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第26話 愛のかたち

リョウタとサトルがトレーニングから戻ると、ご機嫌のアイリと、目が潤むハルが2人で仲良くケーキを食べていた。リョウタはケーキに目を輝かせたが、一つしかないと言われ、落ち込んだ。  「アイリが頑張ったからご褒美だ」  「美味しい〜!幸せ」  最後の一口を羨ましそうに見つめたリョウタは肩を落として風呂に向かった。  ケーキのことを考えながら、風呂から上がると、ハルはぼんやりと紙を見つめていた。  (作文…?)  アイリの字の作文。それは、日頃の感謝を伝えるモノだった。  「おお、リョウタ。簡単なモノだけど、フレンチトースト作っといた」  「うわぁぁああ…嬉しいっ」  「ははっ!…見ろよ、アイリから。こんな嬉しい作文読まれてさ…教室で泣いちまった。歳だな…涙腺がゆるゆるだ。」  ずっと作文を見つめ続けている。  「他はお母さんばかりだったけど…アイリは元気よく発表してくれた。周りのお母さんたちももらい泣きしていたよ。」  「愛情が伝わっていますね!」  「こんな嬉しいことないよ。…俺も昔、組長に来てもらったことあるよ。あん時思い出したなぁ。恐い組長が涙流してさ。俺のめちゃくちゃな作文を喜んでくれた。こんなに嬉しかったんだろうな」  目が潤むハルを見て、フレンチトーストを食べる手が止まる。 (いいな…羨ましいなぁ)  「リョウタ?」  「っ!」  「どうした?口に合わないか?」 「いや!美味しすぎて!」  「ははっ!可愛いやつ!」  幸せそうなハルにつられて、リョウタも微笑んだ。 アサヒが帰ってきて、アイリの作文を読んで頭を撫でて喜んでいた。アイリは嬉しそうにアサヒに抱きついて、スーツを握った。  「お父さんには、お手紙書いたの。誰にも内緒だよ?」  「っ!…アイリ…」  「えっへへ!サプライズ!」  「…誰の入れ知恵かな。…ありがとう、父さん泣いちゃうかも」  アサヒは部屋のドアに貼られたメモを見て吹き出した。  『アサヒさん、昇給期待してます☆レン』  「全く…嫌なとこ気付くよな…こいつ」  アサヒはクスクス笑いながら、そのメモも大事に畳んだ。  ガチャ  部屋からミナトが出てきて、リビングにやってきた。レンが走ってきてミナトに声をかけた。 「あ!ミナトさん!アサヒさんは?」  「号泣中〜」 お水を飲みながら答えたミナトに、リビングにいた全員が花が咲いたように笑った。  「アサヒさんもたまにはデトックスが必要ですよね!」  「本当にね。いろんなもの背負いすぎ。」  「アイリのラブレターで泣いてるお父さん見たーい」  「ブサイクだよ。そっとしてあげて」  ミナトはそう言った後、しゃがんでアイリと目線を合わせた。  「アイリ。お父さんの1番は間違いなくアイリとユウヒだよ。忘れないで。」  「違うよ…父さんは…」  「ううん。アイリとユウヒがいるから、頑張れてるんだよ。だから、これからも応援してあげて。いっぱい甘えてあげて。これが、お父さんへの癒しだから。」  ミナトが頭を撫でると、アイリの目がうるうるとしてきた。  「僕が独り占めしてるから…不安だったよね?ごめんね。」  「ちがうよ、ちがうの」  「僕も、アイリとユウヒが大好きだよ。これも、忘れないで。」  ミナトはニコリと笑うと、アイリがミナトに抱きついて大声で泣いた。  「アイリ、我慢させてごめんね。僕はもう落ち着いたよ。」  「ちが、っう、アイリも、っ、ミナトさん好きだよっ、だいすきなの」  「ありがとう」  「ハルちゃんが、来るまで、ずっと抱っこしてくれてたってお父さんが言ってたもん。寝かしつけながら、お仕事してたって。一緒に絵本読んだのも、遊んでくれたのも覚えてるよ」  「懐かしいね。大きくなったね。」  ミナトはアイリを抱き上げた。  「アイリはお母さんに似て、とても綺麗だ」  抱き合う2人は親子みたいだった。リョウタはもらい泣きしてわんわん泣いた。ハルに呆れられながらタオルをもらい、そのタオルはハルと半分こして使った。  「今日からは、お父さんと一緒に寝てあげて」  「ミナトさん…」  ハルが心配そうにミナトを見る。  「そばにいてあげて。」  それだけ言って、部屋に戻っていった。アイリはどうしていいか分からないようでハルを見た。  「アイリはどうしたい?」  「アイリは…」  頭の良いアイリは、誰がどう動けばいいかを頭で考える。きっと、アイリは自分が我慢することを選ぶだろう。  「アイリは今のままでいい」  「うん。本当は?」  ハルが優しく問いかける。するとアイリは唇を噛み締めた。  「分かんないよぉ、分かんない」  「どうした?アイリ、泣いてんの?」  ユウヒが部屋から出てくると、今度はユウヒにしがみついて泣いていた。ハルが話すと、呆れたようにアイリを抱きしめた。  「お前さー、俺もいるのに父さんも一緒がいいのかー?欲張りだな」  「ぅっ、うっー」  「アイリはいろんな人独り占めにしてるくせにさぁ。末っ子め!母さんに、父さんに、ミナトさんに、ハル兄、カズ兄…あげたらキリがねぇよ」  「お母さんも?」  「あったり前だろ?覚えてないだけ。任務にも連れて行こうとして、父さんに叱られてたしな。」  ユウヒは懐かしそうに笑った。  「俺が泣いてもさ、お兄ちゃんでしょ、で終わるのにお前は泣けば一緒にいてもらえただろ?羨ましいよな。」  そうなの?とアイリは驚いたようで涙が止まった。ユウヒは床に胡座をかいて床を叩いた。アイリは隣に座ってユウヒを見つめる。  「アイリはみんなのお姫様だよ。こんなに愛されてるの、世界中でお前くらいじゃないの?天才だし腹立つ。」  「天才じゃないもん。」  「うるせー。じゃあ30点くらいとってみやがれ!」  ユウヒはニカッと笑い、リョウタを見た。  「リョウタもバカそう」  「なんだと!?60点くらいはとってたよ!」  「えっ!?マジか!カズ兄に教えてもらうからリョウタを超えるもんね!」  「くそ!カズキさんを出すのは卑怯だぞ!」  急に始まった言い合いに、アイリはきょとんとした後、いつものように笑いはじめた。リョウタとユウヒはどんどんヒートアップして、最終的にハルに怒られた。  「泣いたら眠くなっちゃった。…ハルちゃん、抱っこ」  「おい!甘えんな!自分で歩けるだろ」  「ユウヒ、お前もおぶってやろうか?」  「ば、バカ!ガキじゃねーよ」  アイリはハルに抱っこされて部屋に行った。ユウヒが振り返ってリョウタの前に来た。  「ごめん、アイリを笑わせたかったから。バカだとは思ってないから」  「はは!いいよ。バカは本当だし。悔しかっただけだよ」  「…本当はアイリが寂しいの、分かってる。よく泣いてるから。でも、父さんを癒すのは、ミナトさんだから。きっと父さんは、アイリを見て余計に辛くなると思うんだ。母さんにそっくりだし。だから、これでいいんだ。」  自分に言い聞かせるように呟くユウヒに切なくなって、そっと抱きしめた。この小さな身体でたくさんのものを押し殺していた。  「ユウヒはいいお兄ちゃんだね」  「嬉しくねー」  「素直じゃないなぁ」  「俺は、リョウタにお兄ちゃんて褒められても嬉しくない。」  真剣な眼差しに、うっ、と固まる。先ほどまでの切なそうなユウヒはどこにもいない。目の前にいるのは、男のユウヒ。  「待って、ユウヒ」  「待たない」  後ろにジリジリと下がっても距離を詰めてくる。綺麗な顔が一気に近づいてきた。  「待っ…ンッ!?ンッ」  優しいキスに顔が熱くなる。ダメなのに、と抵抗するも抑えられる。  (何で、こんな力!)  「おい。」  ビクッ  「…あぁ。サキ兄。ごめん、つまみ食いしちゃった」  「何のマネだ」  「ん?サキ兄のマネ?」  べ、と舌を出してルンルンで部屋に行ったユウヒを唖然と見送る。  「リョウタ」  「は、はいっ」  「来い」  「は、はいっ」  怒りのオーラが出てるサキにビクビクしながら、唇を指でなぞった。  (ユウヒがいつの間にか大人に…)  思い出せばドキドキしてしまうのを、首を振って振り払った。 

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