態な輩がウロウロしてるんだ。お前は人を信用しすぎる!信用するのは仲間だけでいいんだ」  「だってぇ!だってーっ!俺、あの人が触ってくるって思わなくて…」  「口答えするな!!!」  アサヒの怒鳴り声とユウヒの泣き声に、廊下が騒がしくなる。きっとハルとカズキが心配しているのだろう。  「なんで、っ、俺ばっかり!変な人ばっかり近付いてくるっ!っ、ぅ、っー。」  「お前が可愛いからだよ…。ごめんな、言いすぎた。知らない女とシて怖くなかったか?」  「ううん…っ、怖くなかった、っ、びっくりするぐらい、っ、気持ちよかった」  泣きながら素直にそういうユウヒに、アサヒとリョウタは固まった。 「あははっ!さすがアサヒの息子」  「ミナト、どういう意味だ」  「なんでもなーい」  ミナトはクスクス笑い、アサヒはバツ悪そうにユウヒを抱きしめた。  「モテる男は辛いなー?なぁ、ユウヒー?」  「だれかれ構わず受け入れちゃうのは遺伝かなぁー?」  「ミナト、そろそろいい加減にしろよ」  「どっちが」  笑っていたはずのミナトはこちらを恐ろしく冷たい目で見た。人を殺しそうな目に、リョウタは部屋を出たかった。  「ユウヒ、とにかく、セックスは好きな人としかしなきゃダメなんだ。」  「そうなの?」  「へー?そうなんだー。」  「ミナト!」  ミナトとアサヒは何かあったのか、ミナトがすぐに突っかかっていた。  「じゃあ、リョウタとしかしちゃダメなんだね?」  「えーっと。リョウタはほら、もうサキのだから…。」  「好きな人としかしちゃダメなのに、リョウタと出来なかったら、俺、気持ちよくなれないよ?またセックスしたいっ!」 アサヒは頭を抱え、リョウタは下を向いたまま、ただ静かにしていた。するとミナトが立ち上がり、アサヒからユウヒを取る。  「僕もいるからいつでもおいで?」  「え?」  ユウヒはアサヒを恐る恐る見た。すると般若のような顔でミナトを見るアサヒ。  (「ユウヒ!出よう!」)  ユウヒに合図すると、ユウヒはコクコクと頷き、ドアに向かった。  「待てこら!」  「ひぃい!父さんごめんなさい!ごめんなさい!」  「好きな人と以外ヤるな!分かったか!?」  「はい!」  勢いよくドアを開けると、ハルがユウヒを抱きとめた。ユウヒはわんわん泣きながらしがみついた。  ユウヒの童貞卒業の話は、ハルとカズキを呆然とさせた。

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