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第24話 痴話喧嘩
ユウヒの大人の階段事件から、アサヒとミナトは険悪ムードになった。アサヒは恐ろしいほどニコニコしているが、目が笑っていない。一般人を装う為に勤めている会社で業績が上がったことを楽しそうに報告するも、ミナトが水を差す。
「目立ってたらカモフラージュの意味ないんじゃない。」
「あぁ?」
「何のためにやってるのか確認しただけ。いちいち怒らないでくれる?疲れるんだけど」
「お前こそいちいち突っかかってんじゃねーよ」
バチバチの2人を止められるのは、意外にもこの人だった。
「アサヒさんすげーよなぁ。仕事も出来るし、強いし。…だから、ミナトさんも不安になるのは仕方ないよ。」
レンがハルの食事を食べながら、何でもないように言う。
「一般人がアサヒさんをほっとくわけないって思うのは普通だよ。」
「そんなことねーよ。うまく…」
「そうかもしれないけど、俺達は外の世界を部分的にしか知らない。必要な情報以外は無知だ。…不安にさせたくないならさ、ミナトさんを外に出したらいいじゃん」
「ダメだ!それはダメだ!他のやつにミナトを見せることはありえない。」
興奮するアサヒにも、レンは相変わらずしれっとしている。
「…ほら、アサヒさんがそうさせてるんだから、ミナトさんを甘やかしてあげるのは、アサヒさんしか出来ないんだよ?何か不安になるようなこと、したんじゃないの?」
「う…」
「レン、いいよ。いつもありがとう。治らないよ、これはビョーキだから。」
ミナトはレンに微笑んだ後、アサヒを冷たく見た。
「僕にも、僕の意思がある。」
「ミナト…」
「所有物だと思わないでね?」
食卓を後にするミナトの手を引いて、アサヒが強く抱きしめた。
「ごめん。誤解だよ。」
「……」
「あれは、お得意さんと、上司で…」
「違うよ。あの人は財閥の娘さん。再婚の見合いでしょ?」
ミナトの言葉に、ユウヒとアイリが泣きそうな顔でアサヒを見た。
「お父さん!?アイリはいらないよ!新しいお母さんなんて!!」
「俺も!!母さん以外は嫌だよ!!」
分かってるよ…と、大人しくなったアサヒ。
「綺麗な人。素行もよろしい。家系も素晴らしい。非の打ち所がない素敵な人だね。」
「ミナト…」
「父さん!俺は、今のままがいいっ!」
「アイリも!ねぇ!いい子にするから!」
レンは静かにコーヒーを飲んだ。サトルも静かに様子を見て、ハルは聞かないふりして洗い物をしている。
「もちろん、お断りしたよ。…保留にされたけど。」
「俺が出ようかー?」
レンは頬杖をついてアサヒを見た。
「あの子なら落とせると思うけど。」
「レン…お前…」
「情報、回ってますよー?アサヒさんが再婚するらしいって。」
アサヒは両手を上げて、レンに苦笑いした。
「悪い、頼んでいいか?」
「全く…。1人で解決しようとしないで下さいよ。1人で出来ることって限界がある。たくさん根回ししてもダメだったんでしょ?相当好かれてるじゃないっすか。罪な男ですねー、相変わらず」
レンはアサヒの努力も知っていて嗾けたようだった。アサヒは疲れたように腰掛け、ため息を吐いた。
「心配かけたくなかったんだよ、誰にも」
「仕方ないっすよ〜。色男を世の中がほっとくわけないっしょ。…どうやったって、コトが大きくなる星の元に生まれてるんだから、割り切って頼ってよ、ね、ミナトさん」
「助けを求めてくれたら、すぐ動けるようにしてるのに…。頼りないのかな、とか、再婚したいのかな、とか不安になった。」
ミナトがポロポロ話す言葉に、アイリとユウヒは目を合わせて、ふふっと笑い、ハルはカステラを配り、ドリンクを注いだ。頭をかきながら、アサヒは素直に、悪かった、と頭を下げた。
「疲れてんだよ、みんな。糖分とろう」
アイリとリョウタが瞬時にフォークを取ると、全員が笑った。
「ハルさん、俺のカステラは?」
「あ、数間違えた?…ん?ちゃんと…」
隣のサキが悲しそうな顔をして胸が痛んだ。
「リョウタ!お前ついに人のモノまで!」
「ごめんなさい!手が勝手に!」
「リョウタ…美味かったか?」
「うん!」
サキの問いかけに笑顔を見せると、力が抜けたように笑った。
「全く!ほら、サキにはティラミス。まだ試作品だけどな」
「っしゃ!」
「いーなー」
サキは嬉しそうに食べ、リョウタが見つめてくるのを喜びながら完食した。
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