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第25話 参観日

リョウタがトレーニングに向かおうとすると、珍しくハルがスーツを着ていた。  「あれ?ハルさん?どこか行くんですか?」  「アイリの参観日。アサヒさんは打ち合わせが抜けられないみたいで…。アイリがどうしても来てってな。」  堅気に見える?と不安そうなハルに、苦笑いした。かなり如何にも感が出ていた。  「待て待てーい。ハルさん、まさかそんな格好で外でねーよな?」  寝起きのレンが慌てて指摘した。  開襟したシャツから見える金のネックレス。黒とグレーのストライプシャツと、深いグレーで光沢のあるスーツ。髪は上げられ、ピアスはいつも通り。  「何時から?」  「11時だ。午前中で学校も終わるから、昼はアイリとファミレスに行く予定だ」  「ダメだ、誘拐だと通報されちまう!」  レンは走って部屋に行き、スーツケースをたくさん持ってきた。それを広げると沢山のウィッグや服、アクセサリーがあった。  「シャツはこれ。」  「じ、地味すぎないか?」  「アサヒさんみたいにシンプルな格好でいいの!学校行くのに何気合い入れてんだよ」  「アイリに恥かかせるわけにいかないだろ?」  「だったら尚更だ!はやく!」  シャツを脱ぐと、背中や腕に沢山の刺青があって、リョウタは驚いて息を飲んだ。ハルがどんなに暑い日でも長袖だった理由を知った。レンは見慣れているのか、何でもないように指示していく。  「ネクタイは嫌だ」  「分かったよ。あ、こら、ボタンとめて」  「苦しいんだよ」  「だーめー!」  髪型もオールバックを崩し、いつも通りのナチュラルにセットされていた。なんとか「普通っぽい人」を作り上げたレンは手を叩いて喜んでいた。こうしてみると、ダンディなお父さんという感じだった。  「ハルさんイイよ!男前だ!カッコイイ!なんか悔しいな、腹立つ!」 「こんな地味で…アイリ、ガッカリしないかな」 「アイリは本当ハルさん好きだよなぁ。俺に言ってくれたらいいのに」  「お前が行くと、サトルもセットになるからだろ。」  ハルは着心地悪そうにしていたが、時計を見て慌てて出て行った。 「あっはは!可愛いよなぁハルさん!あれでどこかの幹部成り立ってたのかねー?」  レンはケタケタ笑って、写真を撮り忘れたことを悔やみ、1人で大騒ぎしていた。 (レンさんは嵐のような人だ…)  リョウタはそんなレンを置いてトレーニングに向かった。  「アイリは本当、いいオンナだよなぁ」  泣き笑いするレンの呟きは、誰もいないリビングに響いた。 『ハルちゃんの小さい頃は、参観日に組長さんが来てくれたんだって!だから、ハルちゃんは参観日だけはちゃんと教室に入って、頑張ってる姿を見せてたみたい。アイリも頑張ってる姿、ハルちゃんに見せたいんだ!いつもそばにいてくれるもん!』 アサヒに話しているのを廊下で聞いたレンは、ハルが変に気張ることを想定して早起きしたのだった。  (アサヒさん、俺、イイ仕事するでしょー?給料上げて貰おう)  ニヤニヤした後、寂しそうなアサヒの顔を思い出した。  (仕方ないっすよ。アサヒさんは精一杯やってます。)  言わないけど、心の中で慰めた。  ここの住人は、自分を含めて訳ありばかり。  特に、巷で最強と云われる桜井アサヒは、ここの住人が耐えられるはずはないほどの苦労人だ。  (ユウヒやアイリ、そしてミナトさん。アサヒさん1人じゃ足りないっすね)  いっそ分身でもできればいいのに、なんて妄想しながら、アサヒのギリギリの精神状態を危惧した。  (正直、あの人は限界を超えて麻痺してる。忙しいこと、他人を優先するところ、危なっかしすぎる。…ミナトさんもそれで不安定だし。)  どうしたもんかね…と作戦を練る。調整するのが己の仕事。うまく丸く収める。サトルとリョウタが帰ってくる前に整理しようと、目を閉じた。 

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